1106.鍛錬篇:一流にはオリジナリティーがある

 今回は「オリジナリティー」についてです。

「独創力」と「独創性」。

 実は異なるものなのです。

 一流の書き手にはどちらかが必ずあります。

 天才には「独創力」があるので、ひらめきだけで物語は作れるのです。

 しかし私たち凡才に「独創力」はありません。

 そこで「独創性」を磨く必要があるのです。





一流にはオリジナリティーがある


 あなたが「一流」だと感じる書き手の作品を思い出してください。

 どのあたりに「一流」を感じましたか。

「一流」と「凡才」とを隔てているのは、そのあたりです。




一流の持つオリジナリティー

「一流」の作品には「|オリジナリティー」があります。

 昔の作品であれば、現在それを模倣している方が多くて「オリジナリティー」を感じない作品もあるのです。

 たとえば水野良氏『ロードス島戦記』。

 人間以外に亜人としてドワーフとエルフが登場します。刊行当時はドワーフとエルフの存在はほとんど無名だったのです。だから「オリジナリティー」を感じました。

 しかし現在では「剣と魔法のファンタジー」といえばドワーフとエルフは当たり前のように出てきます。だから今の若い読み手が『ロードス島戦記』を読むと「あまり面白くない」と感じてしまうのです。

 普遍化すると「オリジナリティー」が殺されてしまいます。普遍化する前にどれだけ読み手を惹きつけられるかが勝負になるのです。

 とくに小説投稿サイトでは顕著で、「異世界転移」が流行っては普遍化し、「異世界転生」が流行っては普遍化しています。現在は「主人公最強」が流行っていますが、少し前には「俺TUEEE」、その前には「チート」の時代でした。言葉が変わっただけで、本質は変わらないんですけどね。

 ライトノベルでいえば川原礫氏『ソードアート・オンライン』の影響で、「VRMMO」が一挙に広まり普遍化しました。

 また『ソードアート・オンライン』の影響から「剣と魔法のファンタジー」でも「能力値」「スキル」「ランク」「レベル」といったゲーム用語が流行っているのです。そもそも「異世界ファンタジー」に「能力値」「スキル」「ランク」「レベル」なんてあったら、なんでも数値化できてしまいますよね。そんな魔法があるのかもしれませんが、その世界にいるすべての人物のものがわかるのはちょっとおかしい。

 ですが『ソードアート・オンライン』が「一流」の作品だったからこそ、他の書き手がそれを真似して普遍化させたのです。

 今では『ソードアート・オンライン』も「ちょっと変わった剣と魔法のファンタジー」程度の認識にしかなっていません。

 元々の面白さを理解しない読み手が増えたのです。

 それでもアニメ化が続いていますから、原作小説も釣られて売れていきます。普遍化はしましたが「定番」だからこその安心感が読み手にあるからです。


 オンラインゲームでも、一時期「イキリト」と呼ばれる方々が存在しました。『ソードアート・オンライン』の主人公・桐ヶ谷和人のオンライン・ネームが「キリト」です。そこからキリトを蔑称して「イキリト」と呼ぶ方もいます。しかし多くの方は「キリトを気どっていきがっている人」を指す言葉だと理解しています。「キリト」を気どるとは、現実世界に彼女がいて、ゲームのプレイスキルもきわめて高い、オタクなオマエラとは格が違うんだよ、といきがることです。これを「キリト」に当てはめても無意味だと思いませんか。キリトは「キリト」であって「キリトを気どっていきがっている人」ではないのです。「イキリト」はあくまでも「キリトを気どっていきがっている人」になります。

 オンライゲームでは「ゆうた」と呼ばれる方々も存在します。ゲームのCAPCOM『MONSTER HUNTER 4』から顕著になりました。低年齢と思われるマナーが悪くプレイスキルも低い方への蔑称です。クエストレベルに見合わないみすぼらしい装備であったり、他人の行動を邪魔したりする、最低限のマナーも知らない。こういう人物を「剣と魔法のファンタジー」に登場させたら、案外面白い役回りになるかもしれません。もちろん瞬殺されるキャラとしてですけど。


 ちょっと話が逸れましたね。

『ソードアート・オンライン』は現在のオンライゲーム界に大きな影響を与えています。それが同作の普遍化につながったのです。

 一流の持つオリジナリティーは「普遍化しやすい」と憶えておいてください。




オリジナリティーが一流の証

 逆に言えば「オリジナリティー」こそが一流の証です。

「小説賞・新人賞」を獲得する作品は、総じて「オリジナリティー」があります。どこかで見たような設定だけの作品では、絶対に大賞は獲れません。よくて佳作止まりです。

「オリジナリティー」のない作品は安牌あんぱいと見なされます。出版しても一定の部数は売れるだろうと見込めるのです。だから「職業作家」を目指しておらず、記念として一作でも「紙の書籍」化されたいとお考えの方は、「小説賞・新人賞」へテンプレートを用いた作品を応募しましょう。面白ければ高い確率で佳作に入り、運がよければ「紙の書籍」化されるのです。「紙の書籍」化された作品があれば、「小説家」の肩書きが手に入り、講師としてセミナーやサークルを主催できるようになります。つまり一度だけでも「紙の書籍」化されれば、周辺環境を変えられるのです。

 ですが、もし何本もの作品をヒットさせる「職業作家」になりたいのであれば、テンプレートだけに頼ってはなりません。必ず「オリジナリティー」のある作品を「小説賞・新人賞」へ応募するのです。

 大賞を獲れなければ「職業作家」にはなれません。優秀賞から「職業作家」になった方もいますが、並大抵の努力では到底たどり着けないのです。優秀賞しか獲れなかったら、他の「小説賞・新人賞」へ何本でも連続して応募してください。安定して優秀賞が獲れるだけの実力があれば、出版社レーベルも根負けして「紙の書籍」化の話を持ってくるかもしれません。出版社レーベルが振り向いてくれるまで、「オリジナリティー」のある作品を切れ目なく応募しまくってください。

 ここまで努力を重ねれば優秀賞が最低ラインとなり、いつ大賞が獲れてもおかしくない状態にまで持ってこられます。




独創性オリジナリティーは未知の組み合わせ

 通常「オリジナリティー」とは「他人がまったく思いもつかなかったもの」を指します。

 たとえば「剣と魔法のファンタジー」にドワーフやエルフを登場させる。J.R.R.トールキン氏『指輪物語』に代表される「ホビットの冒険」シリーズが出版された頃は「他人がまったく思いもつかなかったもの」です。だから「剣と魔法のファンタジー」を代表する作品になれました。

 ルイス・キャロル氏『不思議の国のアリス』が出版された頃は、異世界に赴いて冒険をする物語は「他人がまったく思いもつかなかったもの」でした。だから「異世界転移」を代表する作品になれました。

 その時代にはまったく存在しなかったものに価値を付与する能力を「独創力オリジナリティー」と呼びます。

 ひとえに「オリジナリティー」と呼ぶものは「独創性」と「独創力」の二種類あるのです。

「独創力」はある種「先天的」な能力で、ひらめきが働かないかぎり導き出せません。

 しかし「独創性」は「後天的」な性質で、今まで試されなかったあるものとあるものとを組み合わせて未知なるものを作り出します。


 世界一の発明家であるトーマス・アルバ・エジソン氏は、「独創力」を持つ真の天才です。しかしそんな天才も「白熱電球」の「フィラメント」にどんな素材を使えばよいのかまではひらめかなかったのです。思いつくかぎりの素材を試しましたが、まったく使えないものばかり。疲れきったエジソン氏は、椅子に座って扇子で涼みます。エジソン氏は日本通だったのです。そのときエジソン氏は気づきました。この扇子に使われている竹を試していなかった、と。正直エジソン氏は期待していなかったのです。ただ「試していない組み合わせ」を潰していくためだけに竹を使ってみることにしました。結果として竹は「フィラメント」として長時間の通電に耐えて「白熱電球」が光を放つと発見したのです。


「独創力」だけではたどり着けなかったものにも、「独創性」ならたどり着けます。

 私も、そして本コラムを読んでいるあなたも「天才」ではありません。

 であれば「独創性」から物語を作る必要があります。

「独創性」を活かした創作法は「未知の組み合わせ」を見つけ出す作業です。ひらめきなんて要りません。ひじょうにシステマチックなものです。

「未知の組み合わせ」には「既存の要素」をどれだけ知っているかがかかわってきます。

 まったく頭の中にないものを組み合わせる材料にするなんて真似は人間にはできません。でもコンピュータなら――いえ、AIでも無理です。なぜならAIはプログラム段階から「要素」をインプットしておかなければ、組み合わせの材料にリストアップもされません。そのため、最近のAIでは「ディープ・ラーニング」と呼ばれる手法が採用されています。あるルールの元に、さまざまなものをAIに食べさせて組み合わせの材料とさせるのです。この方法でAIは囲碁で世界一を撃破し、医療でCT画像からガンを早期発見する能力を備えました。

「独創性」を活かした創作法は「ディープ・ラーニング」と同じことを、あなたの脳内で行なうものです。

 さまざまなものを脳内に記憶して組み合わせの材料にします。

 川原礫氏が『ソードアート・オンライン』へたどり着いたのも、当時発売されたばかりの『Ultima Online』や『Lineage』などの「VRMMO」と、当時一大ムーブメントの中にあった「異世界転移」を組み合わせたからです。

 当時まったく存在しなかったものを組み合わせたのではありません。「ナーヴギア」と呼ばれる接続デバイスは存在しませんでしたが、「VRMMO」と「異世界転移」の組み合わせを実現するためには必然となるものです。つまり連想すれば生まれる代物。

 私の評価ですが、川原礫氏は「オリジナリティー」の中でも「独創力」にすぐれているわけではありません。「独創性」に秀でているのです。

 つまり私にもあなたにも『ソードアート・オンライン』のような大ヒット作品は書けます。「未知の組み合わせ」を見つけ出しさえすればよいのです。

 そのためにはつねに「情報感度を高く」してください。

 誰よりも早く最新情報を手に入れられれば、皆を出し抜いて大ヒット作品を発表できますよ。





最後に

 今回は「一流にはオリジナリティーがある」ことについて述べました。

 あなたが天才なら「独創力」を発揮して、他人には作れない物語が紡ぎ出せるでしょう。

 しかし私や多くの方は天才ではありません。

 それなら「独創性」に頼りましょう。未知の組み合わせに気づけば、誰も思いつかなかった物語が発見できます。

「小説賞・新人賞」を狙っているのなら、「他人には作れない物語」か「誰も思いつかなかった物語」で勝負してください。

 最終選考に残る可能性が高まりますよ。



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