14
ハルヤは熱も下がりすっかり元気になって仕事に戻った。
戻るとすぐにグンターからの呼び出しがあった。昨夜の話のせいもあってか、ドリスの視線を強く感じながら足早にグンターの部屋に向う。
部屋の前でペンダントを身に着け、扉をノックすると、グンターはとても嬉しそうな顔をしてハルヤを迎え入れた。
ハルヤはグンターが治癒の魔術師を呼んだ事をカーラから聞かされていた。
まずは深々と頭を下げて謝意を表す。グンターは元気そうなハルヤを見て安堵の表情を浮かべる。
「君に似合うかと思って出先で買ってきたんだ」
そう言ってグンターはまた小さな箱を取り出した。
ハルヤはグンターの方に歩み寄り、今度は前回と打って変わって少し恥ずかしそうに笑みを浮かべながら、小さく頭を下げる。
そしてグンターの手の上に乗っている小さな箱をそっと両手で包むように受け取った。
その際、ハルヤの手はグンターに僅かに触れた。しかし、偶然触れたのでない。ハルヤは意図的に触れるようにしたのだ。
「開けてみてもよろしいでしょうか」
そうお伺いし、ハルヤは手の上でそっと箱を開けた。
中にはイヤリングが一組入っていて、きらきらと輝く青い宝石が付いてる。
ハルヤは照れ臭そうに微笑みながら、小さく頭を下げ「ありがとうございます。大切にします」と謝礼を言った。
グンターはそんなハルヤを見てとても満足そうな顔をしていた。
「グンター様は、乗馬がご趣味なのでしょうか」
唐突にそんな事を聞かれたグンターは少し驚いたが、すぐに答える。
「ああ、そうなんだ。今度乗ってみるかい?」
ハルヤが小さく頷くと、グンターはとても嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「敷地内をぐるぐる回るだけでもきっと君に喜んでもらえると思うよ」
「いえ、敷地内ですと人目に付きます。グンター様とわたくしの立場上よろしくないかと思います」
グンターはそう言われてうーんと唸ってしまう。確かにそれもそうだ。
「出来るならば、敷地の外でご一緒したいと思います」
「一緒に出掛けると怪しまれますので、別々の馬車で時間をずらして行くのはいかがでしょう」
うん、そうだね、そうしよう。グンターはハルヤの意見に同意した。
「そこでお願いがあるのですが」
ハルヤは顔を上げて真直ぐグンターの目を見た。グンターはその宝石のような翠色の瞳に飲み込まれそうだった。
「わたくしがメイド姿のままで出かけるのも、その姿で乗馬するのも周囲に怪しまれるかと思います」
「ですので、簡単な衣服と、顔が隠せる目立たないローブを買って頂きたいのです」
「大変厚かましいお願いかと思いますが、わたくしはグンター様にしか頼れないのです」
グンターは快く了承した。ハルヤは心の中で「上手く行った」と思いながら、小さく頭を下げた。
乗馬する日は天候などもあるので、グンターが決める事にした。当日はグンターがカーラを経由してハルヤに「急な使い」を指示する。
カーラだけを経由するように特にお願いした。他が知れば妨害してくるだろう。
別々の時間帯に出発し、シャーゲル家の敷地を出てしばらく進んだ所で落ち合うという事にした。
「とても楽しみにしています」
ハルヤはそう言って目を伏せて恥ずかしそうな顔をしながら、グンターの手をそっと握った。
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