第11話 作戦会議

神那に戻った俺たちは、明日以降の計画を練っていた。


「ホムラの“村”付近の虚霊うつろはあらかた片づけたじゃろう。あとは“町”じゃが、恐らく今のホムラには“ぬし”がおる」

「“ぬし”…?上位種のことか?」


上位種とは、虚霊の中でも強く、特殊な能力を備えている個体を指す。

俺が最初に出会った虚霊が、この上位種になりかけだったらしい。


そもそも虚霊は基本となる5種類ほどしか存在せず、今日戦ったケンタウロスや四つ腕がそれだ。

特別な能力がなく、各種で見た目もほぼ同じなため区別がつかない。


これに対し上位種は、それぞれ個別の外見をしており、体の一部を変化させるといった特殊な能力を備えている。

そして、強い、圧倒的に。


しかし、ノラはまるで違うというように首を横に振る。


「わしが言っておるのは、そんな少し強い程度の雑魚ではない。“主”とは、今のホムラのような虚霊が凝縮された土地に現れる強力な個体じゃ。奴らの面倒な点はその強さだけではなく、じゃ。言うなれば、虚霊の指揮官といったところかの」


ノラは己の経験を噛みしめるように言う。

虚霊をあっという間に倒すノラが強いと言うのだから、その“主”というのは相当な強さなのだろう。


「この前わしが腹を貫かれた時、あれは恐らく“主”の指示での攻撃じゃろう」

「あの時か…」


ノラは一度、背後からの一撃で負傷していた。


「いくら油断して神威を弱めていたとはいえ、守りの薄い場所を的確に攻撃してきた。ただの虚霊にあのような芸当はできぬ」


たしかに、神威の守りはそう易々と突破できるほどヤワではない。

あれだけ強いノラの神威なら尚更だろう。


「なあ、ノラって本当に力を制限されているのか?正直やればやるほど差が開いていってるように感じるんだが…」

「これでも本来の1割ほどしか使えておらぬ。わしが本気を出せれば、すぐに全て倒してやるんじゃがな…」


そんな無類の強さを誇るノラだが、守神には様々な制限を設けられている。

神威にしても、"自身の防衛"と"主神おれの補助"以外に使うことができない。


「わしは神樹を通して神威を得ておる。力に制限がかかるのは致し方ないことじゃ」


ノラは諦めたように言うが、あまり納得はしていなさそうだ。


「そもそも異世界の人間を連れてきて解決してもらうってのが目的なのに、こんなに制限をかけて意味あるのか?」

うえの連中はそんな風には考えておらぬ。慈悲深い神々われわれが死んだ異世界の人間を助けてやる代わりに、この世界の民を助ける神の真似事をさせてやるとでも思っておるのじゃろう」


ノラは顔をしかめながら言う。

天界の神々に相当な恨みがあるのか、毎回言い方にトゲがある。

そのせいか、俺も正直天界にはあまり好ましくない印象を抱いている。


「俺は転生させてもらったから身勝手なことは言えないが、ノラはどうなんだ?」


正直気になっていたことだ。

ノラにとって守神になることは、全くメリットがないだろう。

そう言うと、ノラは再び顔をしかめた。


「昔わしと天の連中とでゴタゴタがあってな…。それ以来こうして首輪をかけられておるんじゃよ」


ノラが、ふん、と鬱陶しそうに答える。

これは余程の争いがあったのだろうな…。


「やめじゃやめじゃ、あんな奴らの話をしても全く楽しくない」


ノラは心底嫌そうな表情で一旦話を切る。

そして、切り替えるようにあえて踏み込んだ話題を振ってきた。


「話が逸れたが、わしはそろそろ"村"の中心まで行ってもよいと思う。"主"のことは少し気掛かりじゃが、直接戦闘になる可能性は低いじゃろう」

「"村"の中心か…」


あえて"村"の中心に近づかないようにしていたのは、虚霊との戦闘に人々を巻き込まないためだ。

攻撃は当たらないとはいえ、戦えば周りの物を壊してしまう。

今の俺にはそれをフォローする余裕もなければ、直せるだけの神威もない。

これではただの壊し屋と大差ないだろう。


しかし、人々と接触しなければ信仰心は集まらない。

だが、行くにしてもまだ他に問題点がある。


「行ってどうするんだ。神威の手品ショーでもするのか?」

「それならば、ミヤといったか、あの娘を“神官”にすればよいじゃろう」


“神官”とは、神と人間の間を取り持ち、つなぐ役割を担う人間のことだ。

そして、仲介という役割以上に大事なのが、神官は神威を使えるということだ。


当然、神や虚霊を見ることもできれば、触れることもできる。

つまり、人々から信頼が厚い人物を神官にし、神への信仰を広めてもらえれば、自ずと信仰者が増えるという寸法だ。


しかし、俺はこの方法にあまり賛同していなかった。


「それは嫌だと何度も言っただろ」

「なぜじゃ?あの娘なら喜んで引き受けるじゃろ」

「それが嫌なんだ…」


ホムラを熱烈に信仰しているミヤなら、即答で引き受けてくれることだろう。

しかし、神官には危険が伴う。


神威を扱い、神や虚霊に触れられるということは、虚霊に狙われることを意味する。

神官は、神のように自在に神威が使えないため、虚霊に攻撃されればほぼ間違いなく死ぬ。

もしそうなってしまったら本末転倒だ。


「じゃが、今のままではお主が死ぬぞ?」

「………………」


俺はノラに言い返す言葉を持っていなかった。

意地を張って死ぬのも、また、本末転倒であることに変わりない。

そんな俺を見かねたように、ノラが口を開く。


「ユズル、釘を刺すようじゃが、お主はあまりにも感情に流されるフシがある。人間は皆そうじゃと思っておったが、お主のは少し異常じゃ。よいか、くれぐれも怒りや絶望に我を忘れるでないぞ」

「それは、わかってるさ…」


耳が痛いとは、こういう状況を言うのだろうな…。

いくら最初に受け入れてくれた人間がミヤだったからとはいえ、固執するのは間違っている。

それに、こういう事態だからこそ頼るべきなのだろう。


こうして、俺は渋々ながらノラの言う通りに、明日ミヤへ神官になってもらうよう依頼するのだった。

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