1361.物語篇:物語105.ダンジョン探索

「剣と魔法のファンタジー」にはなぜか「ダンジョン」が存在します。

 他のジャンル、たとえば現実世界を舞台にした物語に「ダンジョン」は出てくるでしょうか。

 そう考えると「ダンジョン」の存在そのものが不思議に思いませんか?





物語105.ダンジョン探索


「剣と魔法のファンタジー」の魅力のひとつに「ダンジョン探索」があります。

 腕に覚えのある冒険者がダンジョンに潜り、トラップや迷宮化した構造物などを突破して、最下層にいる強大なドラゴンや魔族や魔王などと戦い勝って、莫大な金銀財宝を持ち帰る物語です。




ダンジョンズ&ドラゴンズ

「ダンジョン探索」の物語の原型は、神話や民間伝承にまで遡ります。

 しかし狭義で「ダンジョン探索」を目的とした物語が生まれたのはTRPGテーブルトーク・ロールプレイングゲームのゲイリー・ガイギャックス氏『Dungeons&Dragons』が発売されてからです。

 もちろん『D&D』でも屋外を冒険の舞台とするシナリオは作れます。ですがタイトルに「ダンジョン」を含めている以上、ダンジョンに潜ってお宝をせしめる物語が多くなって当然です。

 ときには地獄とつながる迷宮を舞台とします。だから『D&D』ではドラゴンに次いでデヴィル、デーモンの類いに多くのページを割いているのです。

 また下へ潜るのではなく城や要塞のように、上に登っていく物語も考えられます。こちらでは天国へ続く塔かもしれませんね。

 ですが『D&D』では明確な「神」は存在しません。つまり「神」と戦う物語は作れないのです。

 このあたりに『D&D』の限界があるのかもしれません。

 日本の異世界ファンタジーや伝奇小説などでは、ときとして「神」とさえ戦うものです。これは日本に国教がないからかもしれませんね。無神論者が多いから、たとえ「神」であっても行く手に立ちはだかるのなら、冒険者から見れば単なる障害にすぎないのです。

 しかし『D&D』発祥の地であるアメリカ合衆国はキリスト教国なので、「神」と戦うのは神の子イエスに歯向かうのであり、それは「禁忌」とされています。たとえキリストが許しても、過激派からなにをされるかわかりません。だから『D&D』ではモンスターとして「神」が存在しないのではないでしょうか。

 事実、アメリカ発祥のTRPGである『Tunnels&Trolls』『Fighting Fantasy』のモンスターに「神」は存在しません。

 日本が発祥のTRPGである『ソード・ワールド』ではモンスターとして「神」が設定されています。かなりの高レベルですが、「神」とも戦えるのが日本RPG俗にいう「JRPG」の特徴です。




なぜダンジョンは存在するのか

『D&D』を始めとして、なぜ冒険者はダンジョンを目指すのでしょうか。

 そこにお宝があるからです。

 たとえ最強のドラゴンが守護していたとしても、お宝の魅力には勝てません。冒険者は高レベルのアイテムを手に入れるために、今日もドラゴンを目指してダンジョンの奥深くへ潜っていくのです。

 そもそもダンジョンってなぜ存在するのでしょうか。

 おそらく「横穴式住居」から始まり、「鍾乳洞」のように自然に出来た洞穴がある。そして『D&D』が誕生した頃は、石炭を採掘した炭鉱やゴールドラッシュに沸いた金鉱が役目を終え、人工的に作られては放棄された洞窟が山に行けばゴロゴロ転がっていました。

 つまりつい入ってみたくなるダンジョンがアメリカには無数にあったのです。

 いずれも全体像がわからないダンジョンだらけ。だから「お宝が眠っているかもしれない」と考えられて「お宝探索隊」が結成され、数々の打ち捨てられたダンジョンに潜ってさまざまな危険を冒しながら深くより深くへと突き進んでいったのです。

 その「洞窟探検」を「剣と魔法のファンタジー」の世界に置き換えたのが『D&D』と考えられます。

 TRPGの原点であり、現在でも頂上の一角を占める『D&D』は、そういった時代背景を持つゲームだったのです。

 日本でも炭鉱が至るところにありましたが、「ダンジョンに潜る」発想はありませんでした。「ダンジョンに潜る」のは『D&D』やそれにならう海外TRPGの影響が強いのです。

 日本生まれの『ソード・ワールド』も基本的には屋外探索が主で、廃屋や洞窟などを探索するのは二の次と言ってよいでしょう。これは日本が江戸時代でも金鉱は数少なく、しかもなかなか打ち捨てられずに掘り続けられていましたから、探索するべき「ダンジョン」が存在しなかったからかもしれません。また戦闘も基本的には野外で行なわれるので、「タクティカル・コンバット」が重視されていたからかもしれません。

 まぁ鍾乳洞や海辺の洞穴など自然に出来た「ダンジョン」は多数存在しましたが、いずれもそれほど奥行きはなくすぐ行き止まりとなり、夢やロマンは詰まっていないのです。

 そう考えると「ダンジョン」は石炭採掘やゴールドラッシュを過ぎたアメリカだからこそ生み出された冒険の場だったのでしょう。




ダンジョンの奥で待っている存在

 ダンジョンは階層を増すほど、強力なモンスターが現れる「お約束」で出来ています。

 これはゲームのSir−Tech『Wizardry』も同様で全十階層ある「ダンジョン」も一層降りるほど、より強いモンスターが行く手を阻むのです。そして地下十階の最奥でボスキャラ「Werdna」がバンパイアロード、グレーターデーモンとともに現れてプレイヤーキャラクターを死へと誘います。勝てば「護符アミュレット」が手に入り、ダンジョンから無事に生還するとエンディング画面が見られるのです。

 ちなみにラスボスの魔術師「Werdnaワードナー」は開発者のひとりアンドリュー・グリーンバーグ氏の名前の逆さ読み、狂王「Treborトレボー」はもうひとりのロバート・ウッドヘッド氏の名前の逆さ読みとなっています。

 エニックス(現スクウェア・エニックス)『DRAGON QUEST』ではラスボスの「りゅうおう」はダンジョンではなく「竜王の城」にいます。しかしひじょうに大きなマップとなっていて、セーブできずにすべての部屋をまわるのは不可能に近いのです。だから何度も国王のもとへ往復してひとつずつ攻略していかなければなりません。ラスボスだけに、ダンジョンでなくても攻略には手間がかかるわけです。

『DRAGON QUEST』は戦闘シーンを『Wizardry』から借用しています。当時はそれだけ『Wizardry』に注目が集まっていたのです。

『DRAGON QUEST』の地上やダンジョン探索部分の借用元であるOrigin Systems『Ultima』も当時は大流行りしていました。作中に登場するブリタニア国の「ロード・ブリティッシュ」は作者のリチャード・ギャリオット氏とされています。

 実は『DRAGON QUEST』より先に『Ultima』『Wizardry』のシステムを借用したRPGがありました。クリスタルソフト『夢幻の心臓』です。地上での戦いで倒れされた主人公が、死に際に神々への呪いの言葉を発したがため、天国でも地獄でもない「夢幻界」へと落とされてしまいます。インゲームで3万日を超えるとゲームオーバーとなる過酷な条件の中、夢幻界から脱出するのに必要なアイテム「夢幻の心臓」を探し出す冒険の旅が始まります。つまり『夢幻の心臓』は神殿の奥にあるアイテムを探し出す冒険の旅なのです。

 同じゲームのシステムを元にした『夢幻の心臓』と『DRAGON QUEST』にも違いはあります。『夢幻の心臓』は塔や洞窟内は『Wizardry』の「疑似3Dビュー」が採用されているのです。『DRAGON QUEST』のダンジョンは地上と同じ「2Dトップビュー」でしたよね。





最後に

 今回は「物語105.ダンジョン探索」について述べました。

 VRMMORPG「ソードアート・オンライン」を舞台とする川原礫氏『ソードアート・オンライン』の第一巻は百層からなる「浮遊城アインクラッド」というダンジョンの攻略が目的の物語です。しかしなにせ百層を長編一本に収めなければなりません。そのため「ダンジョン探索」部分が大幅にカットされています。しかも攻略は百層を待たず完了するのです。

 だから「ダンジョン探索」の物語は連載小説にこそ向いています。しかし「小説賞・新人賞」への応募作である原稿用紙三百枚・十万字の長編小説としては消化不良になりやすいのです。

『ソードアート・オンライン』が成功したのは、ブログでコツコツと書き進めていたからでしょう。『アクセル・ワールド』が小説賞を受賞した際に日の目を見て、試しに単行本一冊に圧縮して販売されたからブログの存在が明らかとなり、そこで評価が高まったのです。

「小説賞・新人賞」に「ダンジョン探索」の物語を送っても、よい評価はまず得られないでしょう。向いていないのです。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る