1025.面白篇:新しさとは組み合わせである

 今回は「組み合わせて新しさを出す」ことについてです。

 0から1を生み出すのは天才にしかできません。

 天才以外は1を10にする手法を身につけましょう。





新しさとは組み合わせである


「新しさ」を考え出すとき、まったく存在しない0のところから1を生み出すのはとても難しい。これまでの常識では、0から「新しさ」を早々に思いつかないのです。

 もし0から「新しさ」を生み出せるのなら、あなたは天才であり、発明家になったほうがよい。特許を取得すれば左団扇で暮らせます。

 しかし私もあなたも天才ではありません。少なくとも私は天才ではありません。

 そんな天才でない人でも、「小説賞・新人賞」応募作に求められるのは「新しさ」です。

 では、どうすれば天才でなくても「新しさ」を生み出せるのでしょうか。




既存の応用で新しさを生み出す

 0から1を生み出した天才は、人類史上でも数少ないとされています。

 レオナルド・ダ・ヴィンチ氏は、揚力の概念がないときに現在のヘリコプターと同じ原理で空を飛ぶ乗り物のスケッチを書いています。これは飛行機すらない時代に考え出されたもので、まさに0から1を生み出したのです。

 アルバート・アインシュタイン氏は、「質量とエネルギーの等価性」を思い描いて相対性理論の基礎に気づきました。それを簡略化して公式「E=mc^2」を見つけ出しました。そして光がこの世で最も速い存在であり、重力はその光の進む方向を屈折させると提唱したのです。これはのちに事実だと証明されました。


 対して、ある事象が他の事象に応用できるのではないかとひらめいた人物がいたのです。

 アルキメデス氏は、同じ重さの金無垢と金メッキの王冠をどう見分ければよいのか思案に暮れていました。そんなある日、お風呂に入って湯船からお湯があふれ出したのです。そこから彼は大きなヒントを得ました。そのとき発した言葉が「エウレカ!」です。

 アルキメデスは、同じ重さの金属は体積が異なると気づきました。これが「アルキメデスの原理」と呼ばれる発見につながったのです。

 アイザック・ニュートン氏は、なぜ月は地球に落っこちてこないでいつも同じ距離を保っているのだろうかと思案に暮れていました。ある日リンゴの木の下にいると、偶然に熟したリンゴが落ちてきたのです。そこから彼は大きなヒントを得ました。すべての物体には引力があり、上にあるものは必ず下に落ちてくる。地球にも引力があり、リンゴの実は枝から離れると地面に落ちてくる。地球の周りを回っている月にも地球の引力が働いていて、引き寄せる引力と月の周回運動とが等しくなるので、月は地球に落ちたり地球から離れたりせず、同じところを回っています。これが「万有引力の法則」と呼ばれる発見につながったのです。


 レオナルド・ダ・ヴィンチ氏とアルバート・アインシュタイン氏は、0から1を生み出した天才。

 アルキメデス氏とアイザック・ニュートン氏は、1を10へ普遍的に広げた人物です。天才というより秀才と呼べるでしょう。


 私たちはレオナルド・ダ・ヴィンチ氏やアルバート・アインシュタイン氏のような「天才」ではないはずです。もし「天才」であれば、私たちの書いた小説はとっくに「小説賞・新人賞」を授かっていますからね。ですがいまだ「小説賞・新人賞」には程遠い。我々は自らが「天才」ではないと自覚するべきです。

 であるなら、アルキメデス氏やアイザック・ニュートン氏のような「秀才」を目指しましょう。これはこれで高い目標ではありますが。


 既存のものから着想を得て、別のジャンルへ応用する。

 小説で「新しさ」を出したいなら、まずこの方法が思い浮かびます。

「異世界ファンタジー」で「主人公最強」に人気が集まるのは、元をたどると川原礫氏『ソードアート・オンライン』や鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』などの別ジャンルの人気作に行き着くのです。

 しかし現在はその影響を離れ、「異世界ファンタジー」での「主人公最強」というテンプレートとして機能しています。

 私たち小説の書き手は、今書いているジャンルだけでなく、他ジャンルの人気作が「なぜ人を惹きつけるのか」を分析する時間を持つべきです。

 理由に気づけば、自分の得意ジャンルへ応用できます。

 人気作はなぜ人気なのか。

 それを知るためにも、あらゆるジャンルの人気小説を読むべきです。好きなジャンルだけの視野しかないから「新しい」物語に気づけません。

 話題のホラー小説にファンタジー小説としての「新しさ」が見出だせるかもしれないのです。

 時間が許すかぎり、ジャンルの縛りなく人気作を読みましょう。

 きっと今書いているジャンルにとって「新しい」要素がひらめきますよ。




既存の組み合わせで新しさを生み出す

 他ジャンルを読んでも、特段すぐれた「新しさ」が見つからないかもしれません。

 天才ではない私たちが「新しい」小説を作るには、要素の「組み合わせ」で「斬新な」物語にするべきです。

 わずかでも「新しい」要素を複数見つけ出して「組み合わせ」てみましょう。

 今は小説投稿サイトで数多くの作品が掲載されています。その中でトップランカーの作品の「キーワード」「タグ」に注目してください。

 たいてい人気のある「キーワード」「タグ」が使われていますが、中にはその作品特有の「キーワード」「タグ」を付けているものがあります。

 この作品固有の「キーワード」「タグ」に注目してください。これこそ読み手がその作品を支持する「新しい」要素なのです。

 しかしこのひとつだけを拝借しても、もとになった作品の二次創作にしかなりません。

 そこで複数の作品固有の「キーワード」「タグ」を「組み合わせ」るのです。「組み合わせ」た結果、そこらの作品と同じになることもありますが、たいていは「新しい」物語が生まれます。

 この過程は落語で「三題噺さんだいばなし」を作るのと同じです。

「三題噺」はお客様からお題を三つ頂いて、即興でオチのあるはなしを作り出す話芸。小説の企画書の段階では「即興」で作る必要がないので、じゅうぶん物語の構成と展開を練れます。

 具体的には、まずあなたが書きたい「ジャンル」を第一のお題とし、他人の作品固有の「キーワード」「タグ」を第二のお題、さらに別の作品固有の「キーワード」「タグ」を第三のお題として「新しい」噺を作ってみましょう。


 たとえば「主人公最強」と「ざまぁ」を組み合わせた作品は現在小説投稿サイトにあふれています。これも「新しい」要素を複数見つけ出した結果生まれたものです。

「VRMMO」と「異世界転移」を組み合わせて、「VRMMO世界と思ったら、実際は異世界へ転移していた」という物語も考えられますよね。

「異世界転移」と「タイムリープ」を組み合わせたのが長月達平氏『Re:ゼロから始める異世界生活』です。

 すでにある「新しい」要素はたいてい賞味期限切れですが、それを複数「組み合わせ」れば、また「新しい」物語が生まれます。

「スローライフ」のように、まったく誰も考えつかなかった発明をするのはとても難しい。

 でも「組み合わせ」て「新しさ」を生み出すのは比較的容易です。

「小説賞・新人賞」を狙うなら、「組み合わせ」て生まれた「新しさ」はテンプレートよりも有利に働きます。





最後に

 今回は「新しさとは組み合わせである」について述べました。

『カクヨム』様にて「第5回カクヨムWeb小説コンテスト」が始まりました。これに向けて皆様新作をお書きのことと思います。

 そんな「小説賞・新人賞」で勝ち抜くには、文章の基礎が出来ていることはもちろん、「新しい」作品であることが求められるのです。

 テンプレート作品はできるかぎりやめましょう。

 しかしまったく「新しい」作品というものは、天才でなければ思いつけません。

 天才でない我々は、要素を「組み合わせ」て「新しい」作品に仕立てあげるのです。そうすればテンプレート作品よりも確実にウケます。



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