987.筆洗篇:小説がタダで読める時代では

 今回は「小説投稿サイトはツカミが勝負」についてです。

 無料で読める小説投稿サイトでは、いつ読み手から見切られるかわかりません。

 逃げられないためにはツカミでしっかりと読み手を取り込めなければならないのです。





小説がタダで読める時代では


 世に小説投稿サイトが誕生して早二十年となりました。

 当時はパケット通信が有料だった時代なので、携帯電話から読んでいた方は小説投稿サイト自体が無料でも通信費はかかっていたのです。

 スマートフォン全盛の現在においては、パケット通信定額制により基本的に無料で小説が読める環境となっています。

 しかし『Arcadia』『小説家になろう』などに代表される小説投稿サイトで小説がタダで読めるとどういった弊害があるのでしょうか。




ツカミが勝負

 無料で小説が読めるのは、読み手にとってメリット以外ありません。

 では書き手にとってはどうでしょうか。

 無料で投稿できるので、どうしたって投稿数が爆発的に増えます。

 最大手の『小説家になろう』では連載と短編を合わせて、一日に五千や一万もの作品が投稿されているのです。

 となれば当然、せっかく時間をかけて書いた作品が、読み手にさほど読まれないという事態に陥ります。

 なぜ読み手に読まれないのか。

 それは「ツカミ」が弱いからです。

 短編小説であれば、投稿は一回だけですから閲覧数自体は高くなります。

 しかし連載小説であれば、初回でどれだけ「ツカミ」を出せるかが勝負です。

 第一回投稿で読み手の心をつかめなければ、二回目以降はいっさい読まれません。

 よしんば二回目以降を読んでくれたとして、初めの数回で読み手の心をつかめなければ、やはり読み手はあなたの作品から離れていきます。

 なぜ読み手はこんなにも薄情なのでしょうか。

「タダで小説が読める」からです。

 もしあなたが「紙の書籍」「電子書籍」を購入したら、たとえ内容がつまらなくてもおおかた最後まで読みますよね。せっかくお金を払って買った小説です。途中で放り投げればお金と時間をムダに費やしたにすぎません。だから冒頭がどんなにつまらなくても、元をとろうと最後まで読む方が多いと思います。


 では「タダで小説が読める」小説投稿サイトの作品はどうでしょうか。

 内容がつまらないと判断されれば、いつでも容赦なくあなたの作品から離れていきます。

 二回目以降がどんなに魅力的であっても、第一回投稿で読み手の心をつかめなければ、多くの読み手はそれ以降読みません。たとえ第一回投稿が素晴らしくても、二回目以降で少しでも読み手に「つまらない」と判断されたら、そこで放り投げられます。だってあなたの作品にお金を払っていません。いつ読むのをやめようとも、金銭的な被害は生じないから、気軽に他作品に乗り換えられるのです。

 途中下車できないほど読み手を惹きつける作品であれば、途中で「つまらない」状態に陥っても「また面白い展開に戻るかもしれない」と期待を持って読み続けられます。

 書き手は「読み手が途中下車できない」ところまで読み手の心をつかんで離さないほどの投稿を初回から続けなければなりません。ある程度読み進めてもらえたら、多少展開が弱くなっても、読み手はすぐに離れていきません。読み手の心を離さない作品が書ければ、その後がよほど酷い展開にならないかぎり、固定ファンはつきます。

「ツカミ」で勝負してください。序盤で読み手の心をつかめなければ、心血を注いだ作品であろうと誰も読み進めてはくれません。


 ではどうやって「ツカミ」がよいのか悪いのかを知ればよいのか。

『小説家になろう』では「アクセス解析」から「部分別」を選べば、その日何人がどこを読んだのかがわかります。しかし日別にしかわからないため、いささか使い勝手が悪いと思います。

『ピクシブ文芸』では、各投稿回での累計の閲覧数(PV)が表示されます。これまで何人の方が読んだのかわかるのです。しかしまだ全体の閲覧数そのものが少ないため、序盤のツカミがどれほどかを判断しかねます。また、一ページに二十話しか表示されませんから、序盤のツカミを確認するのはなかなか難しい。

『カクヨム』では作品の管理ページで、各投稿回での累計の閲覧数(PV)が一覧で見られます。『小説家になろう』『ピクシブ文芸』よりも分析しやすい形式です。


 いずれにしても、「ツカミ」でどれだけの読み手が二回目以降を読んでくれているのかを一度確認してください。もし第一回投稿が百人に読まれているのに、第二回投稿で五十人しか残らなかったら、半数の方の心をつかめなかったのです。これでは「ツカミ」が弱すぎます。可能であれば九割近くの方に第二回投稿を読んでもらいたい。十人にひとりはそっぽを向かれてもよいのです。感性に合わない人はどこにでもいますから。

 もし連載が進んでいくごとに読み手で減っていき、最新話でひとりかふたりしか残っていないのであれば、その連載に需要はほとんどありません。潔く連載を畳んだほうがよいでしょう。




タダほど怖いものはない

「小説をタダで読め」れば、いつでも読みさせます。懐はいっさい痛みませんからね。

 小説投稿サイトは、小説を「いつでもドロップできる」ものへと変えました。

 それまでは「紙の書籍」を買って読んでいましたから、元をとるためにあまりドロップしませんでした。よほど酷い小説はそもそも買いません。立ち読みして買う小説を物色している時点で見切られているはずだからです。

 しかし小説投稿サイトは基本的にタダで小説が読めます。つまり試しに読んでみて、気に入らなければ先を読まなければよいだけ。「いつでもドロップできる」から、多くの読み手があれこれ物色して試し読みをします。

 小説投稿サイトで第一回投稿の閲覧数(PV)が突出して高くなるのは、そういう事情もあるからです。

 もし第一回投稿が素晴らしければ、第二回投稿以降も読み進めてくれる率が高まります。

 逆に第一回投稿がまったく駄目なら、第二回投稿以降は読まれずに引き返す方が多くなるのです。

 タダであるがゆえ、読み手は手あたり次第に作品を物色しています。

 だから序盤が悪ければ、読み手はいつでもあなたの作品から離れていくのです。容赦なんてしてくれません。よければ読む、悪ければ読みさす。読み手の行動はどの小説投稿サイトでも同じです。


「小説をタダで読める」のは、フォロワーさんを増やす要因になりますが、アンチを増やす要因にもなります。一度「この書き手の作品はつまらない」と思われたら、以後よほどの傑作を書いてトップランカーにでもならなければ、印象を変えられないのです。

 利用がタダだからこそ、気軽に投稿できますし、気軽に読めます。そして気軽に読むのをやめられるのです。読み手に情けなんてありません。タダだからこそ、よりよい小説を探そうとします。人間に与えられた時間は限られているのです。我慢して駄作を読む時間があるのなら、傑作を楽しむほうが理に適っています。

 タダだからこそ、あなたの作品が傑作なのか駄作なのかをシビアに見られるのです。

「駄作だと思われたくないな」と考えたとしても、読み手心理は操れません。

「傑作だと思われたい」のなら、実際に傑作を書くしかないのです。傑作駄作は閲覧数(PV)の多寡でおおよそ見当がつきます。

 テンプレートに沿っていれば、多少内容が悪かろうとランキングに載れるのです。今はそれほどでもなくなりましたが。そういった作品を読んで「これなら私の小説のほうが面白い」と思っても、必ずランキングに載れるわけではありません。テンプレートは展開がパターン化されているから、安心して読めます。テンプレートではない作品は、先々の展開がわからないため、判断のしようがないからです。

 傑作は閲覧数が高いままで推移しますが、駄作も閲覧数が低空飛行したままで安定してしまうものです。

 だから母数の大きな『小説家になろう』では、テンプレートに準じていれば駄作でもランキングに載れます。

 傑作でもテンプレートから外れていれば、なかなかランキングに載れません。

 タダだからこそ、傑作が売れるわけではないのです。





最後に

 今回は「小説がタダで読める時代では」について述べました。

 今は小説投稿サイト全盛の時代です。毎年のように新たな小説投稿サイトが開設されています。近いところではホビージャパンの『ノベルアッププラス』と講談社の『セルバンテス』が名乗りをあげました。

 小説をタダで読めるのは、書き手にとって「知名度ネームバリュー」を高めるにはうってつけです。閲覧数(PV)を高めようと試行錯誤すれば、文章力や構成力も身につきます。

「利用料無料」を最大限に活用しなければ、あなたの目標である「小説賞・新人賞」やその先にある「プロの書き手」には届かないでしょう。



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