1457.端緒篇:推敲する(形容詞などの置き換え・誤字脱字)

 いよいよ「推敲」もラストです。

 ここでは形容詞・形容動詞などの感想を表現に変えていきます。

 そして最後に誤字脱字を調べて終わりです。

 長々と原稿を仕上げるところまでやってきましたね。

 さぁ投稿しましょう!!

 と言う前に、お話したい内容がありますので、次回はそれに触れます。





推敲する(形容詞などの置き換え・誤字脱字)


 以前にもコラムを設けて述べたのですが、小説は芸術であって感想を直接書いてはなりません。感想は読み手に感じてもらわなければならないものだからです。

 たとえばオーギュスト・ロダン氏『考える人』は、自身が考えたと述べながら彫ったのでしょうか。違います。見ている人に「この像はきっと深く考えているんだな」と感じてもらいたいためです。

 芸術は創作者の感情をそのまま形にしてはなりません。受け手に感情を湧き起こしてもらうために形を工夫するのです。

 ここを間違えてしまうと、芸術は地に堕してしまいます。




形容詞・形容動詞で済ませない

 「寒い」という言葉はとても便利です。「体が堪えられないくらい気温が低い」を一語で表せます。形容詞・形容動詞とは書き手の感想を書くにはうってつけの品詞なのです。だからつい「寒い」と書いてしまいます。

 しかし小説では話が逆です。

 小説で「寒い」と書いても読み手は現実味リアリティーを覚えません。当たり前です。「寒い」は書き手の感想であって、読み手に湧き起こる感想ではない。いや「主人公の感想」であって読み手の感想ではないと書いたほうが適切でしょう。

 「体に震えがくるほど気温が低い」「防寒具を着ていてもまだ体が冷える」と書いたほうが読み手にとって具体的でわかりやすいのです。

 ただ「気温が低い」も形容詞を使っています。それよりも具体的に「氷点下十度を記録した」と数字を書けば読み手の多くに「それは寒いわ」と思わせられます。


 「五感」には形容詞・形容動詞が多い。

 視覚なら「明るい」「暗い」「赤い」「青い」「黄色い」「白い」「黒い」「濃い」「淡い」など、色彩に関する形容詞が揃っています。また「丸い」「四角い」など形状にも形容詞が含まれているのです。

 聴覚なら「煩い」「騒がしい」「賑わしい」のような音量が高い形容詞の他に、「静かな」「穏やかな」のように音量の低い形容動詞という対比もあります。また「周波数が高い」「音程が高い」のようなものもあるのです。

 触覚なら「硬い」「柔らかい」「とげとげしい」「痛い」「滑らかな」「暑い」「涼しい」「寒い」「熱い」「冷たい」などの触感、痛感、温感の他に「歯ざわりがよい」「爽やかな」もあります。

 嗅覚なら「芳しい」「香ばしい」「煙たい」「清い」「清々しい」などの匂いに関する形容詞があります。

 味覚なら「甘い」「辛い」「苦い」「酸っぱい」「塩辛い」の五味が有名です。他にも「まろやかな」「濃厚な」などグルメ番組でレポーターが使う「なんとも怪しい」表現もあります。


 たとえば「唐辛子が辛い。」と書けばふーん、そうなのとしか思われません。書き手の感想でしかないからです。

 「唐辛子をかじると舌が痺れてピリピリしてくる。」と書けば「そのくらい辛かったのか」と味覚を理解してくれます。

 これは単純に動詞で表していますが、比喩の表現も考えられるでしょう。

 「唐辛子をかじるとまるで長時間正座したあとの足のような痺れが走った。」と書けば、たった「唐辛子が辛い。」という七文字の文が三十三文字までどんどん膨らんでいきます。

 これで「長文が書けない」はずがないのです。

 なんでもかんでも形容詞・形容動詞で表してしまうから、どうしても文が短くなってしまいます。

 『文章読本』の多くでは「短文にするべし」と書かれていますが、これはレポート、ルポルタージュ、新聞記事など、端的に表現するべき文章での話です。

 小説などの芸術では、単に文を短くすればよい、というわけではありません。

 「文が短い」イコール「形容詞・形容動詞の多用」となります。

 試しにあなたが書いた小説を読んでみてください。きっと形容詞・形容動詞を多く用いている事実に気づくはずです。

 そして「紙の書籍」の近年の名著を読んでみてください。形容詞・形容動詞があなたの作品ほど使われていないとわかります。

 そうなのです。形容詞・形容動詞を用いないほうが読み手に感想を抱いてもらいやすいのです。


 形容詞・形容動詞は可能なかぎり「動詞」と「比喩」に置き換えてください。

 たったそれだけで「感想」は読み手が抱くものになります。

 それに文章がどんどん長くなります。これまで長い文章が書けないと思っていた人ほど、長文がスラスラと書けて驚くのです。

 しかし注意も必要です。「動詞」「比喩」に変換する前の文はできるかぎり短くしましょう。元の文が短いから、形容詞・形容動詞を「動詞」「比喩」に変換しても「わかりやすい文」になるのです。

 すべての形容詞・形容動詞をこのような「動詞」「比喩」表現へ変換してしまうと冗長に過ぎます。

 その場合はとくに重要でないものは形容詞・形容動詞のままにしておきましょう。これも「省略」の技術です。




規定の文字数に収まっているか

 ここまできてもう一度、規定の枚数や文字数に収まっているか確認してください。

 以前ほどではなくても、いくらか多かったり少なかったりするはずです。多いようなら場面シーンを削り、少ないようなら場面シーンを足しましょう(多くの場合は一度削った場面シーンの復活です)。

 分量がわずかな差でしたら形容詞を文章に、また文章を形容詞にしてみてください。たいていはそれだけで収まるはずです。

 収まったら「整合性をとる」作業をしましょう。

 場面シーンが追加されたり減少されたりしたら周囲の表現にも影響が出ます。そこを中心に描写の書き換えが必要になるのです。

 ここを抜け目なく行なえば最終的な文章の完成度に繋がります。




誤字脱字と用字用例

 最後の最後になって初めて「誤字脱字」「用字用例」のチェックをしてください。

 適切な漢字を用いているか。「聞く」「聴く」は適切に使い分けられているのか。「利く」「効く」も同様です。

 またパソコンで執筆を行なっているといくらでも書き直しができるため「必要な文字が欠けている」「余計な文字が混じっている」も多くなりました。文字が欠けているだけでなく余っているのも抜け目なく拾ってください。

 そういうものもきちんと処理していきましょう。





最後に

 今回は「推敲する(形容詞などの置き換え・誤字脱字)」について述べました。

 これで「推敲」は終わりです。お疲れさまでした。後は投稿するのを待つばかり。お疲れさまでした。

 簡単にできるようでできないのが「推敲」の難しいところです。

 しかしわれわれは明治後期から昭和中期までの「紙の原稿用紙」に囚われていた文豪とは異なります。

 パソコンでいくらでも書き加えたり削ったりできるのです。

 この利点を活かさないのはあまりにももったいない。パソコンならではの執筆方法もあります。

 キャラクターなどをデータベース化して管理したり、アウトラインプロセッサを使って「箱書き」の項目にそのまま文章を書いたりしてもよいでしょう。

 まぁ当コラムでは「箱書き」は断然「紙」派なのですが。

 では小説投稿サイトへ掲載する前にやっておきたい項目を次回書きますね。



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