建物の扉が勢いよく開いた。ハルヤとハンネスは扉の方を一斉に向いた。

そこには気の強そうな細身の中年女性と、同じく気の強そうな少し若い女性、最後に気の弱そうなかなり若い女性の三人が立っていた。

三人共に肌の露出のない、足まで隠れる長いスカートに長袖の服を着ていた。色は暗いネイビーでかなり地味な印象だった。所謂「メイド服」だ。

三人共に綺麗な金色の髪をメイドらしく頭の後ろで束ねていた。

そういえば、ここへ来る途中見た小綺麗な人々も皆金色の髪だった。三人を見てハルヤはふと思い出した。

 中年女性が一歩前へ出て強い口調で話し始めた。

「私はこのシャーゲル様のお屋敷のメイド長、エッダです。後ろの二人はメイドのドリスとカーラ」

その容姿に違わず気の強い話し方だった。ハルヤも自己紹介しようと思ったが、その隙も与えずにエッダは続けてきた。


「あなた達の名前を教えなさい。まずは大きい方」


そう言って尖ったキツイ目つきでハンネスの方を見た。


「俺は19、じゃなかったハンネス」

「小さい方」


エッダはハンネスの返答に何のリアクションもせず、間髪入れずにハルヤの方を見た。大分せっかちさんだ。

ハルヤは自分の名前を言おうとしたが、思い留まった。

「ハルヤ」は男性名だ。この世界でも男性名と女性名があるのかどうか分からないが、何か適当にそれっぽい偽名を使ったほうが良さそうな気がした。


「イリーナと申します」


ハルヤはそう答えた。「イリーナ」もゲームの登場人物の名前だ。

 エッダは眉間にしわを寄せながら続けた。


「貴方達はシャーゲル様に買われた奴隷です。ですが、シャーゲル様は寛大なお方です。奴隷にも適切な処遇をお与えになられます」

「シャーゲル様は奴隷や貧民の地位向上に尽力されている立派なお方です。感謝しなさい」


エッダはそこで深いため息をついた。

続けて猛烈な早口でエッダは一方的に話す。


「ハンネス、貴方は庭の手入れや荷物運び、かまどの火焚きなどをやってもらいます」

「イリーナ、貴方は下級メイドとして私たちの仕事を手伝ってもらいます」


エッダは更に眉間にしわを寄せた。


「まずはその汚い格好をなんとかしなさい」

「カーラ、この者たちに水浴びと衣服を」


エッダは後ろを振り向き、一番若い気の弱そうなメイドに指示した。


「は、はい」


後ろに目立たず立っていたカーラは、か細い声で答えた。

エッダとドリスはすぐに踵を返し、出てきた扉から屋敷の中に入った。

 丸顔に大きなたれ目、濃いブラウンの瞳。たぬき顔とでも言うのだろうか。

そんなカーラに案内されて、ハルヤとハンネスは庭の端にある井戸へと案内された。

まさかの屋外で脱げという事だろうか。

ハルヤは心は男性だが体は女性。よく考えてみると、自分自身の「女性の」体をよく見たこともないし、女性が屋外で全裸になるという事に強い羞恥心を感じた。

そんな事にハルヤが動揺していると、ハンネスはさっさと全裸になって水浴びを始めた。


「ごめんなさい。エッダさんにこう指示されているので。きっと臭いをお屋敷の中に入れたくないのです」


ハルヤの様子に気が付いたのか、カーラは気を使ってそう言った。

ハルヤは意を決して脱いだ。と言っても布一枚だけなので腰の紐を緩めるだけだ。

水は冷たかった。

 水浴びが終わると、全裸のまま先程の扉の入り口まで戻された。

カーラはそこで屋敷の中から綺麗な布を一枚ずつ渡し、体を拭くように促した。

続けてカーラはそれぞれに衣服を渡した。ハンネスには簡素なブラウンの長袖長ズボン。

ハルヤにはカーラと同じメイド服だった。

ハンネスの方は大きな体に比べて衣服のサイズが小さいようで、少し窮屈そうだった。

逆にハルヤは衣服の方が大きくて、まるで大き目の制服を着せられている中学一年生のようだ。


「ごめんなさい。小柄な女性と大柄の男性と聞いていたのですが、それしかないのです」


カーラは申し訳なさそうに言った。

それでも、ようやくまともな衣服を着る事が出来た。そして、簡素な物ではあったが靴も貰う事が出来た。

 さらに、カーラはハルヤの長い髪を束ねるように言ってきた。

勿論、ハルヤにそんな事出来るはずもなかった。こ

んなに長い髪は初めてだったからだ。

自分で髪を巻こうとしてぐるぐる髪を回しているハルヤを、カーラは見かねて自分の持っていた小さめの黒いシュシュを渡してきた。


「これで髪を纏めてください。簡単なもので構いません」


ハルヤはとりあえず頭の後ろにシュシュで髪を束ねた。

ポニーテールともローポニーとも言えない、なんとも中途半端な髪型だった。

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