1335.物語篇:物語79.なんでこんな力が

 今回は「特殊な能力」についてです。

 とくにファンタジー小説では主人公が「特殊な能力」に目覚める物語が定番です。最近ではなんの能力もない主人公はめったに見られません。代わりにたったひとつの「特殊な能力」を秘めていて遺憾なく発揮する物語が流行りです。





物語79.なんでこんな力が


 ファンタジー小説においてよくあるのが「特殊な能力に目覚める」物語です。

 最初から「特殊な能力」を持っている場合もあります。憧れられる主人公はたいてい最初から持っているのです。

 週刊少年マンガ誌での連載であれば、ターゲットは小中学生ですから、物語開始当初は普通の人物として登場させるパターンが多くなります。

 あとは「どのタイミングで特殊な能力」を目覚めさせるかです。




ある日突然に

 物語において主人公は「特別な存在」であると述べました。

 開始当初は「普通の存在」でもかまわないのです。というより「普通の存在」が「特別な存在」へと昇格するから「剣と魔法のファンタジー」は感情移入しやすくなります。

 ではいつ「特別な存在」へと昇格するのか。

 ある日突然に起こります。

 物語が始まってすぐに起こる場合と、物語がある程度進んだ段階で起こる場合、そして最終決戦中に起こる場合の、大きく三つに分けられるでしょう。

 どのタイミングで「特殊な能力」に目覚めて「特別な存在」となるのか。




始まってすぐ起こるケース

 始まってすぐに起こる場合は、物語の早くから活躍できます。しかもどんどん強くしていけるのです。だからライトノベルはたいてい「始まってすぐに起こり」ます。週刊少年マンガも同様。第一話で読み手をぐっとつかまないとアンケートの順位は初回にもかかわらず下がってしまうのです。初回でいきなり「普通の存在」が「特殊な能力」に目覚めて「特別な存在」へと昇格する少年マンガとしてはやはり尾田栄一郎氏『ONE PIECE』のモンキー・D・ルフィですよね。「悪魔の実」を食べたことで「ゴム人間」になりました。他の海賊たちもたいていは「悪魔の実」を食べた「特別な存在」であり、「特別対特別」の想像を絶するバトルが繰り広げられます。この物語では「特別な存在」だらけで、差をつけづらいのです。だから誰がどれだけ強いのか。相性はどうなっているのかが読み手にはわかりません。まぁ戦う前からわかっていたら、読み手は興醒めしてしまいますよね。

 物語の始まりで主人公ひとりだけが「特別な存在」となる物語はいくつか挙げられます。

 桂正和氏『ウイングマン』ではドリムノートを手に入れて無敵のヒーロー・ウイングマンに変身できる能力を手に入れた広野健太。大場つぐみ氏&小畑健氏『DEATH NOTE』で死神のノートを手に入れて犯罪者たちを裁き、「新世界の神」を目指した夜神月。このふたりのように「特殊なアイテム」を手に入れて「特別な存在」となった主人公が多いですね。少年たちが元来持つ変身願望を刺激するからでしょう。

 物語が始まってからすぐに「特別な存在」となる作品では、やはり「特別な主人公」であるべきです。

 主人公以外が「特別な存在」であり、物語が始まってからすぐに「特別な存在」の中でも「格別な存在」となる物語も多くあります。堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』の主人公・緑谷出久は当初特殊能力「個性」をまったく持たない「普通の存在」です(と言っても世界で八割の人間はなんらかの「個性」を持っている世界ですが)。しかし物語の始まりでNo.1ヒーローのオールマイトから「ワン・フォー・オール」という継承された「超パワー」を授かります。これで他のキャラと同等の「特別な存在」となったのです。しかしあまりにも強すぎる「超パワー」ですから、誰よりも強いのにそれを持続できません。だからこそ「特殊な能力」を持つ「特別な存在」となりえたのです。




ある程度進んでから起こるケース

 物語がある程度進んだ段階で起こる場合は、それまで「普通の存在」で苦労していたものが、そのときを境に革新的に飛躍して「特別な存在」となります。

 マンガとしては車田正美氏『聖闘士星矢』の星矢が挙げられるでしょう。元々青銅聖闘士として一般人とは違う「特別な存在」ではあります。しかし物語に登場するのは同じ青銅聖闘士か格上の白銀聖闘士、最強の十二人・黄金聖闘士です。つまり「聖闘士としては平凡」なのです。そんな星矢は、たびたび射手座の黄金聖衣を身にまとっています。聖衣は着る者を選ぶため、射手座の黄金聖衣が星矢に力を貸すとき、星矢の意志は聖衣に適うものだったのです。中でも黄金十二宮編では星矢を含む青銅聖闘士五名が特殊な能力「セブンセンシズ」に目覚めて黄金聖闘士たちを凌駕し、無事にアテナこと城戸沙織を救えました。物語は「セブンセンシズ」会得の前と後とでは大きく異なるのです。

 途中で「特別な存在」になるアニメも数多くあります。

 私が印象に残っているのはサンライズ『新機動戦記ガンダムW』の主人公ヒイロ・ユイです。もちろんガンダムのパイロットですから一般人とは違います。そもそもヒイロは幼い頃からテロリストとして教育されているのです。しかし物語の終盤になって「ゼロシステム」という、コンピュータが未来を予測してパイロットへフィードバックしてくるシステムと出会います。ヒイロが最初に「ゼロシステム」に触れたのは敵方OZ総裁の職を追われたトレーズ・クシュリナーダが開発させた「エピオン」へ搭乗したときです。そして宿敵ゼクス・マーキスが乗る「ウイングゼロ」と戦い、結果として双方の機体を交換します。こうしてヒイロは「ゼロシステム」を搭載した「ウイングゼロ」を乗機とするのです。先ほど述べたとおり、「ゼロシステム」はパイロットをシステムの一部とみなして指示を出してきます。すべてのガンダムパイロットや多くの人物が挑戦するも扱いきれなかった「ゼロシステム」です。しかし彼は一年後を描いたOVA『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』まで乗り続けます。「ゼロシステム」は最後に「ウイングゼロカスタム」とともに爆散します。それまで「ゼロシステム」と共存してきたヒイロは明らかに「特別な存在」なのです。




最終決戦中に起こるケース

 最後に紹介するのが、最終決戦中に「特別な存在」になる場合です。

 これはどう考えても「いきあたりばったり」が過ぎます。最終決戦で不利になり、追い込まれた末に突然「特別な存在」になってしまうのです。こんな物語のどこが面白いのか。冷静に考えると理不尽なのです。

「小説賞・新人賞」へ応募するとき、このパターンで物語を書くとたいてい二次選考で落とされます。物語の構成がめちゃくちゃにしか見えないからです。

 しかしこのパターンで世界的に大ヒットした作品があります。マンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』です。

 フリーザ戦でそれまで徹底的にやられ続けていた主人公の孫悟空が、突然「超サイヤ人」へと変貌します。これで力関係が逆転して、孫悟空はフリーザを倒しました。確かにベジータやフリーザが伝説の「超サイヤ人」の存在を示唆していました。それでも孫悟空が「超サイヤ人」となったのには唐突感すら覚えます。

 まずきっかけが不明です。徹底的に追いつめられたら「超サイヤ人」になりました。存在が少ないから伝説になるのであって、孫悟空はその少ない存在だったということでしょうか。それならなぜフリーザ戦前までに「超サイヤ人」になれなかったのでしょうか。力関係だけで言えば、武天老師や天津飯やピッコロ大魔王だって相当な達人であり、対戦した当時はとても敵わないような相手です。状況はフリーザ戦とほぼ同じ。なのに「超サイヤ人」になったのはフリーザ戦になってから。ここに矛盾を感じませんか。

 このようにどうしても「じゃあなんで今までそれができなかったのか」について矛盾を起こさせないのが難しい。

 おそらくフリーザ戦なんて作者の鳥山明氏本人すら考えていなかったからでしょう。前から指摘していますが、『DRAGON BALL』は主人公のブルマがドラゴンボールを七つ集めて神龍を呼び出し、願いを叶えようとしてウーロンが「女の子のパンティー」と言ってすべて台無し、の時点で終わったほうが「ファンタジーマンガ」としては面白い作品だったのです。そこから主人公を孫悟空に移してバトル要素を強めた作風に切り替えたから大成功した作品でもあります。しかし先々の展開まではまったく考えていなかったので、鳥山明氏自身はいつでも終わらせられるように工夫はしていたはずです。それでも人気があるうちは連載が続き、どうにもならなくなって結果的にフリーザまで出してしまったのでしょう。そしてフリーザを倒す存在として「超サイヤ人」が必要になっただけ。ただそれだけの理由ではないでしょうか。

 元々『DRAGON BALL』はブルマを主人公にした「ファンタジーマンガ」であり、「七つ揃えたらなんでも願いが叶う」という目的を持っていた物語です。それが孫悟空を主人公にしたら「バトルマンガ」になってしまいました。物語の種類それ自体がすり替えられているのです。




最初から特別な存在

 物語が始まる前から「特別な存在」であるマンガとしては「北斗神拳」の使い手同士が相討った武論尊氏&原哲夫氏『北斗の拳』の主人公ケンシロウがいます。作中でレベルアップせず、最初の強さをそのまま最後まで維持しているのです。

 そう考えると北条司氏『CITY HUNTER』の主人公・冴羽リョウも同じですね。世界最強のスイーパーであり、それは作中にレベルアップするようなこともありませんでした。

 ケンシロウも冴羽リョウも共通しているのは「憧れを抱ける存在」で「年上」である点です。つまり最初から「特別な存在」であれば、読み手は主人公に憧れを抱けます。しかも「年上」であれば「こんな大人になりたい」という願望を投影できるのです。





最後に

 今回は「物語79.なんでこんな力が」について述べました。

 物語において主人公は「特別な存在」である必要があります。

 そうしなければ主人公にする意味がないからです。

 問題はいつ「特殊な能力」が宿って「特別な存在」となるのか。

 最初からなら「憧れ」を抱けますし、始まってすぐに手に入れたら「これをどう使っていくんだろう」とワクワクしてきます。半ばで手に入れば前半とは異なる展開が待っているでしょう。

 しかし最終決戦の最中に覚醒するのでは遅すぎます。

 いつ「特殊な能力」に目覚めて「特別な存在」となるのか。それをきっちりと管理して「あらすじ」を構成してください。



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