1327.物語篇:物語71.巻き込まれる

 抜歯した部分もうまく血の塊ができて出血が止まっている状況です。まだ運動はできませんが、普通のご飯が食べられるらしいのでそこは嬉しいですね。まぁお粥3日ぶん買ってあるから、今日はそれを消化するだけですけどね。軽い運動は明日から再開できるそうです。前のハードな運動に戻すにはあと一週間必要とのこと。地道に戻すしかないですね。焦ると状況が後退しますから。


 小説の主人公はつねに「巻き込まれ」ます。

 ときどき自分から事件を起こしますが、たいていは被害者です。

「巻き込まれる」にはなにかが足りない主人公だからかもしれません。





物語71.巻き込まれる


 主人公が知らず識らずのうちに巨大な陰謀に巻き込まれていく物語があります。

 人と変わらない生活をしていながら、なぜか主人公は巻き込まれてしまうのです。

 巻き込まれるのにはそれなりの「理由」があります。しかし主人公本人の都合ではないかもしれない。

 陰謀を巡らせる側が選別して、主人公を巻き込んでいくのです。




なにかが足りない主人公

 たとえばお金が足りない主人公は、金儲けの陰謀に巻き込まれやすい。

 知識が足りなければ、学習教材の販売に巻き込まれやすい。

 体力がなければ、臓器売買に巻き込まれるかもしれない。

 運がなければ、占いや宗教にハマるかもしれない。

 足りなかったりなかったりすると、それが元でなにかに巻き込まれるのがこの物語の特徴です。

 考えなければならないのは「誰の陰謀や行ないに巻き込まれる」のか。

 主人公に足りないものないものを補完できる誰かが、陰謀や行ないを起こします。

「巻き込まれ」の物語は、たいてい巻き込まれた瞬間から話がスタートするのです。そして「なぜこんな状況になったのか」を回想しながら説明していく。つまり現状を説明しても違和感が出ないのです。その説明は主人公の認識であり、本当の理由かどうかはわかりません。ですが、少なくとも主人公がどんな人物でどんな状況にあるのかは簡単に語れます。

 だからこれから小説を書きたい方は「巻き込まれ」の物語を最初に書くとよいでしょう。冒頭から説明してもまったく違和感がないので、どのレベルの書き手でもお手軽に書けてしまいます。

 あとは「なにかが足りない主人公」なのかを決めるだけです。

 正直に言って、主人公が幼くてもバカでも成立する物語は「巻き込まれ」であることが多い。

 なにがきっかけで始まるのか。主人公には最初まったくわかりません。

 しかし物語が進むにつれ、なぜ主人公は「巻き込まれ」たのか判明していきます。

 怠惰を戒めるためかもしれませんし、勉強のたいせつさを思い知るためかもしれません。

 ここまで書いてきてマンガの藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』も主人公・野比のび太の怠惰を戒めるための物語だよなぁと気づきました。ドラえもんはひみつ道具を出してのび太に渡します。そもそもそのドラえもん自体が子孫のセワシが送ってきた猫型ロボットです。のび太は見事に「巻き込まれ」ています。

 そう考えると『ドラえもん』はかなりの物語が内包されている、とても多彩な作品になっています。

 多くのジャンルの物語を形にした手塚治虫氏とは別に、多彩な物語の形を生み出し続けた藤子・F・不二雄氏も尊敬されて然るべき存在ですね。

 私たち後発の創作家は『ドラえもん』から物語の多くを学べます。もちろんいつでもどこでも読めるマンガがベストですが、アニメを毎週見ているだけでも刺激を受けられるでしょう。




巻き込まれたら抗うか従うか

 主人公がなにかに「巻き込まれ」たら、それにそのまま受け入れるか、それとも抗うか。どちらかの行動をとります。

『ドラえもん』を出しましたので、こちらも同様に考えてみましょう。

 まず学習机の引き出しがタイムマシンの出入り口になって、ドラえもんが飛び出してきます。のび太にはこの猫型ロボットをそのまま受け入れるか、拒むかが選べるのです。

 とにかく怪しさ満載うさんくささ満載であれば、きっと抗うでしょう。

 しかしのび太はドラえもんを受け入れます。そうしないと物語が進まないのもあるのですが、実際にひみつ道具を出されて使ってみたら面白かった。そうなると素直に受け入れますよね。

 マンガだとほったゆみ氏&小畑健氏『ヒカルの碁』の主人公・進藤ヒカルは「巻き込まれ」て心の中に藤原佐為が宿るのです。最初は「碁なんて興味ない」と言っていたヒカルですが、そうすると佐為が悲しんで強烈な吐き気に見舞われます。つまり抗ったら強い反応があったため、仕方なく碁を打ちにいくようになるのです。そこから宿命のライバルである塔矢アキラと出会い、ヒカルは己の実力でアキラを倒すべく精進する日々を始めます。

 たいていの「巻き込まれ」の物語では初めは抗うものです。当たり前ですよね。なにせ自分はそうするつもりがないのに状況を押しつけられるのですから。

 しかし物語の進行上、最初から受け入れてしまう物語もあります。

 たとえば「異世界転移ファンタジー」なら抗ったところで、元の世界に戻れるとはかぎらない。戻る方法を見つけ出すためには、異世界を生き延びるしかないのです。だから「異世界」に放り出されたら、現状を素早く認識し、どうやって帰ればよいのか知る必要があります。




巻き込まれから抜け出す

「異世界転移ファンタジー」なら、現実世界に戻る方法が見つかったら、もう異世界に縛られる必要はありません。しかしある特定の日時と場所が定められているのなら、そのルールに従う必要はあります。その機会を逃すと、次はいつ戻れるかわからなくなるからです。

 連載小説で「異世界転移ファンタジー」を書いている場合、この「現実世界に戻る機会」をあえて逃して連載を続ける方法があります。たとえば一年に一度、ある場所である時刻になると現実世界へ戻る門が出現するとわかっているのなら、一度機会を逃せばさらに一年ぶん連載できるのです。

「巻き込まれ」の物語なら、巻き込まれている間に経験したものが心に引っかかるときがあります。そのときは引っかかりを解消してから抜け出したいところです。そのほうがきっちりと終われますよね。異世界生活でやり残しがなければ、いつでも帰れるのです。しかしやり残しがあると、それがどうしても気になってしまいます。そこに「異世界転移ファンタジー」の基本的な考え方があるのです。

 ある出来事に「巻き込まれ」、さまざまな経験をして心境が変化し、現実世界へと戻る。それだけならひじょうに単純な物語です。しかし異世界に未練があると、それを解決しないことには帰る気が湧かないおそれもあります。

 異世界でやり残したものをすべて解決できたら、いつでも現実世界へ戻れるのです。でも戻る方法によっては一年待たなければならない。一年も異世界にいたら、たいていの場合別の問題が持ち上がっているはずです。

 だから「巻き込まれ」からの「抜け出し方」がわかっている場合、その前提次第で連載はいくらでも伸ばせます。

『ドラえもん』がひとつのテーマとなっていますので、ここでも考えてみましょう。

 まず「ドラえもんによって矯正される」のが「巻き込まれ」の理由です。であれば「抜け出し方」は自ずと判明します。「矯正されれば」よいのです。つまり勉強に目覚めて怠惰を卒業し、成績優秀でしずかちゃんと結婚する。そうすれば未来のセワシの環境も変わりますから、ドラえもんを未来へ送り返すことになるかもしれません。問題はいつまでドラえもんに頼った生活をすることになるのかです。『ドラえもん』では小学五年生で固定されていますから、ひょっとするとその一年だけで矯正できているのかもしれません。映画の『のび太の結婚前夜』ではすでにドラえもんは存在していません。つまり最低でもそれまでの間にドラえもんは未来へと帰っているはずなのです。

「巻き込まれ」の物語で、これほど明確にゴールが定まっているるのも珍しい。

 主人公本人の意志とは無関係に「巻き込まれ」るのですから、普通なら抗い続けるものです。でも物語の主人公は最初こそ抗いますが、すぐに受け入れて従います。長く抗っているほど時間と紙幅を費やしているだけですからね。

 しかし物語の半分以上抗い続ける作品もあります。これは「抗う」ことそれ自体に意義がある作品なのです。

 抗い続けた先に待っているものとは。

 あるいは世界の真実かもしれません。

 そんな「巻き込まれ」の物語もありうるのです。





最後に

 今回は「物語71.巻き込まれる」について述べました。

 おおかたの作品は、最初こそ抗いますが、すぐに状況を受け入れて抜け出す方法を見つけ出そうとします。「異世界転移ファンタジー」は「現実世界へ戻る」のが抜け出す方法です。それがわかったら、もう異世界に居続ける理由はありません。しかし状況としてどうしても気がかりになってしまう事案があるのなら、それが解決するまでは居続けてもよいでしょう。そのために「現実世界へ戻る」機会を一回逃してしまいますが。それが致命傷になる可能性もあるため、あまり何度も機会を逃すようだと、それはもう「異世界転移ファンタジー」である必要がありません。そうなったら、もう「現実世界へ戻る」のをやめ、異世界で死ぬまで生きていこうと考えているようなものです。

 また「巻き込まれ」たときからずっと抗い続ける物語もあります。とくに突拍子もない出来事に「巻き込まれ」たら、かかわりたくないと考えて抗い続けるものです。

 単なる「異世界転移ファンタジー」に飽きたら挑戦してみてもよいでしょう。



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