日が傾いてきた。もうすぐ夜の帳が下りる。それと同時に気温が下がり肌寒くなってきた。

ハルヤの不安は増すばかりだった。見知らぬ場所で一人きり、何も守る物がない路上で夜を過ごす。

布一枚しか着ていない状態で夜の寒さに耐えられるのだろうか。夜はどの位冷えるのだろう。

不安になってきて身体を小さくして丸くなっていた。不安で泣きそうだった。

しかし、誰も助けてはくれない。

道行く人々に声をかければ良いのだろうか。しかしそもそも言葉が通じるのだろうか。突然殴られたり刺されたりしないだろうか。

そう考えると萎縮してしまって声をかける気になれなかった。

心細さでますます弱気になっていった。

 そんな状況でもお腹は空いた。夢の世界かと思っていたこの世界は、痛みと空腹でますます現実に思えてきた。

何か食べ物が欲しい。先刻通りを歩いた時には店舗のようなものもあった。どれも個人商店のような小規模な店舗で、野菜や果物、何の肉か分からないが肉のような物もあった。

しかし、もちろんお金は持っていない。通貨という物があるのかすら分からない。

それでも食欲には勝てなかった。痛みの残る足で立ち上がり、我慢してゆっくり歩き始めた。幸い足の出血は止まったようだ。

食べられる物なら何でもいい。どうにかして食べ物を手に入れよう。

一歩一歩踏み出す度に足にチクチク痛みが走った。

 通りを挟んで反対側に一件の店を見つけた。どうやら果物のような物を売っている。

ハルヤはしばらく通りの反対側で遠目に様子を見ていた。

どうやらお客がやってきたようだ。商品をいくつか物色した後、店の奥から出てきた中年位の年齢の店主と思わしき男性と少しばかり話した後、お金のような物を手渡しして商品を紙袋に入れてもらい去っていった。

どうやら商品の買い物の仕方はハルヤのいた世界と同じようだ。

ハルヤは少しほっとした。ようやく知っている世界と同じ姿が見られたからだ。

その後店主はまた店の奥の方へ行ってしまった。

ハルヤはそっと通りを渡り、店の前に並べられている果物をよく見てみた。

並んでいる果物はハルヤの知っている物とよく似ていた。リンゴ、オレンジ、イチゴ、キウイフルーツ。

ひとつ手に取ってよく見てみた。見れば見るほど同じに見えた。

 ハルヤは奥をそっと覗いてみた。店主の気配は感じられなかった。

リンゴとオレンジを一つずつ手に取った。そしてそのまま走りだした。

走り出してすぐに背後から「泥棒!!」という叫び声が聞こえた。店主だろうか。

いや、そんな事より自分が言葉を理解出来る事をこのときようやく知った。

ハルヤは振り向かずに全力で走った。その時もう一つ気づいた事がある。

自分は足がかなり速かった。以前の世界のハルヤは小太りで足は遅かった。遅いというよりすぐに息があがって走れなくなった。

細くて軽い体。気持ち良いくらいに素早く動けることに気づいた。

 しかし、全力で走れたのはほんの少しの時間だけだった。足の傷口が走った事でまた開いて出血してしまった。それと共に痛みも酷くなった。

すぐに走れなくなったが、足を引き摺りながらなんとか歩いた。

ハルヤは後ろを振り向いてみた。そこには鎧のような物を着た体は細いが長身の男と、小太りの身長の低い男の二人がいた。

長身の男は無言で一歩踏み込んでハルヤを手で捕らえようとした。ハルヤは軽やかに、いとも簡単にそれをかわした。

しかし、足を踏ん張るたびに痛みが走る。その都度動きが鈍ってしまった。

小太りの小さい方の男は小声で何やらぶつぶつと言っていた。そして両手を前へ勢いよく突き出すと、ハルヤの足元は何かに捕らわれたように動かなくなってしまった。

突然足元が動かなくなったハルヤは長身の男の手を避けようとした勢いがついていたために、その場に思い切り背中から倒れてしまった。

 背中に痛みが走る。受け身無しで倒れたせいで呼吸が一瞬止まり咳き込んだ。

それでも果物を離さなかった手は、長身の男の足で踏みつけられ、強く地面に押し付けられた。

長身の男はハルヤの手に足を乗せたまま屈み、その手でハルヤの首を強く抑えた。


「捕らえたぞ」


男はそう言った。

 ハルヤは両手両足をきつく紐で縛られ、両手を結ぶ紐についた長い紐で長身の男の手に引かれて歩かされた。

足の痛みと紐できつく縛られた痛み、そして盗みを働き捕らえられた惨めさでハルヤはずっと下を俯いたまま歩き続けた。目には涙が溢れていた。

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