879.惹起篇:登場人物は饒舌になりがち

 今回も「小説の会話」文についてです。

 あなたの小説で、聞かれもしないのにペラペラとよくしゃべるキャラはいませんか。

 ひとりふたりならまだいいのです。すべてのキャラがおしゃべりなのは無粋です。





登場人物は饒舌じょうぜつになりがち


 小説の登場人物は、とにかく饒舌じょうぜつになりがちです。

 まず書いていてラクができます。

 会話を一文書くだけで、原稿用紙の一行が埋まっていくのです。長編小説を書くときはとくに、苦もせず一行が埋まってくれるので、とってもラク。

 ですがその安易さに寄りかからないでください。




三点リーダーの乱用注意

「謎」を抱えている人物に質問して、聞かれもしないのにペラペラとしゃべらせてしまうのでは、中級以下の書き手でしかありません。

「謎」があるのなら、普通はバレたくないから黙るか、適当な言葉が浮かばないから黙るか、話すのが苦手だから黙るかするはずです。

 そこで三点リーダーを使って「……」という一文を書いてしまう人がいます。

 これ、しゃべっているのと変わりませんから。中級以下であることを自ら暴露してしまっているのです。

 三点リーダーは効果的なタイミングで用いるからこそ効果があるのであって、頻出してしまうと意味をなさなくなります。

 ライトノベルは、とかく登場人物が全員おしゃべりになりがちです。

 しかし人見知りな人がペラペラと語れるものでしょうか。

 キャラ立てができていないと思われますよね。




黙るか話をそらすかウソをつく

 推理小説で「あなたが犯人ですね」と問われて「はい、そうです」と答えられたら、そこで物語は終わってしまいます。たとえそれが作品が始まって五ページ目で書かれていたとしてもです。

 長編小説がたったの五ページで終わりですよ。

 登場人物が全員おしゃべりになったら困る例だと言えます。

 ではどうすればよいのか。

「黙る」という手があります。しかし最初から黙られると「こいつ、なにか隠しているな」と露骨に怪しまれるのです。

 怪しまれないためにはどうするか。

「話をそらす」か「ウソをつく」のです。「あなたが犯人ですね」と問われても「今日はやけに暑いですね。あの夏もこんなふうに暑かった」と、質問に答えない。また「いいえ、私ではありません」と答える。

 とにかく「はい、そうです」以外の答えが返ってくるはずです。




叙述トリック

「ここを女性が通りませんでしたか?」と道を歩いている老人に聞いて、「いんや、通ってないんよ」と答えたとします。

 でも確かにあなたは髪の長い女性がこの道へ入ったところを目撃しているのです。

 とすればこの老人はウソをついているのでしょうか。

 ウソをついているのかもしれません。しかし本当のことを言っているのかもしれません。

 なぜなら、「女性が」通ったのかを聞いたので、通ったのが「男性」であれば、「いんや、(女性は)通ってないんよ」と答えたとしても本当のことだからです。

 このようなトリックはミステリーの常套ですが、日常でも広く見られます。

 たとえば「明日は六時に学校で集合だ」と三人で確認して別れました。翌日、朝六時に学校に行ったら、集まったのはふたりだけ。残るひとりはどうしたのか。夕方十八時に学校へやってきたのです。

 後れたひとりが悪いのでしょうか。

 違います。約束したとき「午前か午後か」や「二十四時間制でか」を三人で確認していなかったからです。

 だから十八時にきたひとりは「午後六時」だと思い込んでいただけになります。




誰が本当のことを話しているのか

 推理小説で肝心なのは「誰が本当のことを話しているのか」がわからないことです。

 仮に警視庁の警視が聞き込みを行なったとしても(通常、警視は聞き込みを行ないません)、全員が本当のことを言うとは限りません。

 それだけならまだしも「わたしゃ答えたくないね」と非協力的な態度をとられることもあります。普通の読み手なら、この非協力的な人物こそが真犯人なのではと疑ってしまうのです。

 登場人物が全員協力的なら、前述したように「あなたが犯人ですね」と問われて「はい、そうです」と答えて終わってしまいます。

 しかし現実にはそうならない。

 ゲームのエニックス(現スクウェア・エニックス)『ポートピア連続殺人事件』において、ゲームが始まってすぐに「犯人はヤス」と入力してもゲームは解けません。最低限の証拠を集めなければヤスは自供しないからです。




クエストを解くためのクエスト

 ゲームと言えば、勇者パーティーが「解呪の魔導書」を求めて大賢者のもとへやってきたとします。しかし勇者たちはすげなく断られてしまうのです。しかしどうにかして「解呪の魔導書」を手に入れたい勇者パーティーは、大賢者から「次の魔術研究に必要な『雪の月見草』が欲しい。ウサギ山から持ってきてくれたら『魔導書』を渡してもよい」と条件をつけられます。こうして勇者パーティーは『雪の月見草』を探す旅に出かけることとなるのです。

 これはゲームではよくある展開になります。クエストを達成するために、新たなクエストが発生するパターンです。

 推理小説でも同じようなことがあります。

「こいつが犯人に違いない」と確信して相手を問い詰めますが、「俺は知らねぇよ」とはぐらかされるのです。いくら状況証拠を揃えても「知らない」「俺じゃない」と言われたら供述は引き出せません。

 供述を引き出すには、それに足るだけの物的証拠を見つけてこなければならないのです。ようやく見つけてきた物的証拠が決め手となって、犯人は自供します。

「クエストを解くためのクエスト」はRPGではお決まりですが、小説に持ち込むと深みが生まれるのです。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』でも、ゲームを解くための大クエスト「浮遊城アインクラッドを攻略する」がまず全プレイヤーに告げられます。

 そして攻略組が自らの命を危険にさらして、一層一層攻略していくのです。

 七十五階層を攻略したとき、キリトはあることに気づきます。それにより大クエストを解くためのクエスト「○○を倒す」が発生するのです。





最後に

 今回は「登場人物は饒舌になりがち」についてです。

 現実の人間よりも、小説の登場人物はよくしゃべります。

 あまりにもペラペラとしゃべりすぎて、情報が漏れまくっているのです。

 すべての登場人物がおしゃべりでは、メリハリがつきません。

 おしゃべりな人物はひとりにして、残りは普通な人、そして寡黙な人も出しましょう。

 それが小説の登場人物に「現実味リアリティー」をもたらします。



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