1159.技術篇:自由間接話法
「鍛錬篇」で根性論をこれでもかと書いたので、「技術篇」はテクニック重視にしています。
今回は「自由間接話法」について。英語で小難しい話をさんざん聞いてきたと思いますが、日本語だと意外と簡単なのです。
でも簡単だからこそ、間違いやすいので注意しましょう。
自由間接話法
最近本コラムが精神論を基軸にしていたので、たまにはテクニックをひとつご紹介しようと思います。
皆様は「自由間接話法」という文体をご存じでしょうか。
「主に三人称視点なのに、ときどき一人称の心情を『引用符なし』で書き込む」文体です。
誰か固有の視点ではない「自由な視点」なのに、そこに特定の視点が「間接」的に入り込む形だから「自由間接話法」と言われます。
基本はノリツッコミ
「自由間接話法」というと英語の小難しい文法をすぐに思い浮かべると思いますが、日本語にするととっつきやすくなります。
なぜなら、日本には漫談があり「自由間接話法」にも自然と触れ合っているからです。
まずツッコミ担当が小噺の設定を口にします。
するとボケとツッコミがシチュエーションを再現するのです。この再現を観ている間は三人称視点になっています。ボケの視点でもツッコミの視点でもありません。どちらでもない観客の視点です。
あるところまで話が進むと、漫談ですからボケが突飛なことを言います。ツッコミは「それはないやろ」とボケを制するのです。これは観客も同じことを思っていますから、ツッコミの視点を共有します。多くはこの状況を「自由間接話法」と言っているのです。
ただしこれは厳密には「自由間接話法」ではありません。
本当の「自由間接話法」はノリツッコミです。
ボケが突飛なことを言い出したら、ツッコミが「そやな〜、そんなこともあるわな〜」と返す。するとどうなるか。ツッコミと観客が同時に「そんなわけあるかい!」とツッコミを入れます。
そうです。物語の語り手(漫談では進行のツッコミ)と読み手が同時にツッコミを入れるところが「自由間接話法」なのです。
これをお笑いでは「ノリツッコミ」と呼びます。
物語の語り手とツッコミは本来別の人格です。ですが「ノリツッコミ」の場面においては語り手がツッコミとともに文章で主張します。
自由間接話法でない(ただのツッコミ)
ではさっそく実習してみましょう。
まずは書きやすい「ただのツッコミ」から始めてみます。
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景子は目覚まし時計のアラームに起こされた。けたたましく鳴り響くアラームを止めるには、ベッドから起き出して部屋の入口まで歩いていかなければならない。なぜそんなところに目覚まし時計を置いたのか。ものの本に書いてあったのだ。二度寝を防ぐには、ベッドから抜け出さなければならない位置に目覚まし時計を置くべきだと。
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「なぜそんなところに置いとんねん」というツッコミを入れました。しかしただ地の文に埋もれてしまっていますよね。これではツッコミ甲斐がありません。
自由間接話法である(ノリツッコミ)
そこで、今度はさらにノリツッコミを入れてみます。
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景子は目覚まし時計のアラームに起こされた。けたたましく鳴り響くアラームを止めるには、ベッドから起き出して部屋の入口まで歩いていかなければならない。なぜそんなところに目覚まし時計を置いたのか。ものの本に書いてあったのだ。二度寝を防ぐには、ベッドから抜け出さなければならない位置に目覚まし時計を置くべきだと。こんな日が続くのなら、いっそ枕元に目覚まし時計を置いたほうがまだましである。よし、今から目覚まし時計を枕元に持ってこよう……って結局起こされるんじゃないか! 本のとおりじゃないか!
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「よし、今から目覚まし時計を〜」でノリを入れてから「…‥って結局起こされるんじゃないか!〜」でツッコミを入れてみました。
どうでしょう。ただツッコミを入れたときよりも、景子の心情が際立って見えませんか。
とくに「よし、〜」から後は明確に景子の視点で語っていますよね。それでいて三人称視点が破綻していないのです。
これこそ「ノリツッコミ」が「自由間接話法」である証左になります。
交ぜる一人称は主人公ひとりだけ
ここで注意したいのは「自由間接話法で交ぜていいのはひとりの視点だけ」ということです。
もし「自由間接話法で複数の視点を交ぜて」しまうと、三人称視点から「神の視点」へと切り替わってしまいます。あくまでもひとりの視点だけが「自由間接話法」で入るから、三人称視点を維持できるのです。
そして交ぜる視点は主人公だけにしてください。
「対になる存在」や脇役の視点が交じると、やはり「神の視点」になってしまいます。
三人称視点でもしっかりと主人公を追っているからこそ、「自由間接話法」で主人公の視点が割って入っても自然な三人称視点となるのです。
「自由間接話法」は三人称視点を「神の視点」にしやすいという弱点があります。
これを理解したうえで「自由間接話法」を用いているから、文章に躍動感があふれるのです。「書きたいように書けるから」で「自由間接話法」を使うのは、文章が破綻しやすいので絶対に避けましょう。
「自由間接話法」は三人称視点で主人公を追っているときに、主人公の視点をちょっと取り込むだけに限定するべきです。
誰の心も書き放題にして「ここは自由間接話法です」と言っても、選考さんから「神の視点なのでボツ」と言われてしまいます。
「いつでも自由に主人公の視点を間接的に割り入れる話法」が「自由間接話法」です。
主人公のノリツッコミだからこそ、読み手もつられてノリツッコミに感情移入できます。
ちなみに「主人公の一人称視点」に「自由間接話法」は使えません。なぜなら、すでに主人公の視点で描いていますから。そこへさらに主人公の視点を割り入れても、それはただの「主人公の一人称視点」から外れませんよね。
最後に
今回は「自由間接話法」について述べました。
使えるのは「三人称視点」のときだけです。
「主人公の一人称視点」に「自由間接話法」は入れられません。すでに主人公の視点で語っているからです。
また「三人称視点」でも「自由間接話法」で割り入れられるのは「主人公の視点」だけ。「対になる存在」や脇役の視点を入れてしまうと「神の視点」になってしまいます。
本コラムでは基本的に「一人称視点」をオススメしていますので、「自由間接話法」を用いる余地はありません。特段意識しなくてもよいのです。
「三人称視点」に躍動感を与えたいときだけ、「自由間接話法」は使えます。
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