1468.端緒篇:長編にしたい物語は短編で試す

 長編小説は執筆期間を考えても「一発勝負」になりがちです。

 そんなバクチのような執筆でなく、反響のよい物語を確実に書くためにまずは短編で試しましょう。

 あなたの肝煎り物語が、実は誰にも支持されないとわかれば、違う作品で「小説賞・新人賞」を狙えます。

 受賞してプロデビューが目標なら、反響のない物語で挑んではなりません。





長編にしたい物語は短編で試す


 長編小説は人によりけりですが、完成までに二カ月ほどかかります。

 それだけの時間を拘束されながら、いざ投稿してみたら反応がとても少ない。

 よくあるのですが、心が折れて「小説なんて書かない!」となってしまう方が存外多いものです。

 誰でも最初はフォロワーさんがいないので、「そんなものだ」とあきらめられればよいのですが、そんなに割り切りのよい方も少ない。

 では、その長編小説が本当にその小説投稿サイトで求められている物語なのかどうか。先にわかったらほとんどの書き手が喜びますよね。

 知る方法があるのです。タイトルに書きましたね。そう短編小説です。




短編小説は単に短い物語だけではない

 短編小説の定義はさまざまですが、だいたい二万字以下は短編小説扱いです。

 とくに一場面から数場面程度の短い物語を書きます。

 出オチで百字程度しかない短編小説もあるのです。

 短編小説には短編小説なりの難しさもあります。しかし短い物語でも読み手を魅了できたのならお話そのものが面白かったのでしょう。

 しかし本コラムは「小説賞・新人賞」を獲って「紙の書籍」化しプロデビューしよう! のノリで書いています。

 短編小説はどんなに面白くても「紙の書籍」化が難しいのです。それこそ小説投稿サイトに短編小説をたくさん掲載していて、いずれも「紙の書籍」レベルだと判断されれば「短編集」として「紙の書籍」化するのも夢ではありません。

 しかしそんな苦労を重ねるより、長編小説一本で「紙の書籍」化を勝ち取ってプロデビューしたほうがラクでいいですよね。

 しかももし落選しても、手直しをして別の「小説賞・新人賞」へ応募すればよいや、と思い込んでいる書き手が多い。

 ですがそれは、時間を置いた「マルチポスト」であって、受賞するには越えなければならないハードルが高いのです。

 だから「小説賞・新人賞」へ応募する作品は、できれば毎回書き下ろしてください。

 そんなにポンポン物語が思いつかない。そんな方も多いでしょう。

 だからこそ短編小説の出番なのです。

 短編小説の特徴は、物語のバリエーションをいくらでも増やせる点にあります。




長編小説を短編化して試す

 二万字弱と前述しましたが、三千字から六千字くらいでかまいません。あなたが書きたいと思っている長編小説のネタを短編小説で試すのです。

 今、長編小説でヒットしている作品でも、実は短編小説として発表されたものを底本にしている作品があります。これはウケた短編小説を長編化したものなのか。元々長編小説にしたい物語を短編化したものなのか。卵が先か鶏が先かはわかりません。

 ですが、短編小説の長編化は思っている以上に難しくて過酷です。五千字前後で綺麗に終わっている短編小説を引き延ばしても、傑作の長編小説にはまずならない。たいていが「短編」部分だけが面白い、ただ間延びした物語になりがちです。

 ならば長編小説を短編化すればよい。もし短編が好評なら、温めていた長編小説を執筆すれば事足ります。こちらは元々長編のお話だったので、元に戻しただけです。どこにも無理はかかりません。

 もしあなたが書きたいと思っている長編小説をそのまま長編として掲載したのにまったく反響がなかったら。かなりの時間を無為に過ごしただけになります。

 長編を短編化して試せば、あなたが書きたい長編が本当に読み手の需要を満たしているかがわかるのです。

 もし反響がよかったら長編小説として改めて連載すればよい。もし反響が芳しくなかったら、その長編はまだ面白さを見つけきれていません。長編化は見送るべきです。

 ある程度時間を置いて、他の切り口で再び短編化して試してください。

 そうやって何度も見せ方を変えながら短編で試していれば、いずれ大当たりする見せ方がわかってきます。

 そうです。ひとりで長編小説を書くから、羅針盤のない航海をせざるをえません。

 短編化して試せば、その物語のウケる方向がわかるのです。ウケる方向がわかれば、それを長編小説でも踏襲すればよい。短編の読み手が協力して、魅力的な長編へと導いてくれます。

 誰の助けもない執筆がよいのか。皆が応援してくれる物語を執筆するのがよいのか。

 どちらが有意義かは言うまでもないでしょう。




長編のどこを短編化すればよいのか

 そこで気になるのは「長編のどこを短編化すればよいのか」です。

 最善は「起承転結」の「承」を直接短編化してください。これから面白くなるところが読み手にどれだけ受け入れられるか、すぐに判明します。ここが面白いと判断された物語は長編に戻しても面白いものです。

 次善は「導入イントロダクション」を短編として掲載してください。これからこの物語が面白そうと感じるか否か。それを読み手に問うわけです。もし長編化してもよいくらい反響が集まれば、短編をまえがきや第一話にすれば読み手を根こそぎ長編に組み入れられるので手間が省けます。

 最悪は「結末エンディング」を短編にする場合です。「結末エンディング」を知っている長編をあえて始めから読もうとする人はまずいません。よほど短編が好評で長編化を待ちわびる読み手が多くなければ、ヒットしないからです。

 長編を短編で試すのなら、是が非でもヒットさせなければなりません。




あなたが書きたいのは長編ですよね?

 あなたは短編小説を書きたいから書くのか。これから書きたい長編小説がウケるかを事前に知りたいから短編で試すのか。スタンスを明らかにしてください。

 「小説賞・新人賞」を獲って「紙の書籍」化するには、十万字の長編小説でなければなりません。

 短編小説をいくら書いても「紙の書籍」化は難しいのです。

 書いたショートショートがすべてヒットした星新一氏のような書き手でもないかぎり「短編集」で「紙の書籍」化は目指せません。もし運良く「短編賞」に応募して「紙の書籍」化の末席となっても、原稿料は長編小説の十分の一が当たり前です。あなたは端金だけが目的で小説を書くプロになりたいのですか? 長編小説、いや十巻程度の連載小説で名実とも歴史に残るプロとなりたいのですか? まずはそこを明らかにしてください。

 「短編集」に中編小説も含めれば「芥川龍之介賞」の選考基準にもなっています。

 そのくらい長編小説以外は「紙の書籍」化が難しいのです。

 あなたは「小説賞・新人賞」を獲って「紙の書籍」デビューし、連載十巻で三百万部売り、印税だけで生活できるプロになりたいはず。

 であるなら長編小説でひとやま当てるしかありません。

 しかし誰の審査も経ていない物語が「小説賞・新人賞」を獲るだけの面白さを内包しているのか。疑ってかかるべきです。

 だからこそ「小説賞・新人賞」を獲りたい物語を短編で試しましょう。短編ならいくらでもエピソードは浮かんでくるはずです。

 短編で、どんな書き方がよいか。「勢い」のある描写になっているか。読み手に刺さる展開になっているか。意外性を出せるか。

 それらすべてが閲覧数や評価となって返ってきます。

 面白い物語かどうかは書き手だけでは知りようもないのです。だからこそ長編小説を短編で試す価値があります。





最後に

 今回は「長編にしたい物語は短編で試す」について述べました。

 「小説賞・新人賞」は一発勝負だと思ってください。もちろん募集期間内で複数作を応募できるなら、努力してでも複数作で勝負するべきです。

 もし落選したら、どんなに思い入れがあっても「手直しして次の小説賞・新人賞へ応募しない」でください。一度落選した物語は面白くないから賞レースから外されたのです。

 もちろん一次選考、二次選考を通過して最終選考に残った、という場合もあるでしょう。すると捨てるのが惜しくなります。だから手直しして別の「小説賞・新人賞」へ応募したくなるのです。

 ですがそれは「物語があまり思いつかないんです」と「小説賞・新人賞」を企画する出版社レーベルにアピールしているようなもの。愚策といってよいでしょう。

 この物語は一生に一度、この「小説賞・新人賞」に応募するために存在する。

 そのくらいの割り切りが必要です。

 そのためにも長編小説がウケるかどうか。事前に知っておく必要があります。

 「長編を短編で試す」のは、限りある物語で確実に仕留める「一発必中」を期す必勝策でもあるのです。



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