1328.物語篇:物語72.真実と抵抗

 主人公には受け入れがたい「真実」が物語には必要です。

 それが主人公の拒絶反応を引き起こし「抵抗」を始めます。

 ときに「真実」は非情な面を持って現れるのです。





物語72.真実と抵抗


 主人公に、とてつもない「真実」が突きつけられる物語があります。

 それを素直に受け入れる場合もありますが、それでは物語にする必要はないのです。

 物語である以上「真実」に抵抗しなければなりません。

 定められた「真実」を打ち壊せるのは、「真実」を知る主人公ただひとり。

 これで抵抗しない主人公では物語を引っ張れないのです。




非情な真実

「真実」とはいつも冷徹で非情なもの。

 主人公にとって不都合な「真実」はなかなか受け入れられるものではないのです。

 物語に登場する「真実」とは、世界そのものを構成している存在の正体かもしれません。主人公の出生の秘密かもしれません。守ると誓ったものの実態かもしれません。

 いずれにせよ「真実」の開示は、読み手へ物語を前に進める「鍵」を授ける手段となります。

 それはとても冷徹で非情な「真実」です。

 ですが「真実」である以上、それを厳然として受け止める必要があります。しかし受け入れる必要はありません。あくまでも「認識」はしても「甘受」しないでください。

 あぁ自分の命はもってあと一か月だそうだ。

 ここから一か月の間になにをするのか。どうせ一か月しかないのなら今すぐラクになろう。そう考える方もいますが、それでは物語になりません。

 余命宣告をされたから、死ぬまで黙って抗わないでいよう、ではここで物語が終わってしまいます。

 残された一か月でなにかこの世に爪痕を残したい。多くの主人公はそう考えます。

 自分が生きてきた証を世の中に、または特定の誰かに残したいのです。そうしなければ生きてきた意味がないとさえ思います。

 冷徹で非情な「真実」は、物語を前に進める「鍵」です。可能性の扉を開けて新たな世界へと羽ばたかなくてはなりません。

 一か月も残されていれば、この世界に、特定の誰かになにか生きてきた証を残せるはず。その行動を起こすための「鍵」こそ「真実」なのです。


 中にはとても温かくて情け深い「真実」もあります。

 たとえば大人になって初恋の人と偶然再会した。そのときその人から「あのときあなたのことが好きだった」という「真実」を告げられたら。それは冷徹で非情かもしれませんが、どちらかといえば心温まる情の深い「真実」として受け止められますよね。

 もしこちらも向こうも結婚しておらず、誰か付き合っている人もいなければ、その告白から新しい物語が始まるのです。




真実に抗う

 冷たい「真実」に熱く抗う主人公もいますし、より冷たく抗う主人公もいます。

「熱く抗う」ほうで有名なのはアニメのサンライズ『機動武闘伝Gガンダム』のドモン・カッシュでしょうか。師匠や兄の正体を知ったり、ネオホンコンの陰謀・野望を知ったり。そのたびにドモンは熱く心を燃やして対決します。明鏡止水の境地を会得しても、熱く反抗する姿に昂揚した視聴者も多かったでしょう。

「冷たく抗う」ほうで有名なのはアニメのサンライズ『コードギアス 反逆のルルーシュ』のルルーシュ・ランペルージことルルーシュ・ヴィ・ブリタニアでしょうか。策略家の一面を持ちますが「ごく普通の高校生」を演じ、世界に反逆する機会を窺っています。そしてあるとき{C.C.《シーツー》と出会い、絶対遵守の〈王の力〉「ギアス」を手に入れて精密な計画による反逆を開始するのです。この作品で「戦略」「戦術」に興味を持った方も多かったでしょう。そして物語が進むとギアス能力者として神聖ブリタニア帝国を率いる王である父と母が計画するある「真実」が突きつけられます。一時的な動揺はあったものの、ルルーシュは限りなく冷たい反抗を企てて実行するのです。

 いずれにせよ「真実」に抗っています。

「熱く抗う」だと映画のシルベスター・スタローン氏『ランボー』シリーズやアーノルド・シュワルツネッガー氏『トータル・リコール』などが有名でしょうか。また香港映画のジャッキー・チェン氏「カンフーマスター」シリーズも、熱く抗っている例となります。

「冷たく抗う」だと映画ではあまり観ませんね。興奮ではなく緻密な「戦略」「戦術」が見せ場なので面白みに欠けるからでしょうか。「推理」ものは基本的に「冷たく抗い」ます。ジェレミー・ブレット氏主演『シャーロック・ホームズの冒険』やデビッド・スーシェ氏主演『名探偵ポワロ』、ピーター・フォーク氏主演『刑事コロンボ』など、名探偵・名刑事はきわめて冷徹に「真実」を追い求めています。「熱く」感情的になると論理的な推理が曇ってしまうからです。

 そう考えるとルルーシュの特異性が際立ちます。「熱い」ロボットアニメなのに、主人公はきわめてクールに策謀を巡らせているのです。つい「熱く」なってしまい失敗していますが、基本的には冷徹な「策士」と言えます。

「策士」と言えば田中芳樹氏『銀河英雄伝説』の主人公ラインハルトとヤン・ウェンリーも挙げられますね。まぁラインハルトは軍事的天才でありながらも感情的になりがちで、そこを冷静に戦局を見渡しているヤン・ウェンリーに突かれて優勢を保てなくなることが多いんですよね。

 ラインハルトが冷徹で非情に設定した戦場という「真実」の中で、ヤンはつねに全体を鑑みて「抵抗」を試みています。作中、ヤンがラインハルトへ意図的に仕掛けた戦いはたった一度しかありません。それ以外はつねにラインハルトの仕掛けに対して受け手であり続けます。それでも「冷静沈着に抗う」姿が多くの読み手に支持されたのです。




抵抗する姿が求心力を生む

 どんな社会にも「規制」「規則」があります。「規制」「規則」があるからそれに「抵抗」する人が現れるのです。

 そして大義のない「規制」「規則」へ「抵抗」する姿には強い求心力が働きます。

 歌の尾崎豊氏『卒業』でも「支配からの卒業」「戦いからの卒業」として、組織(学校)が求める「規制」「規則」を痛烈に批判して多くの共感を集めました。 

 帝国軍と抵抗軍との戦いの場合、どちらを主人公としたほうが面白くなるのか。

 その答えが映画のジョージ・ルーカス氏監督『STAR WARS』です。

 主人公ルーク・スカイウォーカーはジェダイの騎士となり、抵抗軍に加わり、見事デス・スターを破壊しています。もしダース・ベイダーが主人公だったら盛り上がったのでしょうか。おそらく大ヒットしなかったはずです。

 ルークは劇場版二作目でダース・ベイダーの実子である冷徹で非情な「真実」を告げられます。ここでルークは絶望してしまうのです。その反応も当然でしょう。まさか自分の父親が帝国軍の高官だったのですから。

 しかし劇場版三作目でルークは「真実」に「抵抗」して、父そして皇帝を倒して帝国軍を壊滅させます。ルークの葛藤が観客を強く惹きつけ、劇場版三部作は歴史に残る大作となったのです。

 帝国軍と抵抗軍のどちらを主人公にするべきか。波乱がありそうでドラマチックな展開になりやすいのは明らかに抵抗軍側です。

『銀河英雄伝説』も覇者であるラインハルトよりも、彼に抵抗するヤンのほうが主人公としてふさわしいと思う方が多い。

 これは覇道や富貴の人生を歩む人よりも、それらに抵抗する人生を歩む人のほうが圧倒的に多いところにも起因しています。

 だから「抵抗」する姿は大きな求心力を生むのです。




最後に

 今回は「真実と抵抗」について述べました。

「真実」とは冷徹で非情なものです。

 しかし主人公は打ちひしがれてはいられません。必ず「抵抗」するのです。すべてを放り投げて無抵抗でやられ続けるだけでは物語になりません。

「真実」を突きつけられたら、必ず「抵抗」してください。

 たとえ「抵抗」が無意味であったとしても、最後まであがき続けるのです。

 その姿が読み手を強く惹きつけます。



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