1105.鍛錬篇:へたさは強さで、弱さはうまさで補う
今回は「巧拙」と「強弱」についてです。
小説は誰もが「へたで弱い」ところから始まります。
いかにして「うまくて強い」作品を書けるようになればよいのでしょうか。
へたさは強さで、弱さはうまさで補う
「小説を書こう」と思い至っても、なかなか書けない方がいます。
自分の実力がわからないからです。
もし自分の実力がわかってしまうと、もう「小説を書こう」なんて思わなくなるかもしれない。それが怖いのです。
逆に「私が小説を書けば、たちどころに『小説賞・新人賞』を獲って紙の書籍化されるだろう」と意気揚々と言ってのける方もいます。いつでも獲れると思っているから書かないのです。
誰でも最初はへたで弱い
皆様に知っていただきたいのは、誰でも最初は「へた」で「弱い」という事実です。
生まれたときからなんの努力もせず、処女作が紙の書籍化した例はまず見られません。「まったくいない」とまでは断言できませんが、いてもひとりかふたりくらいでしょう。
今が「へた」で「弱い」と認識できていれば、努力の方向性が見えてきます。
謙虚さは成長意欲を刺激するのです。今は及んでいないけど、前作よりも必ずよい作品を書こう。どのような点を改善すれば、前作よりもよくなるのか。そう思えれば努力の方向性が定まるのです。
誰でも最初は「へた」で「弱い」という事実から、謙虚さを持ちましょう。しかし必要以上に
「今作はじゅうぶん準備をしたのに、閲覧数(PV)もブックマークも評価もゼロだった。私には小説を書く才能はないんだ」と決めつけないようにしましょう。
「どうせ自分にはうまくて強い作品なんて書けないんだ」と思考停止に陥らないでください。
努力しだいで誰でも「うまく」て「強い」作品は書けます。
卑下する必要なんてまったくないのです。
「最近の若い者は、努力もせずに結果を求めるんだな」とよく言われます。
実はそう言っている本人が若いときも、年長者から同じことを言われていたのです。
つまり歳を重ねると「結果を求めるには努力する必要がある」と気づかされます。気づくまで「努力もせずに結果を求めて」いたのです。
いつの時代だって「若い者は、努力もせずに結果を求める」もの。
それがわかっていれば、成長の余地はじゅうぶんにあります。
逆に「自分はうまくて強いんだ」と
どんなに高名な賞を授かろうと、つねに「自分はへたで弱いんだ」という意識があれば、今後発表する作品で確実にレベルアップしていくのです。
そもそも自分の才能をたのみに驕っていた「文豪」なんていたでしょうか。いつも「これで読み手に正しく伝わるかな」と臆病になりながら執筆していたはずです。とくに大衆の娯楽が限られていた明治後期から昭和初期までは、「小説」こそ娯楽の王様。多くの方が読み、伝わらなければ容赦なく酷評されます。「いつ酷評されるかわからない」から、次の作品は今までよりもよいものを書かなければならない、と思い詰めたのです。そのストレスから病気になったり早逝したり自決したりする「文豪」が多かった。
今は小説投稿サイトがあります。いつでも気軽に掲載できるし、たとえ酷評されてもこちらの素性が相手に伝わりません。酷評されたら「未熟なんだ」と思えばよいのです。
次作で今作よりもよい作品が書ければ、評価だって当然変わります。
一定程度の「うまさ」「強さ」があれば、高評価されることだってあるのです。
最初に身につけるべきは強さ
全員のスタート地点が「へた」で「弱い」です。
ここからどの順序をたどって「うまく」て「強い」を目指すのか。
その戦略がその後の成長を左右します。
最初に身につけるべきは「強さ」です。
巧みに書ける「うまさ」ではありません。そもそも正しい日本語・伝わる日本語で書けるのは「プロ」でも数少ないのです。
先に「うまさ」を求めると、いつになっても小説は書けません。
だから最初は「強さ」を求めましょう。
では小説を書くときの「強さ」とはなんだと思いますか。
大きく分けて「ジャンル」「着眼点」「作風」の三つです。
「ジャンル」はあなたの好きなジャンルでかまいません。「読むのが好き」でも「書くのが楽しい」でもよいのです。
やはり好きなジャンルは書いていて楽しい。物語を作るときからすでに楽しめます。妄想を膨らませている段階ですら楽しくてしょうがない。
もし「今は文学小説の作品数が少ないから、狙うなら文学小説だよ」とここで書いたら、あなたは「文学小説」を書きますか。
「文学小説は読むのも苦手なんだよなぁ」と思いながら「どんな物語だと文学小説になるのかな」「どう書けば文学小説らしいかな」「どんな比喩だと文学的表現になるのかな」と悩むのです。
書き終えるまでのストレスが甚だしい。そんな状態で執筆したところで傑作なんて書けやしません。
それなら断然「あなたの好きなジャンル」で勝負するべきです。
「着眼点」がよいと、それだけで多くの読み手に支持されます。
「異世界転移」の作品は昔からありました。有名なところだと半村良氏『戦国自衛隊』が挙げられます。千葉真一氏主演で映画にもなりました。なんと一九七一年に発表されました。約五十年前から「異世界転移」ものはあったのです。
ここでGoogle検索をかけてみました。日本では一八二二年に平田篤胤氏『仙境異聞』という異世界転移ものがあったそうです。なんと約二百年前!
世界一売れた小説であるC.S.ルイス氏『ナルニア国物語』は一九五〇年から発表されましたので、七十年前になります。さらに遡るならルイス・キャロル氏『不思議の国のアリス』が一八六五年ですので百五十五年前ですね。
「異世界転移」とは少し異なりますが、似たようなものとして童話「浦島太郎」が挙げられるでしょう。現実世界の浜から出発し、海の中の「龍宮城」という「異世界」で過ごし、また現実世界の浜へ帰ってくる。「異世界転移」とみなせるかもしれません。そう考えると「異世界転移」は実にありふれた物語であるとわかります。
しかし「異世界転生」となれば名作が思い浮かびません。主人公が一回死んで、異世界で生まれ変わるのです。そんな作品はなかなかお目にかかれません。
これが「着眼点」のよさを表しています。
これもGoogle検索をかけてみましたが、明確に「これ」というものは見つかりませんでした。しかし死因はたいていトラックにはねられているようです。そういえばマンガのあだち充氏『TOUCH』の上杉和也も、マンガの冨樫義博氏『幽☆遊☆白書』の浦飯幽助もトラックにはねられて死んでいるんですよね。転生はしていませんが。
創作界隈では、突然死なせる必要ができたらトラックに頼ってきたのでしょうか。
「作風」は大きく硬派か軟派かに分かれます。
硬派は「正統派」とも呼ばれます。王道を行くのが「正統派」です。
「剣と魔法のファンタジー」で、主人公が勇者、「対になる存在」が魔王、立ちふさがるものがドラゴンというのが「正統派」の作風となります。
軟派は「ハーレム」ものが多いですね。ひとりの主人公に複数の異性が集まってくる。それでイチャイチャしたりムカムカさせたりしながら繰り広げられる「ラブコメ」は「軟派」な作風になります。
硬派に強いか、軟派に強いか。書き手によって異なりますが、基本的に両方書ける方は数少ないのです。
まず効率が悪い。硬派で読み手を惹きつけておきながら、軟派な作品を出版して反響を見る。
近しいところだと何度も登場しますが賀東招二氏が挙げられます。『フルメタル・パニック!』で硬派なロボットバトルとラブコメをミックスさせて好評を得ました。『甘城ブリリアントパーク』で遊園地経営とラブコメをミックスさせた軟派な作品を書いたのですが、『フルメタル・パニック!』のイメージが強すぎてマンガ化・アニメ化はされましたがビッグヒットとまではいきません。最近ではアニメ化もされた『コップクラフト DRAGNET MIRAGE RELOADED』で再び硬派な作品を書いてヒットさせているのです。『甘城ブリリアントパーク』を挟まなければ、硬派な作風と認められていたと思います。賀東招二氏の「なんでも書ける」を証明したい、という作戦はあまりうまくいかなかったようです。
以上三点が小説の「強さ」を担っています。
いずれか秀でていれば「強い」と思われるのです。三点すべて秀でていれば「唯一無二」になれます。
文章が「へた」でも「強い」作品は多くの支持を集めるのです。閲覧数が上がり、ブックマークが増え、評価も高まります。ランキングにも載りやすいのです。
その後のやる気にも影響しますので、文章が「へた」でもまずは「強い」作品を書いていきましょう。
弱いならうまい文章を書く
あなたの作品がもし「弱い」のなら、「うまい」文章を書かなければなりません。
たとえば小説投稿サイトで人気のない「純文学」私の言う「文学小説」はジャンルとしてそもそも「弱い」のです。
そんな「文学小説」でランキング上位を狙いたいなら、「うまい」文章で書きましょう。
多くの方には読まれないけど、読まれたときに「これは面白い!」と思わせるには、文章が「うまく」なければなりません。
わかりにくい「へた」な文章ではすぐに飽きられてしまいます。
わかりやすく軽快な「うまい」文章なら、比喩や修飾を駆使して読み手が飽きないよう工夫を凝らせるのです。そういった作品は「弱い」ジャンルであっても高く評価されます。
だから初心者のうちは「弱い」ジャンルを避けましょう。
小説投稿サイトにおいて「弱い」ジャンルで勝負したいときは、まず「強い」ジャンルで経験を積んでください。
あなたが好きなジャンルがたまたま「弱い」ジャンルということもあります。
その場合はあなたにとって「強い」ジャンルですから、後は「うまく」書けるよう注力しましょう。
最後に
今回は「へたさは強さで、弱さはうまさで補う」ことについて述べました。
技量のないうちは「強さ」で勝負してください。
「弱い」もので勝負しなければならなくなったら、高い技量を示して「うまさ」で勝負するのです。
誰もが最初は「へたで弱い」ところから始まります。
そこからいかにして「うまくて強い」まで持っていけるのか。
あなたの戦略が問われます。
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