1154.技術篇:一人称視点と書き出しのポイント

 今回は「一人称視点」「書き出し」「予想を裏切る」についてちょっとしたポイントをお話致します。

 今まで伝えきれていない印象がありましたので一本書きましたが、まだ足りないような気もするのです。もしかしたらもう一度お話する機会があるかもしれません。





一人称視点と書き出しのポイント


 本コラムでちょくちょく出てきた「一人称視点」と「書き出し」について。

 ここまで読まれた方へ改めて「一人称視点」を推奨します。

 そのうえで「書き出し」を工夫して、「続きが読まれる」作品にしましょう。




地の文で主人公の人となりを表す

 小説の基本は「一人称視点」です。

「地の文」は主人公の見たもの聞いたもの感じたもの思ったもの考えたものを、主人公の声ですべて書きます。

 これらの情報が、読み手を主人公へと没入させるのです。

 たとえば以下のような書き出しがあったとします。

――――――――

 私には夢がある。世界の果てを越え、新世界へ踏み込む最初の人間になるのだ。しかし現在は王立高校に通う一生徒にすぎない。

――――――――

 これだと「私」の性別がわかりません。しかしきわめて冷静で大きな野望を抱いている人物かなと感じますよね。


――――――――

 あたしには夢があるの。世界の果てっていうのを越えて、新世界へ踏み込む最初のひとりになるの。でも今は王立高校に通う生徒でしかないの。

――――――――

 こう書くと「あたし」は女性かな、語尾が「の」になる人なのかな。「っていうの」なのでノリのよい印象も受けますよね。


「一人称視点」はこのように「地の文」の書き方だけで、主人公の人となりが明確に書き分けられるのです。

 男女だけでなく、小学生も老人も「地の文」だけで書き分けられます。

 ただしキャラの統一が難しい。

「ノリのよい女子高生」の文体で書いてきたのに、ある場面で聞き分けのよいお嬢様のようなキャラになってしまうと、読み手は一気に興ざめします。

 一度作り上げたキャラを崩さずに書き続けられるようになりましょう。そうすれば読み手は主人公へ感情移入を深めて物語にのめり込み、心から楽しんでくれるのです。




意味深なキーワード

 書き出しはつねに読み手へ「謎」を投げかけるべきです。そうしないと次文は読まれません。読み手がその作品に惹き込まれず「平凡」だと感じてしまうからです。

 今回の例では「夢」という「謎」で、読み手を次文へと誘っています。

 すると「世界の果て」「新世界」という「意味深なキーワード」が出てくるのです。

 なにか気になりますよね。

 この「意味深なキーワード」が、作品のその先が面白そうかを読み手に感じさせるのです。

「世界の果て」とはどういうものなのだろうか。「新世界」とはこことどう違うのだろうか。

 そういった物語の大きな伏線となるのが「意味深なキーワード」の特徴です。

 書き出しの数文で「地の文」に「意味深なキーワード」が登場するかどうか。

 それが「続きが読まれる作品」と「続きが読まれない作品」を分けるのです。

「意味深なキーワード」は非日常の単語であればよい。「企画書」「あらすじ」も創らず物語の結末がわからないのに、暗示する単語を書き出しの数文に書けるものでしょうか。これはあなたの構想力が試されます。

 たとえば「剣と魔法のファンタジー」で勇者に憧れる少年が、将来魔王を倒す物語だとします。

 であれば「勇者」「魔王」という「意味深なキーワード」を書き出し数文に書ければ、「これは勇者が魔王と戦う物語なんだな」と期待させられるのです。

 逆に主人公が魔王になって勇者と戦う物語でも、同様に「勇者」「魔王」という「意味深なキーワード」を用いましょう。

 もし結末で主人公が死ぬのなら、書き出し数文で「死」について書いておきます。よく用いられるのが「自分が死ぬ夢を見る」書き出しです。他にも飼い犬の死や、暴漢を殺すシーンであれば、結末に訪れる「死」に納得感が出ます。

「意味深なキーワード」で前フリをしておくだけで、結末に必然性が生まれるのです。


 これは以前提起した「書き出しと結末をゴム紐で結んだ片輪走行」の状態です。

 途中どんな展開になっても、片輪はつねに地面に着いているから、本筋を外れません。

 書き出しで「死」を暗示し、結末で「死」を表現する。

 それは血脈を絶つための「死」かもしれません。また再生のための「死」かもしれません。

 前者は物語を強制的に閉じる終わり方ですし、後者は未来へ希望を託す終わり方になります。どちらの終わり方にせよ、結末で主人公に「死」を与えるのなら、書き出しからすでに「死」を匂わせるべきです。

 本項で書いた「夢」という「謎」は次文のために、「世界の果て」「新世界」という「意味深なキーワード」は結末のために存在します。

 つまり書き出しを読んだだけで、どういった物語なのかがだいたいわかるのです。

 小説投稿サイトではとても優位で有利な書き出しになります。

 冒頭の試し読みで「これ面白そう」と感じてもらうには、「謎」と「意味深なキーワード」が書き出し数文にあるべきです。

 読み手が試し読みしてくれるのはせいぜい五文まで。できれば三文の中に「謎」と「意味深なキーワード」を入れるようにしてください。

 冒頭の試し読みをするとき、読み手は無意識で「謎」と「意味深なキーワード」から「三題噺」を瞬時に計算してしまうのです。それで「面白そう」か「つまらなそうか」、「ためになりそうか」「くだらなさそうか」を判断します。

 無意識に計算されるため、読み手はどうして「面白そう」と思ったのかを理解していません。カンで「面白そう」に感じたと思っているのです。

 でも、そのカンが「三題噺」から来ると、書き手である私たちは知っています。知らずに小説を書く人は相当鈍いと言ってよいでしょう。

 今まで第二話以降の閲覧数が大きく下がった方、ブックマークが少なかった方、評価が低かった方は、「謎」と「意味深なキーワード」を冒頭で読み手へ投げかけていたでしょうか。

 もし冒頭に書いていなければ、読み手は予想を裏切られて作品から離れてしまいます。


 まぁなにごとにも例外はあって、予想がよい方向に裏切られた場合は求心力がぐんと高まるんですけどね。たとえば「初恋同士の純愛物語」と見せて魅力的な人物をひとり登場させる。すると三角関係になって「純愛物語」が成立しなくなります。これで当初の予想が裏切られてしまうのです。

 ですが、ただの「純愛物語」よりも「三角関係で揺れ動きながらも、初志を貫徹する純愛物語」のほうがドラマチックな展開になりそうですよね。これが「予想がよい方向に裏切られた」場合になります。

 逆に「三角関係の物語」だと見せて、実は「ふたりだけの純愛物語」になってしまったら。これは「予想が悪い方向に裏切られた」場合になります。「三角関係」が目当てなら、Aくんに惹かれながら、Bくんも捨てがたい。Bくんのメンツを立てようとしてAくんとぎこちなくなる、といった主人公の心の揺れ動きを読みたいわけですよ。それなのにAくんとだけ関係を深めていくと、Bくんが刺身のツマになってしまいます。もっとハラハラしたいのに、「ふたりだけの純愛物語」になってしまって興醒めしてしまうのです。


 実はこのふたつの話。アニメのサテライト『超時空要塞マクロス』が両方とも使っています。

 主人公の一条輝は、アイドルのリン・ミンメイと「純愛物語」を続けていきますが、途中から上司の早瀬未沙が輝に絡んできて「三角関係」へと発展する。上記しましたが、これは「予想がよい方向に裏切られた」場合です。そして最終決戦を前にして輝はふたりのうち一方を選びます。そうして「三角関係」は終了したのです。

 しかし地球を再生させる過程で、輝は選ばなかったはずのもうひとりが気にかかり、また同じ「三角関係」に戻ってしまうのです。そして選んだはずのひとりとの仲が悪くなっていきます。これは「予想が悪い方向に裏切られた」場合です。それでも最終話で先に選択した一方をもう一度選択することである程度「ラブストーリー」を収束させています。

 つまり『超時空要塞マクロス』は「よい面」もあり「悪い面」もある物語なのです。

 この評価を「よい方向」へと振り向けたのがOAVとして発売された『超時空要塞マクロスII』になります。『超時空要塞マクロスII』では「変形メカ」「歌」「三角関係」の三本柱を打ち立てて、マクロスシリーズの土台を築きあげました。以降、マクロスシリーズはこの三本柱を守った作品を量産して大ヒットを飛ばしているのです。『MACROSS PLUS』『マクロス7』『MACROSS ZERO』と続いた作品は、『マクロスF』でひとつの完成形を見ます。そう、「銀河の妖精」シェリル・ノームと「超時空シンデレラ」ランカ・リーが主人公早乙女アルトと演じる三角関係。菅野よう子氏の音楽に乗せて繰り広げられる、変形メカのバトルが魅力の一大叙事詩となったのです。

『マクロスF』が優れていたのは、物語冒頭では三角関係でもなかった三人が、次第に惹かれ合って三角関係となり、それが物語のラストまで続いたところにあります。つまり「裏切り」がなかった。とくに『劇場版マクロスF 恋離飛翼〜サヨナラノツバサ〜』で、最終バトル直前に三角関係から主人公が片方を明確に選択し、あとは戦いに勝つだけ。という展開にしたのが効果的でした。これで『マクロスF』はシリーズを代表する大ヒット作品となりました。

「三角関係」を扱いたいなら、物語の最後まで三角関係を続けて、片方と結ばれて終わらせましょう。それが「三角関係」の物語の肝だからです。

 また予想を裏切るのであれば「よい方向へ裏切って」ください。

『超時空要塞マクロス』は第二十七話「愛は流れる」までの物語として観れば、とてもよく出来た「三角関係」の物語です。しかし延長が決まって再び「三角関係」が始まってしまうと視聴者は「悪い方向へ裏切られて」しまいます。しかも先に選択したほうをもう一度選択しますから、増えた話数ぶん物語がぐだついたのです。もし三角関係で先に選ばなかったほうを選んだのであれば、延長した意味がありました。でも元鞘ですから、増やした意味がありません。





最後に

 今回は「一人称視点と書き出しのポイント」について述べました。

「一人称視点」は主人公の人となりへ読み手をはめ込んでいくのに適しています。

 つまり読めば読むほど没入しやすいのが利点です。

 しかしちょっとしたミスで違和感を与えやすいのも「一人称視点」の性質。慣れないとキャラがブレてしまいやすいのが玉にキズです。

「書き出し」では「謎」と「意味深なキーワード」を必ず盛り込みましょう。冒頭試し読みで読み手に「三題噺」を連想させられなければ、その作品は続きを読まれません。

 基本的に「三題噺」からの連想ゲームの通りに話を進めてください。

 応用として「三題噺」から離れない程度の「予想をよい方向へ裏切る」展開をしてもよいのですが、連想ゲーム通りのほうが格段にわかりやすい物語になります。



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