1144.鍛錬篇:根拠のない自信を実績で塗りつぶす

 今回は「自信」についてです。

 人間はわからないものを恐れるものですが、逆に妙な自信を抱く人もいます。

 この差はなんなのでしょうか。





根拠のない自信を実績で塗りつぶす


 人間とは面白いもので、できるかどうかわからないものほど「根拠のない自信」がみなぎります。

 宝くじだって、末等千円が当たる確率は1/10なのに、三百円を出して買うのです。「当たるかどうかわからない」のに妙な自信から「自分なら当たる」と思い込みます。




確率を自信と勘違いする

 たとえばコイントス勝負で、表が出たら百円もらい、裏が出たら百円払うとします。

 確率は50パーセントなので、勝負してもしなくても基本的にプラスマイナス0です。

 サイコロを振り、1か2が出たら百円もらい、3から6が出たら五十円払うとします。

 こちらも確率は1/3なので、勝負してもしなくても基本的にプラスマイナス0です。

 ではサイコロを振り、1が出た百円もらい、2から6が出たら三十円払うとします。

 あなたはこの勝負を受けますか。

 三十円損するか、百円得するかという勝負です。ちょっと色気が出てきますよね。

 冷静に考えれば期待値が▲八.三円となり、回数を重ねるほど不利です。

 しかし確率1/6に妙な自信を持つ方が少なくありません。だから賭博カジノは今も世界中でプレイされているのです。

 確率が明示された賭博として私たちの身近にあるのは「パチンコ」「パチスロ」だと思います。以前は大当たりの出る確率はわかりませんでしたが、近年「大当たりの出る確率を明示する義務」がパチンコ・パチスロ店に課されました。これにより「当たり台」「外れ台」を遊戯客が選り好みできるようになったのです。

 だからこそ「パチプロ」と呼ばれる方々は、今日も三店方式で生活保護費を賭けています。

 彼らとは縁遠い私たちは、なぜ低い確率なのにそこまでのめり込むのか理解できません。

 しかし彼らは皆「根拠のない自信」にみなぎっています。その意気込みは開店前の行列を見てもわかるでしょう。「根拠のない自信」が持てるのは、明らかに錯覚です。冷静に算数で計算すれば、どれだけ割の合わない賭博なのか、小学生でも理解できます。でも彼らは皆「この程度の確率、俺なら勝てる」と思っているのです。

 ここまで書いてきて、最も皆様と縁のある賭博を見つけました。

 スマートフォンの基本無料・都度課金制のゲームアプリで採用されている「ガチャ」です。

「ガチャ」も景品表示法の改正によって確率が明示されるようになりました。1パーセントにも満たないレアカードを引くため、何百回と「ガチャ」に課金する。明らかにコストパフォーマンスが悪いのです。しかも「ガチャ」は何円ぶん回したのか感覚的に把握できません。翌月の請求書を見て初めて「えっ、こんなに使ったの!?」となるのです。

 その意味ではパチンコ・パチスロよりも悪質かもしれません。パチンコは現金が玉に、パチスロはメダルに変わるため、自分が今何万円使っているのかを管理できます。しかし「ガチャ」は今何万円使っているのかを管理できないのです。

 それでも皆様は妙に「根拠のない自信」を持って「ガチャ」を回しますよね。「同じ確率のあのカードが出たんだから、狙いのカードだってそのくらいで出る」と思い込んでしまうのでしょう。




方程式を自信と勘違いする

 パチンコ・パチスロ、「ガチャ」と異なる賭博に競馬、競輪、オートレース、ボートレースという公営ギャンブルがあります。

 いずれもどれが一着になるのかを当てる賭博です。

 この賭博がパチンコ・パチスロ、「ガチャ」と異なるのは、参加者が「どれがいちばん強そうか」「どれが勝ちそうか」、条件を前提にして予想できる点です。

 競馬なら「今日は十二頭立てで重馬場。スプリント勝負だから脚力のある馬が有利だろう」と前提を考えて予想します。

 競馬などの当選は確率ではありません。「方程式は存在しないけど結果が出る計算」のようなものです。

 馬券師は存在しない「方程式」を各レースごとに自ら編み出し、勝ち馬を予想します。

 だからこそ予想した勝ち馬が一着に入れば高揚するのです。勝ち馬を当てた自分の「方程式」に満足します。思いを託した馬が勝ったのが嬉しいというより、「方程式」の正しさを証明したのが嬉しいのです。

 こうして毎週「方程式」を立ててお金を賭けていくようになると、自分の立てた「方程式」に妙な「自信」を覚えます。それが競馬にのめり込む理由です。

 馬券師の多くが「このレースを当てた俺の方程式は正しかった。だから次のレースの方程式も正しい」と妙な「自信」を持っています。

 しかし先ほど書いたように「方程式は存在しないけど結果が出る計算」なのです。

 つまり馬券師の立てた「方程式」が正しい結果を導き出す保証はどこにもありません。馬券師は「根拠のない自信」で「方程式」を立てているにすぎないのです。

 賭けたすべてのレースを当てる馬券師はいません。いたらその人の後追いで馬券を購入すれば、ひと財産築けるどころか生涯食いっぱぐれない。働く必要すらありませんよね。

 そうして「プロ」の馬券師が次々と生まれては破産して、生活保護を受ける羽目になるのです。




大賞は確率や方程式ではない

 では「小説賞・新人賞」の大賞を狙う場合はどうでしょうか。

 ここでも「根拠のない自信」を持った書き手が数多くいます。しかしパチンコ・パチスロ、「ガチャ」や公営ギャンブルなどとは異なり、確率や方程式ではありません。

「よりよい作品」が大賞を射止めます。どの作品も大賞の水準に達していなければ「該当作なし」もありうるのです。

 それでもなぜか確率や方程式で「小説賞・新人賞」を考えてしまう方が多い。

 たとえば推理小説賞に百名が応募して大賞を決める。必ず大賞が出ると仮定すれば確率は1/100です。その程度であれば宝くじで一万円を当てる確率、競馬で万馬券が獲れる方程式と似たようなもの。そう思ってしまいます。

 しかし「小説賞・新人賞」は確率でも方程式でもありません。そこに「根拠のない自信」など入り込む余地はないはずです。

 それでも応募者は「根拠のない自信」を抱きます。

「私の書いた小説は、他の作品よりもレベルが高いに違いない」と思い込んでしまうのです。

 そういう方にお聞きしたい。「自分の小説より上の作品は存在しない」とどうして言い切れるのでしょうか。

 確率で考えれば大賞は1/100です。残り九十九人もいれば、あなたより上の作品のある確率のほうが圧倒的に高いではありませんか。

 方程式で考えれば過去の受賞作の傾向を見抜き、それを再現するような方程式を構築する。それで大賞が獲れるのなら、応募者全員がそうしています。




実績で根拠のある自信を積み上げる

「根拠のない自信」は誰もが持っています。ただ、それが「根拠のない自信」だと気づいている方が少ないのです。

 パチンコ・パチスロと「ガチャ」や公営ギャンブルなどは当たりにくいから「根拠のない自信」を頼ります。

 しかし「小説賞・新人賞」の大賞は、それにふさわしい作品が書ければ誰でも受賞できるのです。

 最初は「根拠のない自信」に満ちあふれ、それを完膚なきまでに挫かれます。

 たった一度挫折しただけで気落ちして、筆を折ってしまう方も多い。

 その程度では折れないくらい「根拠のない自信」にあふれていたら、同じような作品をまた書いて、また落とされるだけです。

 ではどうすれば大賞が獲れるのか。

「実績を積み上げる」しかありません。

「小説賞・新人賞」なら一次選考を通過できるかどうか。通過できたらそれが実績になります。二次選考を通過できたら、それも実績となるのです。

 このように段階を追って実績を積み上げれば、少しずつ「根拠のある自信」が培えます。

「こう書けば作品の面白さは必ず伝わる」と手応えを持って小説を書けるか否か。

 それは「根拠のない自信」ではなく「根拠のある自信」を持っているか否かでもあるのです。

 もし一次選考すら通過できないのであれば、小説投稿サイトで腕を磨きましょう。

 たったひとりにでもブックマークしてもらえるか。たったひとりにでも評価してもらえるか。そしてひとりでも多くの方に物語が正しく伝わるか。

 これらをひとつずつクリアしていけば、間違いなく「根拠のある自信」は培えます。

 腕を磨かずして「根拠のある自信」は手に入りません。

 中にはいつまで経っても「根拠のある自信」が満足するレベルまで到達しない方もいます。

 そのような方は目標とする「根拠のある自信」のレベルが高すぎるのです。

 目標はあくまでも「頑張れば手の届くレベル」に抑えましょう。

「根拠のある自信」を手に入れるために小説投稿サイトで連載しているのに、いつまでも満足できないのではまったく無意味です。

 その小説投稿サイトでランキング一位になる必要はありません。百位以内でも紙の書籍化された作品はあります。小説投稿サイトのランキングが「小説賞・新人賞」の大賞を決める試金石ではないのです。

 たとえ小説投稿サイトで開催されている「小説賞・新人賞」であっても、大賞を獲るためランキング一位になる必要などありません。

 ブックマークも評価も、一作ごとに増していけばそれが「根拠のある自信」となり、「よりよい作品」へとつながるのです。





最後に

 今回は「根拠のない自信を実績で塗りつぶす」について述べました。

「小説賞・新人賞」は確率でも方程式でもありません。

 完全に面白いか面白くないかの勝負です。

「誰よりも面白い作品」を書いたと思っても、それは「根拠のない自信」からそう感じているだけかもしれません。

「根拠のある自信」をつけるために、小説投稿サイトで腕を磨きましょう。

 たとえ最初は誰にも読まれなくても、応募し続ければそのうち読み手は現れます。

 ひとりずつ読み手を増やすつもりで、小説を多作しましょう。



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