1334.物語篇:物語78.ドタバタコメディー

 今回は「コメディー」の王道である「ドタバタコメディー」についてです。

 単に「コメディー」と呼べば、クライマックスで一回笑わせれば性向と言えます。しかし「ドタバタコメディー」は次々と笑いをとらなければ成立しません。

 ゆえにうまく書けたら高く評価されます。

 そもそも「コメディー」自体の難易度が高いうえに、それを連続させる必要があるので、かなり構想力も問われます。





物語78.ドタバタコメディー


「ドタバタコメディー」は次から次へと問題が起こって、それに奔走される物語のひとつです。

 推理ものの連鎖事件との違いは、誰にも危害が及ばない代わりに主人公の立場がどんどん悪くなっていくところです。つまり周りには無害でも、主人公とその近辺だけが振りまわされます。




うる星やつら

 この「ドタバタコメディー」の名作は、なんと言ってもマンガの高橋留美子氏『うる星やつら』です。というより高橋留美子氏の連載マンガで「ドタバタコメディー」になっていない作品があるのでしょうか。それほど「るーみっく」イコール「ドタバタコメディー」の図式が出来あがっています。そこに「読んでハズレなし」の安定感があるのです。

『うる星やつら』では女好きの主人公・諸星あたるの前に、ある日宇宙人のラムが現れます。ここだけを見るとただの「SF」ジャンルの「ボーイ・ミーツ・ガール」ものです。

 あたるはラムと「鬼ごっこ」をする羽目になります。「鬼ごっこ」に勝ったら今度はラムがあたるを「ダーリン」と呼んで結婚を迫ってくるのです。

 どうでしょうか。いきなり宇宙人が現れる、鬼ごっこをする、結婚しろと迫ってくる、と次々に問題が起こって奔走されていますよね。

 これが「ドタバタコメディー」の基本形です。

 ひとつ問題を解決すると次の問題が湧いてくる。その繰り返しでどんどんドタバタが積み重なります。

「るーみっく」の特徴はただの「ドタバタコメディー」ではなく「ドタバタラブコメディー」という点です。そしてそれを男子向け週刊少年マンガ誌で連載したところが非凡と言えます。

 高橋留美子氏はマンガ原作を手掛ける「ストーリーメーカー」小池一夫氏の愛弟子です。しかもかなり優秀だったと小池一夫氏の著書で読みました。「ストーリーメーカー」のお墨付きですから、私たち「プロ」志望の書き手は小池一夫氏や高橋留美子氏から多くを学ばなければなりません。今のライトノベルはメディアミックス戦略の上を走っており、「紙の書籍」は将来の「アニメ化」「マンガ化」「劇場アニメ化」「ドラマ化」「映画化」の前提で成り立っています。

 つまり「マンガ」の発想がなければ「マンガ化」は難しい。将来「アニメ化」する小説が書きたいとしても、過去に「アニメ化」された作品をつぶさに分析しなければなりません。お眼鏡に適ったのはどこかを知らなければ書きようがないからです。

 書いた作品の多くがアニメ化された稀有なマンガ家でもあるので、高橋留美子氏は研究するに値します。ぜひさまざまな作品を読んで「ドタバタラブコメディー」の真髄を見つけ出してみてください。




ドタバタとは矢継ぎ早

 そもそも「ドタバタ」ってなんでしょうね。

 私は「ドタッと問題が起きて、対処していたらバタッと次の問題が起こる」から「ドタバタ」というんだろうなと考えています。

 ではその定義で「ドタバタコメディー」を考えてみましょう。

 まず主人公にいきなり問題が発生します。巻き込まれるのですね。それだけなら「巻き込まれる」物語ですが、「ドタバタコメディー」では解決の見通しが立ったところで次の問題が発生します。主人公は前の問題をうまく収めながら今起こった問題に対処しなければなりません。注意が分散されてしまいますからなかなかうまくいかない。前の問題がきちんと解決したら、中途半端な問題に全力で取り組みます。そちらがうまくいきそうになると、また次の問題が起こるのです。場合によっては問題がふたつまとめてやってきます。主人公としてはお手上げ状態ですが、ここで逃げたら物語が終わってしまうので、とりあえずひとつだけでも解決に向けて進めましょう。目処が立ったらもうひとつの問題に取り組み始めればよいのです。

 ふたついっぺんに対処させてもかまいませんが、絶対にうまくいかないのでオススメはしません。ということは、主人公に失敗させたければ、あえてふたつ以上の問題を同時発生させてすべて対処させようとすればよいのです。そうすれば破綻すること必至です。

 古い例ですが、吉岡平氏「無責任シリーズ」の主人公ジャスティ・ウエキ・タイラーは、たいした能力もない人物ですが、強運だけは人一倍。どんなピンチに陥っても、持ち前の強運ですべて解決します。難事が次々と襲ってきても、すべて同時に解決してしまうほどの強運です。ここまでスゴい強運はめったにいません。だからこそ読んでいて「痛快」なのです。

 また古い例を挙げますが、マンガのまつもと泉氏『きまぐれオレンジ☆ロード』が「ドタバタラブコメディー」のお手本になります。この作品、主人公の春日恭介など春日家の人間は超能力が使えます(恭介の父親は入婿なので使えませんが)。なので正確には「SFドタバタラブコメディー」ということになるのです。これだけ盛れば面白くないはずがありません。

 恭介には気になる同級生の鮎川まどかがいます。そしてまどかの後輩の檜山ひかるが恭介に猛アタックをかけてくるのです。恭介としてはまどかと近づきたいけど、その後輩であるひかるを邪険にするわけにもいかない。このギクシャクとした三角関係が「ラブコメディー」を構成します。

 そして毎回恭介になにがしかの事件が起こるのです。つまり問題が「ドタバタ」と起こります。それを基本的には超能力を駆使して解決するのです。これで「SFドタバタラブコメディー」が完成しています。

 上記しましたが「ラブコメディー」を成立させるには、意識している異性がひとりいて、そこに関係を拒絶しがたいもうひとりが介入する形がベストです。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公・比企谷八幡は奉仕部へ強制入部させられ、そこで部長の雪ノ下雪乃と出会います。程なくして関係を拒絶しがたいもうひとり由比ヶ浜結衣が登場して八幡と雪乃に絡んでくるのです。これで「ラブコメディー」の形は完成しています。「青春」は高校生ということでクリアしているので、あとは「まちがっている」さえクリアすれば「看板に偽りなし」です。

 皆様は『俺ガイル』を読んで「まちがっている」と思いましたか? 私はそれほどまちがっていないように感じました。恋愛感情がゼロだからかもしれませんが、普通の「ラブコメディー」だよねという印象を受けたのです。ただ奉仕部での八幡の依頼解決法はいろいろと「まちがっている」ようではありましたが。まぁただの「ラブコメディー」を書いてもウケないと渡航氏が感じてひねったからこそ、「このライトノベルがすごい!」三連覇での殿堂入りしたのだと思います。

『俺ガイル』は『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』と題することで「ラブコメディー」とはなんぞや、を読み手に問うているのです。「ラブコメディー」好きなら違いを見つけるために、「ラブコメディーを読むのは恥ずかしいな」と感じている中高生なら「これはラブコメディーではない」と認識して、いずれも読まれやすくなります。

 このタイトルがまさに大ヒットの決め手だったわけです。

『Wikipedia』を読むと、このタイトルに決まるまで紆余曲折があったようですね。しかしそこまで悩んだからこそ、あれだけのヒット作となりました。

 皆様も「たかがタイトル」と思わず、最も読まれやすいタイトルを考えてみましょう。

「ラブコメディー」なら「ラブコメディー」好きを狙うか、「ラブコメディー」が苦手を狙うかでタイトルは必然的に変わります。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』ほどハマるタイトルはなかなか見つけられないはずですが、それでも最後の最後までタイトルを考えましょう。投稿してから変えてもよいくらいです。それほどタイトルが持つ「読みやすさ」の威力は絶大です。





最後に

 今回は「物語78.ドタバタコメディー」について述べました。

 矢継ぎ早に問題が襲いかかり、慌てて対処しているさまを見せて「ドタバタ」を演出します。そのさまが滑稽であればあるほど「コメディー」色が強くなるのです。

「ラブコメディー」はそれに恋愛模様を絡めて生み出されます。

 ここでネタバラシしますが、「ラブコメディー」は「コメディー」ほど難しくはないのです。上記したように成立するのに必要な条件がすでにわかっています。このテンプレートに載せるだけで「ラブコメディー」になるのです。

 しかしただの「コメディー」には形がありません。それぞれの書き手が生み出さなければならないのです。

 だから「コメディー」の手始めとして「ラブコメディー」を書いてみてもよいでしょう。



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