833.構成篇:ジャンル10:サスペンス
今回でブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』の10ジャンルが終わります。
最後はサスペンスです。緊張感を高める物語はどのような要素で成り立っているのでしょうか。
ジャンル10:サスペンス
限られた空間の中で、あなたの命を狙う化け物とふたりきり。これ以上怖い状況があるでしょうか。しかも「あなた」が招いたものだとしたら……。
とても人気の高い「サスペンス」ジャンルを手短に説明すると、こうなります。
みんなが大好きなホラー、スプラッター、そして怨霊憑依ものに加えて一部のスリラーは、このジャンルに収まります。
「怖い話」以上に読み手の心に「生」に訴えかけるものはありません。「殺される前に殺せ」というひじょうに原理的なことです。
しかもこのジャンルの定義は、毎年新しい小説が出版されるたびに拡張していきます。「限られた空間の中で化け物とふたりきり」という悪夢の物語は、新鮮なひねりを加えながら今もバージョンアップを続けているです。
世にも恐ろしいこのジャンルに欠かせない重要な三つの要素を詳しく見ていくと、実は必ずしも「怖さ」ではありません。もちろん怖いほうがよいのです。しかし「どんな化け物が怖いか」でなく、その化け物と一緒に閉じ込められる狭い空間が「どんなに怖いか」でもないということです。
必要なのは、その化け物が「どうして」そこにいるかという理由です。化け物の存在意義こそが「怖さ」の肝。だからこそ、化け物から解放されて読み手が最後のページをめくった後に、物語が心に反響し続けるのです。
「サスペンス」ジャンルは決して新しいタイプの物語ではありません。むしろ古典的と言ってもよいでしょう。ちょっと思い出しただけでもギリシャ神話の「ミノタウロス」が棲む迷宮まで遡れます。それ以来、書き手たちは同じテンプレートを何度も何度も焼き直しているわけです。
そして読み手は飽きもせずに読み漁り続けています。
なぜなら、このフォーマットはとてもよく効き、何度読んでも読み手の心に響く物語だからです。
サスペンスジャンルの三要素
そんな「サスペンス」ジャンルの物語を巧みに語るために欠かせない要素は「化け物」「家」「罪」の三つです。
まず「化け物」ですが、大小問わずどんなものでも化け物になります。人間かもしれません。また想像力の限界を試すような常識の及ばないもの、または超科学的なものかもしれません。殺人鬼(切り裂きジャック)、悪霊|(ポルターガイスト)、暴走した科学実験(フランケンシュタインの怪物)など。
共通しているのは「人智を超えた」力であること。人智を超えたと言っても、魔法や呪術の話だけではありません。文字どおり「人の知見の外側」ということです。たとえば狂気に駆られた殺人鬼は、人智を超えた力を持っています。邪悪なものに導かれて、普通の人がやらないことをやるのです。もちろん実際に超自然的な、呪術的な、そして超科学的なところから現れる化け物もいます。
定義的に、すべての化け物は人智を超えたものです。自然の法則に逆らった、理解不能な動機に突き動かされて行動します。だから物語の登場人物は、ただ怖がるだけでは済まないのです。魂の奥まで、それこそ「死ぬより怖い」ほど怖がることになるのです。
「死」自体は大した問題ではありません。でも「死」より恐ろしいことがあなたの身に起こるとしたらどうでしょうか。そこに本物の恐怖があるのです。命に限りのある私たちには理解不能です。
ゾンビものは、まさに同じ理由で読み手に人気があるのです。ゾンビは死んでいるだけではなく、破壊衝動で動きますよね。そして、私もあなたも、あんなふうになってしまうかもしれないという理解不能な可能性は「死ぬより怖い」のです。
狂気などを含む人智を超えた力を持ち、本質的に邪悪であること。それが「化け物」の正体です。
「サスペンス」ジャンルの小説に必要な第二の要素は、「化け物」が存在する限られた空間です。これを俗に「家」と呼びます。その空間が狭いほど、あるいは主人公が孤立するほど、物語は面白くなるのです。舞台は文字どおり「家」かもしれないし、「家族」かもしれない。ひとつの「街」全体かもしれないし、果ては「世界」をも含むかもしれません。そんな限定された空間が前提条件になります。大事なのは、「化け物」の怒りが必ずはっきりとなにかに向けられてることです。
どんな
でも「化け物」や「家」よりももっと大事なものがあります。それがこのジャンルの第三の要素である「罪」です。
「化け物」に狙われている主人公または主人公たちは、まったくなんの罪もない潔白な人ではありえません。誰かが、その「化け物」の存在に責任を負っているものです。または「化け物」の領域を侵犯してしまった、あるいは「化け物」を目覚めさせてしまったという「罪」になります。
そしてたいていの場合、それは主人公、主人公の相棒、場合によっては全人類が犯してしまった「罪」なのです。
ともかく、この大惨事は「私たちのせい」なのです。
「サスペンス」ジャンルがうまくいくのは、この「罪」のおかげです。「罪」があるから、読み手の心に共鳴します。「罪」はより深い「テーマ」と誰もが共感できる「教訓」とにつながっているからです。この「罪」というものは、みんなに気をつけるよう警告する標識のようなものです。
「同じ過ちを犯すと、同じ目に遭いますよ」という警告です。
食われて死ぬのはじゅうぶん嫌ですが、自分が原因を作ったものに食われて死ぬのはもっと嫌でしょう。恐ろしい
「罪」は「化け物」を滅ぼすヒントにもなるので、とても重要です。「化け物」に屈服して死ぬ前に、一刻も早く自分たちのやった「なにが悪かった」のか考えなければなりません。
さらに重要なのは、「罪」によって見てくる深刻な問いと答えです。「本物の化け物」はどちらでしょうか。「化け物」のほうか私たちのほうか。
「罪」は、あなたが書く物語に意味と理由を与えます。それがなかったらなにもないのと同じで、なんの話かわかりません。
「化け物」がその人を、その集団を、あるいはその社会を攻撃する理由は、必ずあります。その人たちは、どんなことをしてしまったから攻撃を受けるのでしょうか。どんな人類の「罪」によって、その人たちは酷い目に遭うのでしょうか。主人公たちが直接なにか悪いことをしたのでなくても、事件に至るまでのどこかで、誰かがパンドラの箱を開けて中を覗いてしまいました。その結果が、あなたが書いている物語なのです。
「サスペンス」と「ヒロイック」ジャンルは混同されることがありますが、「罪」の所在がどこかで見分けられます。「こんなことになったのは誰のせいだろう」と考えてください。もし答えが「みんなのせい」または「主人公のせい」なら「サスペンス」ジャンルです。
「サスペンス」ジャンルが好んで使われる(けど絶対不可欠ではない)材料として、「途中まで来た人」と呼ばれるキャラがいます。これは通常、師匠タイプのキャラで、「化け物」と戦った過去を持っています。化け物にまつわる悪に関する知識があり、傷を負って(視力を失った場合も)逃げ延びたのです。
うまく背景にある情報や神話、伝承を物語に忍び込ませたいときに、「途中まで来た人」は使い勝手がよくて便利です。「途中まで来た人」は、化け物の脅威の具現ですからね。
「途中まで来た人」は(元々死んでなければ)「11.追い詰められて喪失」セクションで死ぬことが多いということにお気づきの人もいるかもしれません。最後には主人公または主人公たちは、自分たちだけで「化け物」に立ち向かわなければならないからです。師匠が死ぬことで、失敗の可能性はさらに高まります。助けてくれる人が死んだら、「化け物」が襲ってくる前に第三幕の作戦を考案しなければなりません。
つまり、その「化け物」を「家」の中に連れ込んだ、または「化け物」の領域を侵した責任である「罪」。無知を含む違反行為で、主人公が受け止めることになる「テーマ」と関係するのです。
最後に
今回は「サスペンス」ジャンルについてまとめました。
「サスペンス」は主人公サイドの誰かが「罪」を犯して「化け物」を限られた空間「家」の中で暴れさせてしまいます。
その暴力的なまでの恐怖が、読み手にハラハラ・ドキドキを感じさせて、ページをめくる手を止められなくさせるのです。
ここまで10回にわたってブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』の10ジャンルを取り上げてきました。
あなたが書きたいジャンル、今書いているジャンルはどれに当たったでしょうか。
ジャンルがわかると、物語をどう書けばいいのか、また行き詰ってもどう突破すればいいのかを見つけ出しやすくなります。
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