15

 穏やかな日差しが差し込み、すっかり暖かくなって花はその蕾を膨らませていた。

こんな日は広い芝生の庭でゆっくり昼寝でもしたい。そう思うがそんな事は許されない。

ハルヤは眠い目を擦りながら朝から裏庭で洗濯をしていた。


「イリーナさん、グンター様からの伝言です」


 振り向くとそこにはカーラが立っていた。びしょ濡れになった手を震わせ水切りをしながらハルヤは立ち上がった。


「グンター様が急な御用で届けて欲しい物があるとの事です」


ハルヤは洗濯を中断して、洗濯桶を持って急いで屋敷に戻る。

ハルヤには「急な御用」が何であるか分かっていた。

 一旦自室に戻り、カーラから貰った本や地図、鏡や櫛、更にグンターから貰ったアクセサリーを馬小屋掃除の時の布でぐるぐる巻きにして、グンターの部屋に向かった。

途中、食器の沢山乗ったワゴンを押して歩いているカーラに会った。

ハルヤは立ち止まり、すぐに戻るから心配しないで欲しい、と伝え最後に「ありがとう」と言ってカーラと別れた。

窓越しに外を見やるとハンネスがいた。大きな鋏を持って歩いている。庭木の手入れだろうか。

さすがに声をかける事は出来なかったが、ハルヤは小さな声で「またな」と言った。

 グンターの部屋は無人で、入ってすぐの床に大きな袋が置かれている。何かのメモが付いていたが、残念ながらハルヤは読めなかった。

ハルヤが袋を開けて中を覗いてみると、衣服が入っていた。

衣服を広げて見ると、シックなボルドーのワンピースと白いインナーだった。これを着ろという事か。

滑らかな手触りでいかにも高価そうだ。着替えてみると、床を引き摺ってしまう位にスカートが長い。

ハルヤは急いで周囲を見回した。歴史ある美術品だろうか、美しい装飾の施された短剣が飾ってある。

それを手に取ったハルヤはスカートの裾を思い切りよく、自分の足元が少し見える位にまで引き裂いた。

靴も入っていた。立派な黒いミドルブーツで、いつ調べたんだろうと思う位サイズはぴったりだ。

そして黒いローブ。漆黒と言っていい深い黒のローブだった。顔が隠せるような大きなフードが付いていた。

 ボルドーと黒の組み合わせとはなかなかオシャレだな、と感心している場合では無い。

短剣を元の場所に戻し、急いで着替えた。エッダとドリスに感づかれてはまずい。

衣服の入っていた大きな袋にメイド服と布に包んできた物を入れて、玄関へ急いだ。

 玄関には幌付きの馬車がすでに待っていて、ハルヤはフードを深く被って顔が見えないように手で押さえながら、馬車に乗り込み御者に出発するよう促した。

行先はハルヤは知らないが、御者が知っているはずだ。

勢いよく動き出した馬車の出来るだけ奥の方に座り、下を向いて外を眺めないようにした。

馬車はどんどん加速していった。

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