3
「冷たい」
そう感じて目が覚めた。目を開けるとそこは石畳の上だった。石畳の上に顔の頬をつけて寝ていた。
顔の横を他人の足が通り抜けていく。我に返ったハルヤは飛び起きて、石畳の上に座った。
冷たく感じたのは石畳の上に寝ていたからだろう。頬にくっきり後が残っているかもしれない。
なぜ、こんな所に寝ていたのだろう。辺りをきょろきょろと見まわしてみた。
そこは全く知らない場所だった。石畳で出来た道路に今にも壊れそうな木造の建物が並んでいる通りだった。
そして目の前を通り過ぎる人々。彼らは路上に寝ていたハルヤに、まるでそこに存在していないかのように興味を持っていなかった。
通り過ぎる人々たちは奇妙な恰好をしていた。全身を覆うローブを着ていたり、簡素な鎧のような物を着ていたり、或いは水着のような露出の多い恰好をしていたり。ただ、共通する事は皆見るからにぼろぼろの服装だった。
足元が冷たい。ハルヤはそう感じて自分の足を見た。素足だった。
素足なら石畳の上では冷たいのは当然だろう。足元を見るために自分の体を見下ろす格好になったハルヤは、それよりもっと驚く事に気づいた。
着ている服は服というよりも粗末な薄汚れたベージュの布を身体に巻いただけで、腰の辺りで紐で縛ってあるだけの物。
そのため、素足なのは足元だけではなく膝から下は素足だった。
手も足も細く、手の平は小さい。いや、体全体が小さい。
そして下を向いた事で、鮮やかな銀色のさらさらとした長い髪が視界の端に入った。
あまりの事に思わず立ち上がり、全身を手で触ってみた。
身体は細く、華奢で背は小さい。癖の無い長い髪は腰上まであり、そして何より小さいながらも胸がある。
ハルヤはあまりの事に声が出なかった。
紛れもない女性だった。
目が覚めた時から何かがおかしいとは感じてはいたが、まさかここまでとは思いもよらなかった。
知らない世界に知らない体。
ハルヤは自分に何が起きたのかその場で目を閉じてじっくりと思い出してみた。
思い出す事は、胸が苦しくなり倒れる所まで。そこまではしっかり覚えている。
その後は目の前が真っ暗になって何も記憶していない。
自分が倒れている間に何かが起きた?
この体は誰か他人の体?
夢なんだろうか。いやきっと夢に違いない。そう自分に言い聞かせた。
自分に起きた出来事に茫然自失としていたハルヤだったが、ずっとその場に立っていても何も始まらない。
とりあえず歩いて通りを進んでみる事にした。もちろん、方角も何も一切分からない。どこに向かっているのかも分からない。
石畳の通りはそこそこ道幅はあるものの酷く痛んでいて、所々石が捲れあがっていた。広い石畳の通りから分かれる細い路地は赤茶けた土のままの道。
通り沿いにある建物は大小の違いはあるものの、みな茶色の木造の建物で、一様に壊れそうな古い建物ばかりだった。
中には屋根が捲れあがっていたり大きく穴が開いていたり、壁も剥がれ落ちて中が見えてしまっていたり。
窓はあるもののガラスは無く、窓を閉じるための戸が付いている建物もあったが無い物も多かった。
道行く人々は様々ではあったが、皆貧しそうに見えた。路上に座っていたり寝ていたり、生きているのか死んでいるのか分からない人もいた。
こんな状態じゃ道行く人々が路上で寝ているハルヤに興味を示さないのは当然だろう。
布切れ一枚だけを巻いて素足で歩いてる事にも特に驚かないだろう。
しばらく歩いたものの、足が痛くなって歩みを止めた。
片足も上げて見てみると、素足で歩いていたせいか皮がむけて血が出てきてしまっていた。
とりあえず歩くのを止めて、路上に座り込んだ。どうせ座っていても誰も気にしないだろう。
夢かどうか確かめるために頬を抓り痛かったら夢ではない、という定番の話を思い出した。
そんな話を信じていたわけではないが、足は痛かった。夢ではないのか?これは現実?
ハルヤは徐々に不安になっていた。
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