848.創作篇:真実は小説よりも奇なり

 今回は「フィクション」には必然性が必要なことについてです。

 真実(事実)は実際に起こったことなので、どんなにとんでもないことでも書けます。

「宝くじの一等に当たった」なんて「フィクション」で書いたら「ご都合主義」の一言で切り捨てられるのです。

 でもノンフィクションなら身を乗り出して聞こうとします。





真実は小説よりも奇なり


 よく「事実は小説よりも奇なり」「真実は小説よりも奇なり」と言います。

 虚構フィクションを含む小説は、そのフィクションに必然性を持たせなければ成立しない物語です。それに対し、虚構フィクションを含まない「事実」「真実」を書いたノンフィクションは必然性がなくても成立する物語です。

 つまり小説で「ロト7に当選して十億円が手に入った話」は必然性が限りなく乏しいため「これはご都合主義だ」と言われてしまいます。しかし「事実」「真実」で「ロト7に当選して十億円が手に入った話」はどんなに確率が低かろうとすでに起こった「事実」「真実」であるから読み手から「ご都合主義だ」とは言われないということです。

 不公平に思えませんか。

 なんでも書けるはずの「小説」では必然性のある出来事しか書けず、「ノンフィクション」では起こりえないような「突飛な出来事」であっても実際に発生したものなら書けてしまうのです。

 では「小説」に求められる「フィクションの必然性」について見ていきましょう。




フィクションには必然性が必要

 虚構フィクションには「必然性」がなければなりません。

 たとえば冒頭の「ロト7に当選して十億円が手に入った話」はひじょうに確率の低い出来事であり、「必然性」が欠如しています。

 しかし「当てるためにロト7くじを何十パターン、一年間欠かさず毎週購入し続けた」というのであれば、「必然性」が発生するところまで確率を上げることもできます。

 なにげなく買った一枚の「ロト7」くじが一等十億円を呼び込むから「作り事」のように読み手は受け取ってしまうのです。

 しかし「一年前から毎週欠かさず数十パターンを購入し続けた」という行為があれば、「主人公はロト7の一等がどうしても欲しいんだな」と読み手を説得できます。

 また主人公が数学の天才で、統計や確率などを駆使して「ロト7の一等十億円に当たる」物語であれば、才能のある人が当てるための努力をしているわけですから、こちらも読み手を納得させやすくなります。

 これが現実に起こった「事実」「真実」であれば、どんなにとんでもないことでも書けますし、読み手も納得します。

「人類が月面に降り立った」という話は、フィクションであれば「そんなバカな」で済まされて一顧だにされないでしょう。しかしアメリカのアポロ計画によって「事実」「真実」として「人類が月面に降り立った」ことが知りわたると、「そういうこともできるんだね」と納得しやすくなります。

「小説」では一顧だにされないのに、「事実」「真実」ではどんなに「突飛な出来事」であっても読み手は納得してしまうのです。

 やはり不公平感は強まります。




フィクションの現実味リアリティー

 ではどうすれば、物語のフィクションに現実味リアリティーを持たせることができるのでしょうか。

 それは「事実」「真実」のように振る舞って模倣するのではなく、読み手がフィクションに現実味リアリティーを加えるため、それを裏打ちするような情報やデータや出来事を前フリしておくことです。つまり「伏線」を張りましょう。

 前述の「十億円」の件でも、「一年間毎週ロト7を複数パターン買い続けた」という前提条件を「伏線」として前フリしています。だから「ロト7の十億円」が当たっても不自然さはないわけです。たった一枚買っただけで十億円が手に入るから「ご都合主義」と呼ばれてしまいます。主人公の苦労を読せないといけないわけです。




特異なことには先に因果を書く

「事実は小説よりも奇なり」「真実は小説よりも奇なり」という格言があります。

 これは「事実(真実)の不可解さ」を強化する言葉として有名です。

 しかし創作面からすれば、「小説」は「事実(真実)」ほどの突飛な出来事を起こせない、ことの裏返しでもあります。

 上記の「ロト7で十億円」が、もし「事実(真実)」であったなら、文章に書いてもなんら批判は出ません。しかし「小説」であったなら、「そんなことありえないよ」と批判が殺到します。

 このように「小説」には「必然性」「因果関係」が求められるのです。

「ロト7で十億円」の努力が書かれていなければ、読み手は作為を感じてしまいます。「作り事」だと見なすわけですね。たったこれだけのことで、読み手は小説の世界に没頭できなくなります。

 小説は「特異な事象」の描写について、「作為的にならない」よう配慮しなければなりません。とくに発生する確率が低いものである場合、それがさも当然であるかのような「因果関係」「理屈」が必要になります。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』において主人公のキリトはユニークスキル「二刀流」を習得しました。これはその世界でたったひとりだけが身につけられるスキルだったのです。ここだけを書けば「必然性」がなく、いかにも「ご都合主義」に思えます。

 そこを「俊敏性が最も高いプレイヤーにのみ与えられるスキル」という「理屈」を先につけることで、読み手に作為性を感じさせず納得させたのです。

『ソードアート・オンライン』は、とても長い物語を単行本一冊に収めるため、話を凝縮させています。つまりユニークスキル「二刀流」のような物語の「伏線」となるものをしっかりと明示して書いてあるのです。

 だからこそ長編小説を書き慣れないまたは書いてもなかなか納得のいく作品に仕上がらない方には、『ソードアートオンライン 001 アインクラッド』をぜひ読んでいただきたい。多くの電子書籍配信サイトにもありますので、この一巻だけでも勉強がてら購入してお読みくださいませ。





最後に

 今回は「真実は小説よりも奇なり」について述べました。

 どんなにとんでもないことでも、「事実(真実)」であれば許されます。

 しかし「小説」では、どんなに本当のことを書いても、「伏線」つまり前フリのない「特異なこと」は認められないのです。

 あなたの書く小説が「ノンフィクション」であっても、とんでもないこと(特異なこと)が起こると「話を盛っているでしょう」と思われます。

 小説と「事実(真実)」は相性がよくないのです。

 だから小説で現実味リアリティーを感じさせるためには、因果関係を明確にする相応の筆力が求められます。



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