1082.鍛錬篇:時間の積み重ねでなく質の積み上げ
今回は「時間の質の高さ」についてです。
ただ漫然と時間を使ってはなりません。物語がより面白くなるために時間を使いましょう。
時間の積み重ねでなく質の積み上げ
スポーツでも勉強でも、ただ単に練習時間を守ればよいというものではありません。
時間をいくらかけようと、実戦的な練習をしないかぎり能力は向上しないのです。
「毎日一時間練習しているから必ず強くなっている」わけではない。足の遅い子どもが毎日一時間走っていれば世界記録を出せるものでしょうか。
もしこの論理が正しければ、世界一練習熱心な日本人は今頃百メートルを七秒で走っていても不思議ではありません。現実には九秒台だけで大きな話題となりました。
練習不足は「時間の少なさ」を指すのではなく「実戦的な質の高さに及ばなかった」が正しいのです。
サラリーマンがプロデビュー
マラソンに「公務員ランナー」「市民ランナー」として話題となった川内優輝選手がいます。そんな彼も現在は公務員を辞めてプロアスリートとしてマラソンに取り組まれているのです。
川内優輝選手は、マラソンを走って企業の広告塔になる従来の選手とはまったく異なっていました。普通の選手は実業団(広告塔になる代わりに給与を支払う企業)に所属し、いくらか通常業務もこなしますが、多くの時間をマラソンの練習に充てています。つまり企業に所属して給与をもらいつつ、マラソンのトレーニングが優先できるのです。大学を卒業したランナーの多くが実業団に所属して優勝を目指しています。
それに対して川内優輝選手は、埼玉県庁の職員(埼玉県立春日部高等学校定時制の職員で肩書きは埼玉県教育局主事)でした。つまり通常業務をすべてこなしながらマラソンを走り、実業団選手を差し置いて何度も優勝しています。しかも出走したマラソンとハーフマラソンの数も驚異的で、年に二、三度走る実業団選手が多いのに対して年に六回以上走るという健脚ぶりです。
そんな川内優輝選手も二〇一八年にプロへ転向します。本気で東京オリンピック出場に賭けたのです。近く選考レースのひとつである東京マラソンが控えています。ですが持ちタイムからすれば事実上オリンピック出場は叶わないでしょう。
しかし退路を断ってプロデビューした勇気は買いたい。
競争の激しい業界では、挑戦者魂がなければまず勝ち残れません。
小説でも、サラリーマンでありながら「小説賞・新人賞」を狙う方が大勢いらっしゃいます。
わずかな時間も小説の執筆に充てて、一作書き終わったら推敲して応募する。
運がよければその一作で大賞を射止め、プロデビューできます。
本コラムをお読みの方々にも、サラリーマンを続けながら執筆・応募されている方がおられるはずです。
しかしその「時間の使い方が本当に正しいのか」について考えたことはありますか。
「よりよい小説」が書けるよう、わずかな時間を効率よく費やしているのかどうか。
「サラリーマンがプロデビュー」するには、時間効率をとことん高めなければなりません。
ちょっと時間ができたから、とりあえず続きを書いていこう。
こういう心がけだと「よりよい小説」にはならないのです。
時間の質を高める
少ない時間をがむしゃらに費やすだけでは「よりよい小説」は書けません。
時間効率つまり「質」を高めないかぎり、いくら時間をかけようと「小説賞・新人賞」は授かれないのです。
では小説における「時間の質」とはなんでしょうか。
設定・構成・展開が破綻しない範囲内で、よりドラマチックにできるかどうかを考えてください。
時間をがむしゃらに費やすだけだと、設定・構成・展開が破綻しやすいのです。勢いに任せず、一度立ち止まって俯瞰から物語全体を見渡して破綻していないかをチェックします。そして破綻しない範囲内で「よりよい」物語になるよう調整するのです。
設定・構成・展開さえ固まっていれば、それを文章化するのはいつでもできます。これはあなたの頭の中で行なう機械的な翻訳作業だからです。この翻訳作業が苦手な方は、とにかく数をこなしてください。短編小説を書きまくるのが最もよいのですが、長編小説を何本も書いて鍛えてもかまいません。とにかく脳内の映像を文字に翻訳する作業がスラスラとできるレベルにないと「小説賞・新人賞」にはかすりもしないでしょう。
逆に言えば、設定・構成・展開が固まっていないのに、勢いだけで文章を書いてもけっして面白い作品にはなりません。かかった時間に対して「質」が伴っていないので、低質な作品にしかならないからです。
せっかくなけなしの時間をひねり出して小説を執筆するのなら、「質の高い作品」を書きませんか。
設定・構成・展開の固まった「質の高い」物語は、「どのように表現するか」にだけ心を砕けばよいのです。
そもそもの物語が面白いので、多少表現力が拙くても「小説賞・新人賞」を獲る可能性は高まります。
もちろん同じ「小説賞・新人賞」へあなたの作品より「質の高い作品」が応募されていたら、そちらが受賞するのです。
「質の高さ」は物語の設定・構成・展開で決まります。だからわずかな時間しかとれないのであれば、設定・構成・展開が破綻していないかチェックし続けましょう。
そして贅肉のないスリムな作品になるよう「表現を工夫」してください。
文学小説の「小説賞・新人賞」の場合は、すべての単語が物語に必要不可分なものであることがたいせつです。
前回も書きましたが、ライトノベルの「小説賞・新人賞」の場合は続編が作れそうかどうかが選考を左右します。ライトノベルの「小説賞・新人賞」が狙いなら、続きの書けそうな広がりを持った物語になるようにしましょう。
このあたりの設定・構成・展開の質の高さが、最終的な評価につながります。
連載小説の質の高さ
小説投稿サイトで連載している方もいらっしゃると思います。
「小説賞・新人賞」へ応募するために連載するのであれば、始める前からじゅうぶん設定・構成・展開を固めてください。連載を進めていくにつれ、設定・構成・展開が変わってしまうようでは、一貫性がなくなって質が悪くなります。
連載を始めて、途中で「あ、こうしたほうが明らかによかった」と気づいてしまったら。
一度立ち止まって、軌道修正ができるかどうか確認してください。
もう軌道修正ができないところまできているのであれば、今作ではそのまま終わりまで書き切りましょう。
まだ連載を始めたばかりで、まだ軌道修正できる余地があるのなら、大胆に切り替えてしまうべきです。「明らかによかった」ほうへ改められれば、今のままよりも確実に「よりよい作品」になります。
連載小説はどれだけ「事前の仕込み」の質がよかったか。それ次第で評価が決まります。
連載途中で「仕込み」の質を高め始めても、評価が劇的によくなることはまずありません。
だから連載する際は「企画書」「あらすじ」「箱書き」でしっかりと設定・構成・展開を固めて、「プロット」で表現の最適化を図りましょう。
最後に
今回は「時間の積み重ねでなく質の積み上げ」について述べました。
連載小説を例にするとわかりやすいかもしれません。
「つまらない物語」を百回も千回も連載してもいっさい評価されないのです。
「質の高い面白い物語」はたとえ十回で終了しても高く評価されます。
小説の面白さは詰まるところ「時間の積み重ね」でなく「質の積み上げ」で決まるのです。
だからこそ「企画書」「あらすじ」「箱書き」そして「プロット」は満足いくまで手を入れてください。
それが物語の設定・構成・展開の面白さ、そして表現の多彩さを左右します。
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