900.惹起篇:小説にかかわる才能の問題
小説に求められる才能は、多岐にわたります。
今回はその中でも、とくに欠かせないものを挙げました。
今回で「惹起篇」は終わりです。次回コラムNo.901からは「文法篇」に入ります。
日本語の文法は意外とやっかいです。
実は「文法」に触れるのは連載の終わり頃だろうと思っていました。
これで終われるのか、まだまだ続くのかは今のところ私自身にもわかりません。
毎月のように出版される「小説読本」「小説の書き方」「文章の書き方」関連の書籍を読むと、「あっ、これはまとめておかないと」と思うことが多いからです。
当面は「文法」との格闘になりますので、それだけに渾身の力でぶつかっていきたいと思います。
小説にかかわる才能の問題
皆様が最も気にしているのが「小説を書く才能」でしょう。
しかし「小説を書く」だけなら誰にでもできます。特別な才能は必要ありません。
文章を書くのが苦手でも、一文一文積み上げていくだけで、それなりの文章に仕上がります。
ですが、書かれた小説が読まれたときに、読み手へ意図やイメージが伝わっているのかはまた別の話です。
構成力
物語として読ませる文章を書きたいのであれば、起承転結や序破急や三幕法などを用いて、話を流してあげましょう。
勝手がわからないからといって「
読み手は「どんな
だから「小説を書く才能」の筆頭が「構成力」になります。
「構成力」がしっかりしていれば、どんなに文章が稚拙でも、物語の流れはつかめるのです。
着想力・創造力・想像力
物語を生み出すきっかけをつかむのが「着想力」、世界観をゼロから作り上げるのが「創造力」、出来あがった世界観の中で人々がどのように暮らしているのかを考えるのが「想像力」になります。
「着想力」は「もしも○○が△△だったら」を思いつく能力です。
「もしも女子高生がタイムリープできたら」で筒井康隆氏『時をかける少女』になります。
「もしも遠く離れた場所にいる男女の心が入れ替わってしまったら」ならアニメ映画の新海誠氏『君の名は。』です。
他の人が思い浮かばない着想なら、まったく新しい物語を生み出せます。
しかし、他の人と同じ着想でもよいのです。
奇をてらって誰にもウケない小説を書くよりも、凡庸な着想から「読ませる」作品に仕上げる方もたくさんいらっしゃいます。
小説投稿サイトでは「テンプレート」を踏襲することで、不確定要素を最小にして凡庸な物語を作っている方が大半です。それを文章力・描写力で「読ませる」作品に仕立てられるかどうか。ランキングに載るかどうかは、「テンプレート」を踏襲して安定した物語を文章力・描写力で「読ませる」作品にできるかどうかでもあります。
「創造力」は「着想力」で得た「もしも○○が△△だったら」をどんな舞台で、どんな登場人物たちの活躍の形で読ませるのか。それを決めます。
「もしも少年が泳げなかったら」を思いつき、「泳げない少年」が活躍する物語世界を考えます。「泳げない」のに海賊だったらどうだろうか。「泳げない海賊」って斬新だよね。ということで「主人公の少年は泳げない海賊」であると確定します。
すると「泳げない少年海賊」がどう活躍すればよいのだろうか、と思うわけです。
商船を襲う海賊が泳げないと活躍しようがありませんよね。
ということは「商船を襲う海賊」という設定は不可です。
ですが「泳げない少年海賊」で行こうと決めたわけですから、なんとかバトルものとして成立させたい。
であれば「海賊同士のバトル」を読ませたらどうか。と考えます。
しかし「泳げない少年海賊」が「歴戦の海賊」と互角に戦うのは
であれば「この世界の海賊は全員泳げない」という設定が思いつきます。
「泳げない海賊」同士でワクワクするバトルになるでしょうか。
そこで全員「特殊能力」を持っている、というのはどうか。
「海賊は全員泳げない」のなら理由が必要です。
そこで、海賊はなんらかの形で「特殊能力」を身につける代わりに「泳げなくなる」というのはどうだろうか。
「特殊能力を持った泳げない海賊同士のバトル」を繰り広げるのにふさわしい世界観や、登場人物はどんなものにしましょうか。
「大航海時代」で「海賊同士がなにかを求めたり奪い合ったり」する世界観がしっくり来そうです。
では「泳げない少年海賊」が「最強の特殊能力」を持っているとして、どんな「特殊能力」を持っていれば「最強」だと言えるのか。それを考えましょう。
――という形で進めていくと、マンガの尾田栄一郎氏『ONE PIECE』の世界観が出来あがります。
着想を「企画書」の形まで整えるのが「創造力」なのです。
「想像力」は「企画書」で出来あがった主人公に、どんな「
「こういう人物なら、こんな
文章力
稚拙な文章をどうにかしたいのであれば、とりあえず「一文で同じ助詞を用いない」ように徹底してください。
所属・所有の助詞「の」と、「と」「や」「か」「とか」「やら」などの並列助詞はふたつ以上あってもかまいません。
ただし「の」は連続二回までにしましょう。「裏の畑のポチの吠える声」と三つ連なるだけで、結局なにが言いたいのかわかりづらいですよね。「裏の畑にいるポチが吠える声」と「の」が連続しないように変換するだけでかなりわかりやすくなります。
「一文で同じ助詞を用いない」ためには、一文の長さそのものを短くするとよいでしょう。
重文は単文に改められないか。複文は単文に変換して解消できないか。それを考えてください。
もちろんリズムを優先させて重文を用いることはあります。一文だけで意味を持たせたい場合は複文にしてもよいでしょう。ですが、あくまでも基本は単文です。
単文でも長い文章を書きたいときは、読点「、」を二つ用いて三つのブロックに分けましょう。
上記の文なら「文章を書くのが苦手でも、一文一文積み上げていくだけで、それなりの文章に仕上がります。」の部分です。
これは三ブロックを意識して書いています。それでいて助詞の重複はないですよね。
長くても読みやすい文とは、言いたいことを三つのブロックに分けても違和感を生じません。
もちろん読点を省いても意味は通じます。しかし打ったほうが視認性と意図は明白です。だからあえて読点を二つ打っています。
これが「文章力」の基本です。
「文章力」については次回コラムNo.901から始まる「文法篇」が手助けになると思いますので、これからの連載もお見逃しなく(CMです)。
描写力
ある事物をどのようにとらえて書くか。それが「描写力」です。
基本的には「比喩」を指します。
「まるで猛る虎が睨みつけるようだ。」は「比喩」の中でもスタンダードな「直喩(明喩)」ですね。
「直喩」には「まるで〜ようだ」「いかにも〜ようだ」のような「直喩」を示す符丁が必ず付きます。それによって「直喩」であることを読み手に伝えるのです。
符丁を省くと「隠喩(暗喩)」になります。「猛る虎が睨みつける。」のような用い方です。これだけをパッと見ると「動物の虎が睨みつける」文章になってしまいます。どこか『グイン・サーガ』臭を感じてしまうのです。ですので前後の文章で、この文が「隠喩(暗喩)」であることをわからせる必要があります。
「夜の暗闇から東の空がじわじわと明るんでくる。太陽自体はまだ見えないけれど、じきに夜の帳が上がるのだろう。」の「じきに夜の帳が上がるのだろう。」は「隠喩(暗喩)」です。
「比喩」では他にも「換喩」「提喩」「諷喩」「引喩」「活喩」「擬物法」「声喩」などがあります。詳しくはコラムNo.94「比喩を使いこなす」をご覧くださいませ。
また心理描写は「描写篇」をお読みくださいませ。
こと小説投稿サイトにおいては、
どんなに構成力、文章力、描写力があって名作が書けても、
ではどのようにして
ランキングに載りましょう。
――いや、ランキングに載るためにどう
わかっていますよ。
ジャンル別ランキングに載っている作品の中で、あなたの作品と似ているまたは近しい小説を見つけてください。
見つかったら、どのようなタイトル、キャッチコピー、あらすじ・キャプション、キーワード・タグを用いているか確認します。
もし自分の小説に使えるものがあれば、その単語を拝借するのです。
現在『小説家になろう』のハイファンタジージャンルにおいて上位に頻出しているキーワードは「主人公最強」「チート」になっています。次いで「ハーレム」「ざまぁ」です。
タイトル、キャッチコピー、あらすじ・キャプションは、あなたの作品が当てはまっていなければ、拝借できません。「Sランク」「レベル」「スキル」「ステータス」などのコンピュータ・ゲーム的な描写がなければ、これらの文言をタイトル等に付けることはできないのです。付けたらタイトル詐欺、キーワード詐欺になります。
最後に
今回は「小説にかかわる才能の問題」について述べました。
「構成力」「着想力・創造力・想像力」「文章力」「描写力」「
最初のうちは拙くてもかまわないので、大量に書きましょう。
書き慣れてきたら、じょじょにこれらのスキルを身につけていくのです。
どれかひとつ欠けても、トップランカーになったり「紙の書籍」化の話が来たりはしません。
今の自分にどのスキルが足りないのか。折を見て自己分析しましょう。
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