837.創作篇:読み手が食いつく小説を書こう

 今回は「読み手が読みたい小説を書く」ことについてです。

「自分が読みたい小説を書く」だけではただの独りよがりです。

 ワンランク上の書き手になるには、読み手が念頭になければなりません。





読み手が食いつく小説を書こう


 小説を書くときの意欲モチベーションは人それぞれです。

「自分が読みたい小説」を書くと決める方もいますし、「他人が読みたがる小説」を書こうとする方もいます。




自分が読みたい小説は独りよがりになりやすい

「自分が読みたい小説」を書く場合、想定される読み手はあなた自身だけです。

 もちろんあなたの感性に近い読み手も惹きつけられますが、対象はほぼピンポイントになってしまいます。

「自分が読みたい小説」はとてもアクの強い作品になりがちです。

 もしあなたが「自分が読みたい小説」を書きたいのであれば、読み手からの反響など気にしてはなりません。寄せられる反響はたいていが否定的な意見だからです。

「どこで起こった出来事なのかわからない」とか「誰が主人公ですか」とか「視点がぶれています」とか。マイナスの反響しかやってきません。

 でもあなたが書きたいのは「自分が読みたい小説」です。そんなマイナスの反響なんて、あなたの創作活動を阻害するだけの存在と言えます。


 だから「自分が読みたい小説」を書きたい方は、小説投稿サイトに投稿せずひとりで作品を読んで悦に入ってください。そうすれば誰からもマイナスの反響は届きません。

「せっかく時間をかけて書いたのだから、大勢の方にも読んでもらいたい」と思って小説投稿サイトに掲載した場合。先述のとおりマイナスの反響が多数寄せられるだろうと覚悟しましょう。だってその作品はその方々のために書いた小説ではありません。不平不満が寄せられても不思議はないのです。むしろ必然だと言えます。




プロを目指すなら自分が読みたい小説は封印する

 もしあなたがプロになって「紙の書籍」を売りたい、夢の印税生活だ、と考えているのであれば、「自分が読みたい小説」は封印しましょう。

 プロの書き手は「自分の好きなように」物語を書けるわけではないのです

 担当編集さんと「企画書」を練りに練って、出来あがった「企画書」をもとに「あらすじ」を構築するのです。「あらすじ」が出来たらまた担当編集とディスカッション。というように、プロとして小説を書くには、担当編集さんの指示を含めることになります。

 プロの書き手が「自分の好きなように」書くには、今書いている小説がよほどの大ヒットを記録しなければなりません。大ヒットの書き手にだけ与えられた特権なのです。

 それ以外のプロの書き手は「自分の好きなように」書けません。書くチャンスがあるとすれば、プロの立場を賭けた最後の勝負をするときくらいでしょう。「これがプロ最後の作品になるかもしれないので、君の好きなように書いてみたまえ」と言われて書かされます。これで結果が出なければ即引退です。それでもまだプロを続けたければ、アマチュアとして一から「小説賞」を獲りにいかなければなりません。もし「小説賞」を授かれれば、プロの書き手として出直せるでしょう。

 ですが、一回引退させられたことに変わりありません。「自分が読みたい小説」を書き続けるだけでは、また引退が近づきます。

 だからこそ、プロの書き手を目指すなら、そして長くプロとして活動したいのなら、「自分の読みたい小説」は封印すべきなのです。




他人が読みたがる小説を書く

 ではプロの書き手になるにはどうすればよいのでしょうか。

 プロの書き手にはさまざまな制約があります。

 前述したとおり「自分の読みたい小説」を「自分の好きなように」書くだけでは、お客様は付きません。

「自分の好きなように」書かせてくれない担当編集さんは、意地悪をしているわけではないのです。そうしないと「紙の書籍」が売れないとわかっているからです。

 銀座の創作フレンチ料理のお店と、赤坂の高級料亭、そして駅前のファミレスがあるとします。

 あなたが「自分が書きたいように」書くのは、銀座の創作フレンチ料理のお店と同じです。どんな料理が出てくるかわからないくせに値段が高い。お金に余裕のある美食家だけが集うようなお店になります。

「他人が読みたがる小説」を書くのは、赤坂の高級料亭と同じです。味は店ごとに異なるとしても和食が出てくることは確実ですが、時価なので価格もそれなりに高い。お金に余裕のある政治家が集うようなお店になります。

 それに対して「他人が読みたがる小説」を「読む人の立場から」書くのは、駅前のファミレスと同じです。いつも食べ慣れた味なので安心して食べられますし、価格もリーズナブル。お金がそれほどなくたってじゅうぶん満足できます。

 あなたの小説の執筆スタイルは上の三つのいずれにあたるでしょうか。

 創作フレンチの方は、よほどの目利きや暇な時間のある人でないと読んでくれません。

 高級料亭の方は、ジャンルに興味のある人の中でも時間に余裕のある人だけが読んでくれます。

 それに比べてファミレスの方は、読み手に応じてさまざまな作品が提供できるため、多くの読み手を抱えることができます。

 実際、集客力の観点では、「ファミレス>高級料亭>創作フレンチ」の順になるはずです。プロとして活動していくのに集客力がないのでは、端から勝負になりません。

 プロである以上、執筆した小説が飛ぶように売れなければ困ります。プロを目指すのであれば「ファミレス」になってください。

「自分が読みたい小説」を「自分が書きたいように」書いても集客力はほとんどないのです。

「他人が読みたがる小説」を「読む人の立場」から書けば、需要から大きく逸れないでしょう。だから多くの人に支持される作品が書け、ファンが生まれる書き手になれるのです。




個性は殺すな

 ファミレスであることを選んだとします。(それが最も成功しやすいからですが)。

 しかし書き手としてのあなたの「個性」は殺さないでください。

「魔王視点の物語に定評のある書き手」であったり「ド派手なバトルシーンが魅力的な書き手」であったり。

 書き手には必ず「個性」があります。「個性」がない「没個性」な書き手が目立てる小説界ではないのです。「没個性」の作品なら、今プロで活躍している方の誰でも書けます。「あなたにしか書けない」作品は、他の誰にも書けないでしょう。

 この「あなたにしか書けない」作品を構成するのが「個性」なのです。

「個性」は多く書き手の「命題」にかかわってきます。

「命題」がはっきりしていると「個性」を打ち出しやすくなるのです。


 だからこそ、書き手としてのあなたの「個性」は殺さないでください。

 どれだけ「個性」を生かして「他人が読みたがる小説」が書けるのか。

 それがプロになれるだけの実力を持った書き手の証なのです。





最後に

 今回は「読み手が食いつく小説を書こう」について述べました。

 あなたが「書きたい小説」を書いているだけではプロにはなれません。

「他人が読みたがる小説」を書ければ、フォロワーは必ず増えます。

 そこに「個性」を上乗せして書くことで、「あなたにしか書けない」作品が生まれるのです。

 そして「小説賞・新人賞」を獲得したいのなら、「あなたにしか書けない」作品を応募しましょう。

 他の誰にでも書けるような「テンプレート」だけの小説を書いて応募したところで、良くて一次選考を通過するだけです。どんなに筆力があろうと最終選考には絶対に残れません。

 それほど「個性」は重要なのです。



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