1412.構文篇:キャラクターの誕生4(生い立ち・思想信条・長所欠点弱点)

 今回はキャラクターの「人となり」についてです。

 小説はキャラクターの「人となり」を書く芸術と言ってよいでしょう。

 それなのに「人となり」が書かれていない作品が多いのです。とくに「過去」をきちんとタイム・テーブルで管理していないと「設定ミス」「矛盾」が発生しかねません。





キャラクターの誕生4(生い立ち・思想信条・長所欠点弱点)


 今回はキャラクターの{「人となり」についてです。

 中でも「思想・信条」を書かずにキャラクターを行動させている書き手が多い。主人公がどう動くのか読み手へ自然に伝えるには「思想・信条」は避けて通れません。

 また「生い立ち」でキャラクターの過去を書くだけで、未来の展望はまったく書いておらず、肝心の未来で「設定ミス」「矛盾」を引き起こす可能性もあります。

「人となりを書く」のを気づけない書き手が殊のほか多いのです。




生い立ち

 キャラクターを創る際、外せないのが「生い立ち」です。

 そのキャラクターがどんな人生を歩んできたのか。家族構成つまり両親や兄弟姉妹は、飼っていたペットは。どんな人たちと付き合ってきたのか。学校の成績はどうだったのか。文系が強かったのか、理系が強かったのか、歴史に詳しかったのか、スポーツが得意だったのか、料理の腕前がプロ級だとか。

 そういったものを決めていくと、キャラクターに深みが出ます。存在感がおおいに増すのです。

 また過去を時系列に従って書き出しておくと「設定ミス」「矛盾」を大きく減らせます。無二の親友と過ごしたのは何歳から何歳までだったのか。何歳のときにどこへ引っ越したのか。妹が生まれたのは主人公が何歳のときか。

 私の経験ですが、キャラクターの「生い立ち」「過去」を決めていく作業は、パズルのようでとても面白い。本コラムで書いた『秋暁の霧、地を治む』のキャラクターシートを作成する際、主人公が何歳のときに誰と出会ったとか、養祖父といつどんなふうに出会ったのかとか、誰がいつ死んで主人公にどんな影響を与えたのかとか。そういうものを決めていく作業がすこぶる面白かったのです。

 こういう「生い立ち」のキャラクターが物語開始時点でどんな人物になっているのか。それが当たり前のように感じられる「過去」を持っていれば、背骨バックボーンが太くなって、キャラクターに厚みが生まれます。

 それが物語開始時のキャラクターが魅力的かどうかを左右するのです。

 すべてのキャラクターの「生い立ち」「過去」をあらかじめ決めておきましょう。

 可能であれば物語が進展したときの「主人公が何歳のとき」「主人公がいつここを訪れたときに発生したのか」もキャラクターシートに書き込んでいきます。そうするだけで、物語の「設定ミス」「矛盾」のほとんどは回避できるのです。




思想・信条

 キャラクターには「思想」「信条」が必要です。

 どんな考え方をもとに行動するのか。どんな行ないを是とするのか。キャラクターが行動の指針とする考え方や人生観が「思想」「信条」に表れています。

「自分の心に嘘をつかない生き方をする」であったり「悪人は絶対に許さない」であったりの前向きな「思想」「信条」もあります。

 対して「人より多くの利益を得たい」であったり「誰かを騙してでも成り上がりたい」であったりの独善的な「思想」「信条」もあるのです。

「思想」「信条」は、キャラクターの言動に一定のタガをはめます。

「自分の心に嘘をつかない生き方をする」キャラクターは、自分の気に入らない仕事や依頼はいっさい受けません。自身が「これは私がやりたかった」仕事や依頼しか引き受けないのです。

「思想」「信条」と書きましたが「信教」でもかまいません。イスラム教徒なら豚肉は口にしないという食事の制限があります。ある時間になるとメッカの方向へ向けてお祈りを欠かしません。「聖戦ジハード」が発令されたら死を厭わない戦士となるのです。当然キリスト教徒も「信教」に基づく制約があります。宗教には求心力を持たせるための禁忌タブーがいろいろとあるのです。それがキャラクターの言動を縛ります。




長所と欠点と弱点

 すべてのキャラクターはなんらかの長所と欠点と弱点を持っています。

 たとえば「悪を見たら即座に罪を問う」という「正義感」の長所があれば、いささか武断的ではありますが主人公の長所となるのです。しかし長所を裏返せば短所になります。「正義感」が長所であれば、仲間内でも不義は捨ておけなくなってしまうのです。結果として勇者パーティーに盗賊が参加できない事態が発生します。「正義感」に凝り固まって「融通がきかない」のです。まさに長所の裏が短所となります。

 では欠点とはなにか。長所の裏が短所である以上、長所とは関係なくてキャラクターに欠けているものが欠点です。

 たとえば「正義感」は人一倍なのに「倫理観」がまったくなく、人の女に手を出しまくるプレイボーイ、なんていうのも「欠点」ですね。この場合、主人公は他人を糾す「正義感」には燃えています。しかし自らの行ないは見て見ぬふりをしているのです。こんな二重基準ダブル・スタンダードこそが主人公の本質であり人間くさいところとなります。

 事典篇で『アーサー王伝説』の英雄王アーサーと最強の騎士ランスロットを取り上げていますが、ふたりがまさに「正義感」はあるけど「倫理観」に欠けているタイプのキャラクターです。アーサー王はブリタニアを統治する「正義感」がありながら「倫理観」に乏しく異母姉と密通して不義の子モルドレッドをもうけています。ランスロットは円卓の騎士最強で模範となるような「正義感」を持っていますが、「倫理観」に欠けていてアーサー王の妃グィネヴィアと不義密通を行なって円卓の騎士を二分する大戦を引き起こしてしまうのです。

 弱点はキャラクターの頭が上がらない存在であったり、肉体上の狙われたら命を落とす要な場所や行為を指します。たとえばマンガの北条司氏『CITY HUNTER』の主人公・冴羽リョウは世界一のスイーパーという「長所」があり、美女の依頼しか受けずそのくせ美女を前にするとすぐもっこりする「欠点」がある。そんなリョウには頭の上がらないパートナーの槇村香がいます。ときに彼女が人質に捕られて窮地に陥るのです。まさに世界最強の存在が持っている唯一の「弱点」が香となっています。

 魅力的なキャラクターは長所と欠点と弱点をすべて持っています。ひとつしか持たなければ完璧超人かまるでダメ男しか生まれません。そういう人物が読み手ウケするはずもないのです。

 キャラクターは読み手から憧れられるとともに、読み手と同じような「欠点」で共感を得るように仕込みましょう。





最後に

 今回は「キャラクターの誕生4(生い立ち・思想信条・長所欠点弱点)」について述べました。

 キャラクターにはそれにふさわしい「人となり」があります。

 それに言及せずキャラクターを書こうとするから表現が浅くなるのです。

 ほんの些細な点かもしれませんが、決めておけば後々役に立ちますよ。

「小説賞・新人賞」へ応募する十万字の長編小説であっても、キャラクターの「人となり」が読み手を惹きつけるのです。



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