985.筆洗篇:ジャンル先のあらじづくり

 当初まったく想定していなかった「ジャンル先」についてです。

 小説投稿サイトの利用が増えて「ジャンルが同じだと皆同じようなストーリーになっているな」と感じました。

 そこで思いついたのが「テンプレート」じゃないか、と。

 小説投稿サイトでは先に「ジャンル」を決めて、その「テンプレート」を使って書く方が多いのです。





ジャンル先のあらじづくり


 小説投稿サイトでは、ジャンルごとにある程度ストーリーが固まっている作品群を目にします。

 そう「テンプレート」です。




ファンタジーといえば異世界転生

 現在「ファンタジー」小説と言えば「異世界転生ファンタジー」小説を指すようになりました。純粋に「異世界におけるファンタジー」小説は「異世界ファンタジー」と呼ばれるのです。古くからあるほうがわざわざ「異世界ファンタジー」と呼称しなければならない。誠に不可思議な現状です。


 そんな現在の「ファンタジー」小説を代表する「異世界転生ファンタジー」小説では、主人公が現実世界でなぜか死んで異世界へ転生します。とにかくあっけなく死んでしまうのです。前世がなにかなんて考えなくてもよい。ニートでも引きこもりでもいじめられっ子でも冴えない営業職でも。そんなことはほとんど関係ありません。

 転生先である異世界で暮らしていくうちに危機的な状況に陥るも、転生前の知識を思い出して解決してしまうのです。

 ニートや引きこもりがなぜそこまで高度なサバイバル知識を有しているのかと思わないでもありません。しかし、なぜか有しているのが「異世界転生ファンタジー」たる所以です。

 そう「ファンタジー」なのです。

 とにかく毎回危機に陥るだけでもワンパターンなのに、その都度転生前の知識を思い出すのもワンパターンだと思いませんか。

「異世界転生ファンタジー」は、どうあがいてもワンパターンなのです。

 まず現実世界で主人公が死ぬ。神様や天使によって現実世界の記憶を保ったまま異世界に転生することもあれば、記憶を忘れて転生することもあります。そうして異世界で転生を果たすのです。あとはピンチに晒されることで前世の現実世界の記憶がフラッシュバックして危機を脱出する。形勢が逆転して主人公が勝つのです。

 ワンパターンにならないほうが難しい。

 これが「ジャンル先」の考え方です。

 逆に言えば、小説を書いたことのない人が最も書きやすいのも、現在では「異世界転生ファンタジー」になります。

 なにしろストーリーをそれほど考えることもなく、毎回危機に陥らせては、その都度現実世界の知識を思い出して解決してしまえばよいわけですから。

「異世界転生ファンタジー」は、現実世界の豆知識があれば成立します。なぜかコンピュータRPGの世界観でステータスが表示されていようとも、転生したら「異世界転生ファンタジー」になるのです。この場合は「ゲーム世界への転生」と考えられなくもないのですが、世情では「異世界転生ファンタジー」に類します。


「異世界転生ファンタジー」で多少ひねりを入れようと思ったら、「なにに転生するか」です。

 伏瀬氏『転生したらスライムだった件』、棚架ユウ氏『転生したら剣でした』のように、人間以外に転生してしまったら。ひねりが効いているぶん、ただの「異世界転生ファンタジー」よりも興味をそそられませんか。




ゲームのような表現

 最近の「異世界ファンタジー」ジャンルでは、人物の能力を「ステータス」として見られるものが多いですよね。

 またできる事柄を「技能スキル」と呼んだり、強さを「レベル」と呼んだり。

 もはやコンピュータRPGの世界をそのまま小説にしたような内容です。

 とくに『小説家になろう』のハイファンタジージャンルのトップランカーでよく見ますよね。なぜゲーム風な表現を多用するのでしょうか。「個人と他人の能力の差を、的確に表現できない書き手が増えた」からです。

 数値で表現できたら、これほど簡単なことはありません。もし数値を用いずに表現するとなれば、「AはBよりも強い。BはCよりも強い。となれば当然AはCよりも強い。だからこの物語ではAが最強」ということを展開の中で読ませなければなりません。これが「Aはレベル999、Bはレベル500、Cはレベル1。だからAが最強」と数値なら一文で表現できてしまいます。つまり「ステータス」「スキル」「レベル」などのある「異世界ファンタジー」は書き手に筆力がないと自ら証明しているのです。

 それなのにジャンルとしては「異世界ファンタジー」に属します。いやはやなんとも言いがたい。

 この「ステータス」式の「異世界ファンタジー」も「ジャンル先」のあらすじづくりに利用されます。「勇者パーティーから追放されて、目覚めてレベル999になって無双する」というのがよくある「ステータス」式の「異世界ファンタジー」ジャンルのあらすじです。

 今の流行ですから「ステータス」「スキル」「レベル」のある「異世界ファンタジー」というジャンルはいつまで続くかわかりません。

 いきなり読み手に飽きられる可能性もあるのです。

 強さの差がレベルでわかるというだけで、「ああ、またか」と思われたら末期状態でしょう。




剣と魔法のファンタジーで宇宙を舞台にする

 普通に考えると「剣と魔法」はファンタジー、「宇宙」はSFに属します。相性が悪いですよね。

 しかしゲームのスクウェア(現スクウェア・エニックス)『FINAL FANTASY』シリーズでは「宇宙船」が登場したりスチームパンクだったりと、タイトルで「ファンタジー」と名乗っているのにそれをことごとくひっくり返してきました。

 こういうファンタジーがあるのなら、小説の「剣と魔法のファンタジー」でも宇宙が舞台になったってかまわないのです。

 現にハリウッド映画のジョージ・ルーカス氏&スティーブン・スピルバーグ氏『STAR WARS』は、「宇宙」を舞台にした伝説の「ジェダイの騎士」が活躍する「剣と魔法のファンタジー」です。この予想外の組み合わせが大いにウケて数々の続編が今も製作される大ヒット作となりました。

「剣」つまりライトセーバーによる物理攻撃と「魔法」つまりフォースを用いた真理の追究による「夢物語ファンタジー」であれば、それは紛うことなく「剣と魔法のファンタジー」なのです。

 舞台が「宇宙」だからと単純に「SF」ジャンルと決めてかかってはなりません。

 逆に「SF」ジャンルだからといって「剣と魔法のファンタジー」が駄目なわけでもないのです。『STAR WARS』のように「宇宙」を舞台にした「剣と魔法のファンタジー」もじゅうぶんに「SF」を名乗れるのです。要は見せ方の問題になります。

 個人的にはパソコンソフトのT&E SOFT『HYDLIDE 3』を挙げたい。重さの概念を持っているため、重い鎧を着ると動きも遅くなるしスタミナも早く減るという現実味リアリティーを追求した作品です。この作品、最終的には宇宙服を着て宇宙でラスボスを倒さないといけない「剣と魔法のファンタジー」。もう無茶もよいところです。「剣と魔法のファンタジー」だから「宇宙」は駄目というわけではありません。演出の仕方が難しいだけです。神様が天界にいるのなら、大気圏を制圧している人類はその先にある宇宙に神がいると考えるしかない。となれば、宇宙が舞台になってもかまわないと思いませんか。




ジャンルには鉄板の展開がある

 以上のように、ジャンルにはそれぞれ鉄板の展開があります。

「ハイファンタジー」「異世界ファンタジー」なら「剣と魔法のファンタジー」ですし、「ローファンタジー」「現代ファンタジー」なら「特殊能力を交えたファンタジー」です。

「異世界恋愛」なら「白馬の騎士とお姫様のラブロマンス」「悪役令嬢」になります。

「推理」なら「現実世界で謎が提示されてそれを解く」ことでしょう。「異世界で謎を解く」がほとんど成り立たないのは、現実世界と異なる法則が働いていると、読み手は推理のしようがないからです。たとえば街中で突然人が殺されたとします。探偵が調査を開始すると、どうやら凶器がテレポーテーションしてきて頭をしたたかに殴りつけたのち、またテレポーテーションして消えた。なんていう展開に論理性はあるのでしょうか。ここまで来てしまうと「なんでもあり」ですよね。だから「推理」ジャンルと決めてしまえば舞台は「現実世界」に固定されます。もちろん例外はあります。ですが、それほど多くはない。「異世界」で思案するくらいなら「現実世界の過去」を舞台にしたほうがよっぽど作りやすい。今『シャーロック・ホームズの冒険』を読んでもじゅうぶん推理を堪能できますよね。では「現実世界の未来」を舞台にしたらどうでしょう。未来にどれほど科学技術が進歩しているのかわからないため、「異世界」ほどではありませんが推理に無理が生じやすいと思います。だから「推理」ジャンルといえば通常「現実世界の現代か過去」が舞台になるのです。

 以上ご覧いただいたように、ジャンルには鉄板の「あらすじ」つまり「テンプレート」があります。


「ジャンル先」であらすじづくりするときは、ジャンルによる「テンプレート」を使うか外すかを決めなければなりません。

 読み手もそのジャンルの作品を読むときは、鉄板の「テンプレート」を期待するものです。

「テンプレート」から外れると、読み手はあてが外れて対応が二分します。回れ右して読まないか、先の展開がわからないから気になって話を追ってくれるかです。





最後に

 今回は「ジャンル先のあらじづくり」について述べました。

 小説投稿サイトへ掲載する場合、ジャンルによってストーリーがある程度決まってしまうことがあります。それが「テンプレート」です。

 とくに現在トップランカーの作品はすぐさま「テンプレート」化されて粗製濫造の状態に陥ります。

 確かに「テンプレート」は人気を集めやすい。ですが、どの作品を読んでも同じ展開というのも食傷しますよね。そこでいかにして「テンプレート」に乗りながら「テンプレート」から外れていくかが問われるのです。独自性の確立が求められます。

 出発地点が同じでもかまわないのです。問題はどの手段でどこを経由してどの目的地へたどり着くのか。そこまでまったく同じであれば、なにもあなたの作品でなくてもよいのです。

 まったく同じ「テンプレート」のナンバーワンを目指すのか、あなたのオリジナルが活かせるオンリーワンを目指すのか。

「ジャンル先のあらじづくり」では、それを決めてください。



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