937.鳳雛篇:難しい言葉、カタカナ言葉などを使わない

 今回は「知ってるぜ自慢」をしないことについてです。

 知識があるとつい「知ってるぜ自慢」をしたくなります。

 しかしそんな文章を読みたがるものでしょうか。





難しい言葉、カタカナ言葉などを使わない


 日常で使わない難しい言葉やカタカナ言葉も、改まった場ではつい格好をつけて使ってしまうものです。

 とくに「小説賞・新人賞」を狙う小説では、「私はこんな難しい言葉も知っています」とばかりに難しい言葉やカタカナ言葉を多用してしまいます。

 しかし、そんな「知ってるぜ自慢」をしたところで「小説賞・新人賞」は授かれません。




難しい言葉を使わない

 難しい言葉というと具体的に思い浮かばない方もいらっしゃると思います。

 政治家言葉やお役所言葉や憲法法律用語などを指すのです。

 皆様の中で、運転免許証をお持ちの方はいらっしゃいますよね。筆記試験で苦労しませんでしたか。とくに「道路交通法」のあいまいさでもどかしい思いをされた方が多いでしょう。

 私は筆記試験で98点を取って運転免許証を交付されました。そんな私から見ても、「道路交通法」は難解でした。

 とにかく法律の隙間が多い。法律が示す裁量が広すぎる。違反となる事例だけ憶えて、量刑については憶えなくてもよかったので、その点だけは助かりました。

 もし量刑まで含めたら、98点も取れなかったと思います。

 道路交通法は法律ですから、とにかくわかりにくい言葉で書かれているのです。

 一字一句憶えることなんてなかなかできはしません。

「クラクション」のことを「警笛」と書きますし、自転車は「軽車両」に分類されます。

 どちらもすぐになにを指しているのかわかりにくくはありませんか。

 他にも「方向指示器ウインカー」「フォグランプ」の使用法の説明はわかりにくい。

 しかも今話題の「煽り運転」「幅寄せ」については、取り締まるべき法律が存在しないのです。

 あれだけ難しい法律である道路交通法ですら、書かれていない事例が多数あります。


 政治家言葉の最たるものは「遺憾」ではないでしょうか。

 皆様はこの「遺憾」をどの程度の抗議の意だと思っていますか。

 われわれ一般人は「いかん」というと、「こんなところで野球なんてやったらいかん!」のように、ひじょうによく使われる軽易の抗議の意だと受け取っています。

 最近では韓国の報復制裁に対して安倍晋三内閣総理大臣が「誠に遺憾である」と述べても、「そんな柔らかい言葉で抗議したって意味がない」と感じているはずです。

 しかし実際には「遺憾」は抗議の最高レベルを指しています。

 日本外交は「遺憾」ばかり主張していますが、外国語へ翻訳した際に、本当に最高レベルの抗議として相手に伝わっているのでしょうか。

 これが「難しい言葉」が皆様に受け入れられないゆえんともなっています。


 お役所言葉の最たるものは「未曾有」ではないでしょうか。

 こちらは当時の麻生太郎内閣総理大臣が、国会の委員会での答弁で「みぞうゆう」と読んで衆議院の解散に追い込まれ、民主党政権が誕生する端緒となりました。

 正確には「みぞう」と読みます。たかが読みひとつできなかっただけで衆議院解散ですよ。ありえますか。衆議院選挙を行なうのに何百億円を要するのか、誤読とのバランスはとれていたのでしょうか。甚だ疑問です。




カタカナ言葉を使わない

 渡来品の名称はカタカナ言葉を使わなければ書けません。

 太平法戦争中の日本のように「ベースボール」を「野球」、サッカーを「蹴球」、バスケットボールを「籠球」、バレーボールを「排球」と書いたとして、現代人にわかるものでしょうか。

 こういった渡来品の名称はカタカナ言葉を使うべきです。

 しかし「ダイバーシティ」「ワイズ・スペンディング」「アジェンダ」「エビデンス」「アウフヘーベン」などのカタカナ言葉は、意味がわかりますか。

 これらは小池百合子東京都知事が発したカタカナ言葉です。

 これらは一般人にはまったく意味がわかりません。

「知識のひけらかし」でしかないのです。

 とくに「アウフヘーベン」なんて、哲学を習っていても憶えていないような単語と言えます。

 これを記者会見でさらっと口にした小池都知事は、受け手である記者団や都民にやさしくないのです。

 報道各社は「アウフヘーベン」の意味と小池都知事の会話の内容を理解できず、苦労しました。

 日本語で言えることを、あえてカタカナ言葉として書くのは「こんな言葉を知っている俺カッケー!」と自慢しているだけです。

 読み手に正しく伝わらなければ、自慢はただの慢心でしかありません。

 読み手のそばへ寄り添って、読み手のわかる言葉で語ることが、小説を書く人に必要な態度です。


 また「異世界ファンタジー」を書く方は、できるだけカタカナ言葉は使わないようにしてください。異世界人が「こんなこと、とてもイージーだよ」なんて言ったら、「なぜ異世界人が英語を知っているのだろうか」と読み手を混乱させてしまいます。「異世界ファンタジー」は基本的に日本語で書いてください。英語やフランス語や中国語などを話すはずがないからです。

 また異世界人は「酒池肉林」という言葉を知っているはずがありません。これは中国古典に書かれていた故事成語で、殷の紂王が池を酒で満たし、木々に肉を吊り下げて大宴会を催したことを意味しています。つまり異世界人が「酒池肉林」という言葉を知っているはずがないのです。

「異世界転移ファンタジー」で主人公には自動翻訳機能が付加されたとしても、異世界人が「イージー」「酒池肉林」と発言するのはよろしくない。

 異世界が舞台であれば、外来語や故事成語は使わないよう注意してください。




業界用語は雰囲気を醸すだけ

 たとえば株式投資には「ローソク足」「日足ひあしチャート」「移動平均線」「一目均衡表」「気配値」「板」「信用取引」「建玉たてぎょく」などの業界用語があります。

 他にも「PER」「PBR」「MACD」「RSI」といった横文字が頻繁に使われているのです。

 株式投資に詳しくない方がこれらの業界用語を見て、理解できるでしょうか。

 相当難しいと思います。

 しかし、あえてこれらの単語を小説に書くことで、雰囲気を醸せるのです。

「あぁ、この小説で株式投資の世界を覗けるんだな」と感じさせます。

 前回の「専門用語」と今回の「業界用語」は近いところにあるのです。

 だから「業界用語」もできるだけ書かないほうがよい。

――のですが、登場人物のキャラを立てるために「雰囲気を醸す」には、業界用語を積極的に使うべきです。

 ただし読み手に「伝えること」はなにもありません。

 つまり「死文」なのです。

 長々と業界用語を書いてもなにも伝わらないため、「雰囲気を醸す」程度にとどめて、すぐに本筋の物語を進めましょう。

 何度も言いますが、「雰囲気を醸す」ために使うぶんにはかまいません。





最後に

 今回は「難しい言葉、カタカナ言葉などを使わない」ことについて述べました。

 難しい言葉は平易な言葉に、カタカナ言葉は日本語に変換して用いましょう。

 業界用語は味付け程度に用いるようにしてください。

 できるだけ読み手にわかる言葉で小説を書くのです。

 わからない言葉・用語をあまり使わないようにすれば、読み手はすらすらと物語を追ってくれるようになりますよ。



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