1466.端緒篇:異世界はどこにあるのか

 「異世界ファンタジー」「ハイファンタジー」などの舞台となる「異世界」。

 改めて「どこにあるのですか?」と問われて即答できる方は数少ない。

 あなたが創ったはずの「異世界」なのに答えられないのです。

 小説投稿サイトのテンプレートで「異世界」を規定していませんか。





異世界はどこにあるのか


 「異世界ファンタジー」、『小説家になろう』での「ハイファンタジー」が多くの評価を得て総合ランキングを席巻しています。

 ですが「変だな」と思うのです。

 「異世界」と言っているけど、そもそもどこに存在するのでしょうか。書き手の頭の中に存在するだけかもしれません。しかし読み手も作品に触れればその「異世界」が脳内に存在するのです。

 やはり「異世界」はどこかにあるのではないでしょうか。




暦が等しい異世界

 「異世界」で、現実世界の太陰暦や太陽暦を用いている作品もあります。時刻も二十四時間制なのも多々あるのです。

 これって「異世界」である必要はあるのでしょうか。

 現実世界と同じ暦で同じ時制。

 もしこれで地形まで現実世界と一緒だったとしたら、「現実世界」を舞台にするのとなにが異なるのでしょうか。

 小泉八雲ことラフカディオ・ハーン氏は数多くの怪談を世に残しています。それは太陰暦の昔の日本を舞台とした「ファンタジー」だったのです。だからといって「現実世界ファンタジー」ではありません。そもそもハーン氏が生きていた時代よりも昔の日本を舞台にしているのですからどちらかというと「伝奇小説」に位置づけられるでしょうか。ですが「怪談が存在していた事実がない」のですから、昔の日本というより「異世界」なのかもしれません。

 長編小説だと、暦を新規に作成してもそのすべてを用いる機会はまずありません。もし長編小説で一年という時間軸が必要になるようでは散漫もよいところです。

 時間なら一日の出来事ですから表現しようもあるでしょう。アメリカの連続ドラマ『24』のように一日二十四時間で物語が完結するなら伝えようはあります。

 ですが現実世界と同じ暦で同じ時制を用いているのは単なる手抜きです。




異世界はどこにあるのか

 よく「異世界はどこにあるのか」で意見が戦わされます。

 現実世界と同じ暦で同じ時制、さらに地形まで現実世界のまま。でも「異世界」を名乗っているのなら。この「異世界」は現実世界の「平行世界パラレル・ワールド」になります。本当は「現実世界と同じ場所」なのに、次元が異なるため互いに干渉しない。「平行世界」説には強さがあります。


 しかし同じ暦で同じ時制、でも地形は異なっている。それで「異世界」を名乗っているなら。今度は地形が違うので「現実世界と同じ場所」とは断定できません。だから「平行世界」とは言えないのです。考えられるのは「現実世界」も「異世界」も、高次世界たとえば神界・天上界の暦がそもそも現実世界の暦と時制を用いているのかもしれません。

 これなら神界・天上界から見て、「現実世界」も「異世界」も暦や時制の影響を免れないのです。だから「平行世界」ではなく「階層世界」なのかもしれません。「現実世界」は「中世ヨーロッパのような異世界で、剣と魔法のファンタジー」よりも上層にあるのか下層にあるのか。これを考えるだけでもコラムが一本作れますね。なのでここではどちらが上とは述べません。


 もし暦が違う、時制が違う「異世界」だとしたら。神界・天上界の時計から切り離されているので、明らかに私たちが知覚できない「異世界」です。たとえるなら「惑星」がそもそも異なるのではないでしょうか。

 たとえば「金星」の暦と時制が適用された「異世界」、「火星」の暦と時制が適用された「異世界」。それなら我らが故郷「地球」とは異なっていても納得できるはずです。であればいっそのこと太陽系に限らず銀河系のとある惑星が「異世界」でもかまいませんよね。すると「異世界転移」は遠く離れた他の惑星へとやってくるわけです。アルベルト・アインシュタイン氏が「相対性理論」で示しましたが、「タイムマシンは未来には行けるが過去には行けない」。つまり「異世界転移」で他の惑星にワープしたら、現実世界に戻ってくる頃には移動だけで何年いや百光年離れていたらワープしても現実世界で片道百年かかるので、行って来いするだけで二百年経過してしまいます。「異世界転移ファンタジー」としてはある種致命的な欠陥がありますよね。

 それなら「現実世界」との階層世界で、暦も時制も地形も異なる「異世界」を設定するほうが賢明でしょう。たとえば神界・天上界から下層に離れるほど時間の流れが不規則になる設定なら「異世界転移ファンタジー」で完璧な「異世界」を創造できます。これなら「異世界転移」してもワープするわけではないので、時間経過をほぼゼロにできます。それなら「異世界転移ファンタジー」でよくある「現実世界に帰還する」物語も許容されるはずです。




異世界になぜ人間が存在するのか

 普通に考えれば、大気があり、窒素、酸素、二酸化炭素などがバランスよく存在する「異世界」がいかにありえないかわかるでしょう。

 「平行世界」説は「現実世界」の地球なので「異世界」の大気組成が同じはずです。ですが、ドラゴンが存在する「異世界」なら、「現実世界」にもドラゴンがいて不思議はありません。

 そもそも人間の誕生には謎が多い。仮に人間が異星人だったのなら、生存に適した惑星を探すだけでも相当な時間かかっていたはずです。

 しかし「階層世界」や「他の惑星」である場合、そもそも人間の生存に適している可能性はほとんどありません。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』では地球以外にも有人惑星が無数に存在しており、その暦や時制も地球に揃えられています。正直にいって、銀河規模の物語を連載小説にするとして、すべての有人惑星の暦や時制を考える時間も労力も無駄に終わりやすいのです。

 それなら「銀河標準時」である地球の暦や時制が全銀河で保たれていてもある程度の説得力を持ちます。それでも1年365日、1日24時間、1時間60分がすべての有人惑星で等しいなんてありえません。でもそうしないとそれらの設定だけで連載の大半を費やしかねないのです。

 なにごとも決めすぎると身動きがとれなくなり、せっかく設定したのだからと物語に関係のない説明に紙幅を費やしたりと、マイナス評価が先行するはずです。

 『銀河英雄伝説』のように無数の有人惑星の設定ならいざしらず。「異世界ファンタジー」の「異世界」は基本的にひとつです。だからとことんこだわってもよいでしょう。

 ですが「異世界転移ファンタジー」「異世界転生ファンタジー」を書くのなら、暦や時制や地形などはなるべく独創性を持って作り上げたいですね。





最後に

 今回は「異世界はどこにあるのか」について述べました。

 あなたの「異世界」はどのような暦と時制と地形で成り立っているのでしょうか。

 もしかすると、なにも決めずただ「異世界」に設定しているだけの可能性もあります。

 1年365日、1日24時間、1時間60分。無意識に使っている単位は「異世界」では通じません。もし通じるなら、それなりの設定が必要です。ですが設定のすべてを開陳する必要はありません。あくまでも物語にかかわる部分だけを決めればよいのです。



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