1103.鍛錬篇:ターゲットを明確にする
今回は「ターゲティング」についてです。
あなたはどんな方に作品を読んでもらいたいですか。
「なるべく多くの方に読んでもらいたい」とお思いの方。
それではほとんどの方に読んでもらえません。
よしんば読んでもらえたとして、次話以降を継続して読んでもらえないのです。
ターゲットを明確にする
小説についてよく言われるのは「誰がターゲットですか?」です。
どんなに面白い小説を書いても「ターゲット」が見えないとまったく評価されません。
ではどんな「ターゲット」を見据えればよいのでしょうか。
ターゲットを設定する
市販品であっても、商品によってターゲットは異なります。
歯ブラシひとつとっても、若年層なら「虫歯予防」、青年層なら「ステイン・歯石除去」、高齢者なら「歯周病対策」とターゲットによって求められるものは異なります。
小説はどうでしょうか。
最も人気のある「異世界ファンタジー」でも、ターゲットによって求められるものは異なります。
中高生なら「主人公最強」、青年層なら「ざまぁ」、熟年層なら「スローライフ」といった具合です。
すべての需要を満たしたいから「主人公最強」「ざまぁ」「スローライフ」をまとめてしまうとどうなるか。誰も読んでくれなくなります。
初回はよいのです。第二話から大幅に読み手を減らしてしまいます。
「主人公最強」を期待したのに勇者パーティーから追い出されてしまった。
「ざまぁ」を期待したのに辺境でスローライフを始めてしまった。
「スローライフ」を期待したのに最強の主人公になってしまった。
見事にミスマッチしています。
これで読まれると思うほうが悪い。期待はずれとわかった途端にブラウザバックされるのがオチです。
中高生をターゲットにしたいのなら断然「主人公最強」だけで勝負するべき。
しかしたまに「主人公最強」「ざまぁ」の組み合わせがランキング1位になるので勘違いを犯しやすいのです。
「主人公最強」なら最初から最強であるべきで、「ざまぁ」なら最初は駄目でも努力して見返すだけの実力を身につけるべき。
「主人公最強」「ざまぁ」の組み合わせは、たいていが「ざまぁ」からの派生です。「ざまぁ」をするために主人公が努力した結果「主人公最強」になった。だからキーワードに「主人公最強」と後付けする。これがランキング1位になる「主人公最強」「ざまぁ」の組み合わせの正体です。
ジャンルによってターゲットは変わる
「異世界ファンタジー」だけを述べてきましたが、「ジャンル」によってもターゲットは変わります。
「異世界ファンタジー」は細分化することでターゲットが変わるため、生涯にわたって追ってくれる読み手が多いのです。
水野良氏『ロードス島戦記』は純粋なヒロイック・ファンタジー、『魔法戦士リウイ』は諸国漫遊記、『グランクレスト戦記』は国を経営する企業小説としても読めます。読み手の年齢層の変化を捉えて、求められるものを理解して執筆している証拠です。
しかし「推理」はある程度学力がなければ、読んでも面白く感じません。書き手と読み手との頭脳バトルこそが「推理」を読む醍醐味だからです。
たとえば日本推理の父・江戸川乱歩氏の『明智小五郎事件簿』『少年探偵団』シリーズは、それぞれターゲットを変えて執筆しています。
横溝正史氏『金田一耕助』シリーズは連続殺人事件を扱っているため、対象年齢は高めに設定されているのです。
時刻表トリックの祖・西村京太郎氏『トラベルミステリー』シリーズも鉄道マニア向けと明確にターゲットを絞っています。
ターゲットを絞ったほうがピンポイントに訴求できるのです。
「文学小説」は熟年層に響かなければ評価されません。
芥川龍之介賞・直木三十五賞ともに、最終選考は熟年層・老年層が担います。彼らに認められなければ受賞できないのです。だから受賞した「文学小説」を若年層が読んでも、「まったく面白くない」と感じます。
もし若年層や青年層が最終選考に関与していたら、冲方丁氏や西尾維新氏あたりが直木三十五賞を授かっていて不思議はないのです。しかしそうはならないところに「文学小説」の限界があります。
まぁ少子高齢化が進んでいるので、そのうち「ライトノベル」がしぼみ、「文学小説」が復権しないとも限りませんが。でもその頃になれば、高齢者も「ライトノベル」を読んでいると考えたほうが自然です。
読書習慣は「初体験」に大きく左右されます。
熟年層・高齢者が「文学小説」を好むのも、彼らが若年層の頃には「文学小説」しかなかったからです。
若年層が「ライトノベル」を好むのも、今「ライトノベル」原作のアニメが数多く放映されているからです。アニメを観た若年層が「ライトノベル」を読むから、「ライトノベル」発のアニメが増えます。まさにサイクルができているのです。
しかし「文学小説」はサイクルが崩壊しています。「文学小説」発のテレビドラマや映画がまったくヒットしないのです。
現在若年層はテレビをほとんど観ません。観てもアニメだけです。ドラマなんてアニメやゲーム原作くらいしか観ない。これで「文学小説」発のテレビドラマを観せるなんてできはしません。
何歳・男女・趣味関心
ターゲットを明確にする際、とことん細かくターゲティングするべきです。
ピンポイントで十四歳・男性・「剣と魔法のファンタジー」大好きなごく少数の読み手に届く小説を書くという姿勢が要ります。
さらに年の差婚夫婦の独りっ子・運動オンチ・地理好きのように絞り込むのも、商業「ライトノベル」なら当たり前です。
たとえば「バク宙ができる母子家庭の四人兄弟の中学二年男子」と設定する。
設定する必要のないものもあります。
「小説を読む」です。
なぜこんなわかりきったことを取り上げるのか。それは「小説を読まない人にも読んでもらいたい」という動機をもって小説を書く方が、殊のほか多いからです。
「小説を読まない人」は、どんな小説であっても「読みません」。
よほど話題となった小説以外「読まない」のです。
最近では堺雅人氏主演ドラマ『半沢直樹』シリーズの好評から池井戸潤氏の原作小説が大いに売れました。お笑い芸人ピースの又吉直樹氏が芥川龍之介賞を獲得した『火花』は、書き手をよく知る「ライトノベル」好きの若年層がこぞって購入したのです。その後の『劇場』『人間』はそれほど大ヒットしていませんから、「話題性がなくなった」ので本来の読み手である高齢者にしか売れていないということでしょう。
つまり「話題性」があってもそれは一時的なものであって、二作目以降も「話題」になるかと言えばまずならない。
だから「小説を読まない人にも読んでもらいたい」なんて「絵に描いた餅」でしかないのです。
それなら本来の読み手層に訴求する作品を書けばよい。
「小説を読む」人をターゲットにするのは当たり前すぎるのです。
どういう家族構成で、どういう性格で、どういう教科が得意か。
そういう細かなターゲティングをしましょう。
最後に
今回は「ターゲットを明確にする」ことについて述べました。
できるかぎり細かくターゲットを絞りましょう。
そのほうが結果的に多くの読み手を確保できます。
同じ「ライトノベル」を書くのであっても、若年層と青年層では求めるものが異なるのです。
どの年齢層や性別、どんな趣味を持つ読み手をターゲットにするか。
「企画書」を創る際には必ず考えておかなければなりません。
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