1164.技術篇:サプライズを仕込む

 今回で毎日連載一一〇〇日になります。

 私の資金もそろそろ心許なくなってきましたが、続けられる範囲で連載していこうと思います。

 ただ毎日連載は途切れるかもしれません。

 日中に日銭を稼ぐようになったので、以前ほど本コラムに傾倒できなくなったからです。

 ですので、もし本コラムの毎日連載が途切れたら「お金が切れたんだな」と思ってください(笑)






サプライズを仕込む


「文豪」の書いた名作は、すでに読み古されていて新鮮さに欠けるかもしれません。

 しかし新作小説は、誰が読んでも新しいものです。

 作中のどんな出来事にも「サプライズ」を感じます。




名作には驚きがない

 小中学校の国語の授業では、今も「文豪」の名作を取り上げています。

 だから高校生や大学生、社会人となって名作を読んだとき、そこに驚きはありません。授業でよいところをつまみ食いしたせいか、驚きの展開を知っているからです。

 また「文豪」の作品は基本的に短編小説か、十万字前後の長編しかありませんでした。本格的な連載小説は、世界初の長編小説である紫式部氏『源氏物語』まで遡ります。ですが明治以降「文豪」の活躍した時代に、複数巻の連載小説は書かれなかったのです。

 まず出版そのものが難しかった。『源氏物語』はその面白さから写本が数多く作られては回し読みされ、知名度を一気に高めたのです。だから二十一世紀の今にも作品が残っているのです。

「文豪」の活躍した時代に「活版印刷」が始まりました。しかし都度、活字の文字組みをして輪転機にかける手間がかかるため、一度出版した作品はよほどのことがないかぎり増刷されなかったのです。だから「連載小説」は必ず販売数が先細りするため、書かれなかった。そもそも当時の小説は高価でしたから、よほどの知識層にしか売れなかったため需要もほとんどありませんでした。

 だから「文豪」の作品は基本的に短編小説で、人生に一作長編小説を書けばよいほうだったのです。

 そのせいで「文豪」の名作には驚きがほとんどない。物語の展開を楽しませるのが精いっぱいで、驚きを仕込む余裕がなかったのです。

 芥川龍之介氏『羅生門』にも、夏目漱石氏『吾輩は猫である』にも、川端康成氏『雪国』にも、物語に驚きはありません。いずれも結末へ淡々と歩んでいく展開になります。

 おそらく「文豪」で初めて読み手に驚きを与えたのは小泉八雲氏でしょう。怪談は読み手に驚きを与えなければなりません。驚きのない怪談はないのです。




驚きには説得力が必要

 また江戸川乱歩氏、横溝正史氏に代表される「推理」ものも、読み手に驚いてもらわなければ奥深さが出ません。いつの時代の名探偵も、つねに我々の想像を超える名推理を披露してくれます。

「想像を超える名推理」ですが、私たちは本文中に書かれている手がかりを読んではいるのです。でもそれが推理につながらないから「想像を超える名推理」は生まれます。

 推理の材料はすべて本文中に書かれていなければなりません。

 それでも読み手が先に犯人を見つけてしまうようでは駄目で、いかに読み手の推理を巧みにかわせるか。

 説得力とは「本文中に書かれている手がかり」のことです。

 それまでまったく書かれていないものを手がかりにしてはなりません。

 唐突すぎて、それまで読み手が論理的に構築してきた推理をあざ笑う行為です。

 本文中に手がかりが書かれているのに、名推理を読むまで真相に気づけない。だから名推理を読んだときは新鮮な驚きに満ちています。驚きの爽快感こそ「推理」ものに読み手が惹かれる理由です。

 読み手が素直に驚いてくれるのは、説得力があるから。説得力は推理の材料がすべて本文中に書いてあるから。

 これはなにも「推理」に限った話ではありません。

「剣と魔法のファンタジー」でも、物語を進めるためには説得力が必要です。

 主人公の勇者が、実は国王のご落胤だった。これなら勇者が厚遇されても不思議はありません。では説得力はあるのでしょうか。

 作中では勇者が厚遇されまくっていますが、冒頭からご落胤だと明かしてしまったら面白さは半減しかねません。物語の説得力はあるでしょうが、「謎」が最初からバレているのは面白いのでしょうか。




連載では回の締めに驚きを置く

「推理」の話をしてきましたので「推理」で進めてみます。

 まず驚きに説得力を持たせるには、本文中に手がかりがなければならない。

 そして驚きは連載作品ならその投稿回の締めに出してください。

「犯人はあなただ!」とだけ言ってその回を締めてしまうのです。

 すると「もう犯人がわかったのか!? 私はまだわからないんだけど」と読み手が思い始めます。焦ってくるのです。だからもう一度頭から読み直して「手がかり」をすべて見つけ出そうとします。でもそう簡単にわかるような手がかりを書き手は残していないものです。

 ストレートな手がかりを残していれば、読み手にすぐ見破られて面白くならない。

 逆にどう考えてもそんな解決にはつながらない手がかりを残すと、今度は読み手がさじを投げます。見限られるのです。ありえない推理に納得できる読み手などいません。

 だから探偵が「その謎、見破ったり!」というところでその投稿回を終えると、読み手は「出し抜かれた!」と焦ってしまうのです。

 犯人を特定するだけの材料はすでに揃っているのか。私は重要なピースを拾い忘れているのか。解決回を読む前に、なんとしてでも地力で「謎」を解いてみせる。

「推理」ものの醍醐味がまさにこの「名探偵よりも先に謎を解いてやる」です。

 解決回を読んで推理が外れたと知っても「それが真相だったのか」と驚くとともに納得します。なにしろ推理に必要なピースはすでに本文中に書かれていたのですから。

 真相を突き止められなかったのは、読み落としていた自分が悪かった。真相を巧みに隠したこの書き手はすごい。

 投稿回の最後に名探偵が「犯人がわかった!」と言って終われば、読み手に最も驚きを与えられます。

「剣と魔法のファンタジー」にも「謎」は必要です。「謎」こそが作品を読み進める原動力となります。その「謎」を解明するための「手がかり」も事前に仕込んでおきましょう。





最後に

 今回は「サプライズを仕込む」について述べました。

 自分は「異世界ファンタジー」を書くから「謎」なんて要らない。

 そんな方もいらっしゃると思いますが、「異世界ファンタジー」だからこそ「謎」が必要なのです。

「わからない」からこそ「知りたい」と思います。「知りたい」から続きを読んでくれるのです。

 一話完結でないかぎり、すべての小説には「驚き」と「謎」を作るべきです。そして次話で仰天してもらいましょう。



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