1455.端緒篇:推敲する(敬語)

 現在の小説投稿サイトで主流なのは「異世界ファンタジー」です。

 たいていが国王が治める「剣と魔法のファンタジー」となっています。

 そんな世界には目上の王族や貴族が存在するので、必ず必要になってくるのが「敬語」です。

 英語に「敬語」はありません。「改まった文法」はあるのですが、それを「敬語」とは認識していないのです。

 たとえば中学英語の入り口である「My name is Yuzuru hanyu.」が改まった文法で、アメリカ人の感覚だと「拙者の名は羽生結弦と申す。」と同義だそうです。一般的には「I’m Yuzuru hanyu.」で「僕は羽生結弦。」となります。




推敲する(敬語)


 最近の方は「敬語」に疎い。なのに「異世界ファンタジー」を書いてしまいます。

 「異世界ファンタジー」は王様や王子様、王女様などの目上の王族やこうこうはくだんの貴族がたくさん出てくるのです。

 つまり「敬語」に疎いのに「敬語」が求められる「異世界ファンタジー」を書かなければなりません。

 そこで手っ取り早く、ある程度の「敬語」を身につけていきましょう。




丁寧語・美化語

 まず名詞・形容動詞に「御」を付けます。

 話し相手から差し出されたもの、話し相手に差し出すものに「御」を付けましょう。

 「御」は「ご」「お」「おん」「み」と読みます。

 使い分けの一例として和語に付くときは「お」「み」、漢語に付くときは「ご」「おん」と読むのが一般的です。

 たとえば漢字で書くと「御体」「御御御付け」「御柱」「御首(御首級)」は「おからだ」「おみおつけ」「みはしら」「みしるし」で、「御飯」「御意向」は「ごはん」「ごいこう」になります。

 また「ご」「お」と読む場合は基本的に「ご飯」「お体」「おみおつけ」「ごきげんよう」とひらがなで書きます。(おみおつけは「み」が入っていますが、「み」だけ「御」と書くと浮いてしまうのですべてひらがなにします)。

 「おん」「み」は「御身に障ります」「御柱」「御首(御首級)」のように漢字で書くのです。

 ちなみにここでは「御柱」を「みはしら」と読んでいますが、奇祭のひとつ「御柱祭」は「おんばしらまつり」と読みます。


 形容動詞なら「立派な」「静かに」が「ご立派な」「お静かに」となります。

 外来語である「カーテン」や「天ぷら」や「クレジットカード」「ラーメン」に「御」は付きません。もし付けてしまうとそれぞれ「ごカーテン」「お天ぷら」「おクレジットカード」「ごラーメン」とおかしなことになるのです。


 また語尾を「〜だ。」「〜である。」となる常体の「だ・である体」から、「〜です。」「〜ます。」となる敬体の「です・ます体」に変えます。

――――――――

 名詞文:彼はうちのエースだ。 ⇒ 彼はうちのエースです。

 動詞文:彼は第三コースを走る。 ⇒ 彼は第三コースを走ります。

 形容動詞文:彼はもの静かだ。 ⇒ 彼はもの静かです。

 形容詞文:彼はすばしっこい。 ⇒ 彼はすばしっこい(の)です。

――――――――

 形容詞文の基本は「形容詞+です」となります。ですがこれを常体である「だ・である体」に戻すと「彼はすばしっこいだ」となり、おかしな文になります。

 「だ」を付けるなら本来は「彼はすばしっこいのだ」のように「の」を間に置くべきです。これを敬体に変換すると「彼はすばしっこいのです」となります。

 この煩雑さのため、形容詞文はしばしば「です」も「ます」も付けない選択をする場合があるのです。これなら「彼はすばしっこい」と常体のままで用います。

 「すばしっこいです」が通常です。「すばしっこいのです」はよいところのお嬢様が使うような改まった言い方、「すばしっこい」のままならかなり気さくな言い方になります。

 形容詞文の敬体はその場や話す人の性格などを考慮して選ぶとよいでしょう。




尊敬語

 尊敬語は「相手の動作を敬って上に立てる言葉遣い」です。

 基本形は動詞の連用形を「御〜になる」にしたり、動詞の活用を「-aれる」の形に変えたりします。

 「話す」を連用形「話し」にして「御〜になる」に当てはめて「お話しになる」にする形です。

 「-aれる」は「渡す」を「わたs-aれる」→「渡される」にする意です。

 「得る」は「えr-aれる」→「得られる」になります。「見る」は「みr-aれる」→「見られる」になるのです。

 「する」の尊敬語である「される(s-aれる)」もこの形です。


 「御〜になる」の場合は別の語幹に変わることもあります。

 一段動詞「見る」を連用形にしても「見」だけが残り「御見になる」とすると通じません。この場合は「ご覧になる」に変わるのです。「来る」も「お見えになる」になります。「死ぬ」も「お死にになる」と言えなくもないですが基本的には「お隠れになる」「お亡くなりになる」のように語幹を変えるのです。

 なお「御〜になる」と「-aれる」は排他的で一緒に用いられません。使うと「二重敬語」のルール違反になります。「見る」は「ご覧になる」か「見られる」かになりますが、ふたつ重ねて「ご覧になられる」とするのはルール違反です。

――――――――

 彼は第三コースで走る。 ⇒ あの方は第三コースをお走りになる。

 彼は第三コースを走る。 ⇒ あの方は第三コースを走られる。

 彼は横綱を見た。 ⇒ あの方は横綱をご覧になった。

――――――――

 また特定の動詞は別の動詞へ変換することでさらなる敬意を表せます。

 「する」を「なさる」、「言う」を「おっしゃる」、「食べる」を「召し上がる」、「来る」を「いらっしゃる」とする類いです。

 こちらも「御〜になる」「-aれる」形と同時に使えば二重敬語です。つまり「おっしゃる」の敬意をさらに高めようと「おっしゃられる」とするのは誤りになります。これは高い確率で見られるルール違反です。

 「お召し上がりになられる。」にすると三重敬語になりますね。ですが「お召し上がりになる」を許容する専門家もいるので、要注意です。基本は「召し上がる」が敬語だと憶えて間違いはありません。




謙譲語

 謙譲語は「相手を敬って自己の動作をへりくだる言葉遣い」です。

 基本形は「御〜する」になります。動詞の連用形を基本形で挟みます。

 「話す」を「お話しする」、「渡す」を「お渡しする」にする形です。

 こちらも語幹が変わる場合があります。とくに一段動詞の場合は他の語幹に変わるので要注意です。

 「見る」は「お見する」ではなく「拝見する」にします。五段動詞の「行く」を「お伺いする」に変えるようなパターンもあるのです。「考える」を「愚考する」のように「愚〜」とする例もあります。

――――――――

 私は先生に話した。 ⇒ わたくしは先生にお話しした。

 私は横綱を見た。 ⇒ わたくしは横綱を拝見した。

 私はそのように考えた。 ⇒ わたくしはそのように愚考します。

――――――――

 また特定の動詞は別の動詞へ変換することでさらなる謙譲の意を表せます。

 「する」を「致す」、「言う」を「申す」「申し上げる」、「食べる」を「頂く」、「もらう」を「賜る」「頂く」「頂戴する」、「行く」を「参る」、「尋ねる」を「伺う」、「あげる」を「差し上げる」、「思う」を「存ずる」とする形です。

 「御〜する」を「〜させていただく」の形にすると二重敬語のルール違反となります。

 「〜させる」はこちらから働きかけて相手に行なわせる意ですが、「いただく」は「もらう」つまり先方からこちらに受け取る意だからです。

 つまり「お話しします」を「お話しさせていただきます」とするのは、厳密には誤りです。「お話しします」でじゅうぶん謙譲の意は伝わります。「お話しします」ではどうも軽いと感じるときは「お話し致します」としましょう。厳密にいうとこちらも「御〜する」と「する」の謙譲の組み合わせなので二重敬語の誤りになります。ですが「御〜致す」は現在許容されている書き方です。




敬語は専門書を必ず用意しておこう

 尊敬語と謙譲語は、特定の動詞が変換される例も多いため、詳しくは敬語の専門書を購入しましょう。

 東京堂出版の西谷裕子氏編『「言いたいこと」から引ける 敬語辞典』は2019年発売ですが調べやすいと思います。

 専門書を使って敬語が必要な場面で一つひとつ調べていって、書き慣れる以外に上達のすべはありません。

 文章全般にいえますが、とくに敬語はかなり意識的に習得しようとしないかぎり憶えられません。

 だから必ず専門書や類語辞典を用意して、尊敬語と謙譲語のある動詞なのかをチェックするべきです。

 もし使い方に困ったら尊敬語は「御〜になる」「-aれる」の形、謙譲語は「お〜する」の形だけにしてもかまいません。おぼつかない単語を使うよりも確実に敬意が伝わります。





最後に

 今回は「推敲する(敬語)」について述べました。

 敬語は特殊な使い方が多いため、必ず専門書を購入してつねに勉強しましょう。

 小説を書き続けていれば、そのうち目上の方と話す機会も出てくるものです。

 そのときに敬語が使えないようでは「物書き」の程度が低いと先方に見なされてしまいます。

 小説を書く以上、人一倍敬語に気を払うべきです。

 なお本コラムでは特別に「敬語篇」(No.946〜953)を設けて詳しく解説しておりますので、まずはここから勉強してみませんか。



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