826.構成篇:ジャンル3:組織・制度

 今回もブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』の10ジャンルのひとつをご紹介します。

 今回の「組織・制度」ジャンルは会社だったり学校だったり自治体であったりとなんらかの「組織」があり、それを維持するための「制度」があるのです。

 その「組織」や「制度」を守るのかぶち壊すのかが「テーマ」になります。





ジャンル3:組織・制度


 どんな世界であっても、人間は集団を形成します。その集団に秩序をもたらすため、皆が守るべき「制度」が整えられたのです。「制度」に従う集団のことを「組織」と言います。


 たとえば、あなたが新しく好きになった歌手がいたとします。あなたはライブ会場に行って、入場を待つファンのグループがふたつある場合。片方は二十名の集団、もう片方は三名の集団です。そうであるなら、あなたが取りうる選択肢は限られます。

「二十名の集団に話しかけて仲良くライブを楽しむ」「三名の集団に話しかけて仲良くライブを楽しむ」「双方に話しかけて皆で仲良くライブを楽しむ」「どちらにも話しかけずにひとりでライブを楽しむ」です。さらに「ライブを観ずに帰る」という想定外の選択肢もあります。


 ある組織のメンバーになるか、自分の道を行くかという選択こそが、この小説のジャンルということになります。

 アニメ『アルプスの少女ハイジ』のように高山に住む数少ない家族や仲間たちが「組織」の物語もあり、映画のジョージ・ルーカス氏『STAR WARS』のように宇宙規模の「組織」の物語もあるのです。

 小説では、伏見つかさ氏『エロマンガ先生』のような家族がメインの物語と、川原礫氏『ソードアート・オンライン』のような一万人のユーザーが参加するVRMMORPGの物語がイメージしやすいでしょうか。

「組織」に仲間入りするか、我が道を行くか。これがテーマになっているライトノベルも数多くあります。

 前述の『ソードアート・オンライン』では主人公のキリトが血盟騎士団に力を貸すか、独力で攻略するかを迫られるのです。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』では主人公の比企谷八幡は葉山隼人が属するスクール・カーストと距離を置いて、友人を作ろうとしない。見かねた生活指導担当の国語教師・平塚静に目をつけられて無理やり「奉仕部」に入部することになります。そこには学園一の才女である雪ノ下雪乃がいたのです。さらにスクール・カーストに属していた由比ヶ浜結衣も「奉仕部」に入部してきます。そこから「奉仕部」という「組織」を中心とした、ぎこちない青春ラブコメが始まるのです。

 誰かひとりの物語ではなく、大勢の物語である場合、この組織・制度ジャンルの可能性が高くなります。

 マンガの堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』では主人公の緑谷出久デクが属する雄英高校ヒーロー科1年A組が物語の中心にいます。基本的にデクの成長を描く物語ですが、1年A組そのものの成長を描いていますから、勇者譚型とも言えますし、組織・制度型とも言えますね。




組織・制度の三要素

「組織・制度」ジャンルにも必要な要素が三つあります。

「組織」「選択」「犠牲」です。

「組織・制度」ジャンルで扱われる「組織」には、登場人物が生まれつき所属している「組織」、多くの場合無理やり連れてこられて入れられる「組織」、または所属するように勧誘される「組織」というパターンがあります。

 どんなに小さな集団でも、その「組織」へ所属した者には世界全体に思えるよう書けるのです。そして「組織」の外にいる者にそう思わせられます。

 このように、幅広い要素を扱えるこのジャンルですが、一般的に主人公(個人または複数)が「組織の一員である」ことの是非を考察するのが、物語の核になります。

 さらに「組織・制度」ジャンルの物語を書く書き手は、扱うことになる「組織」の性質を深く探ることが必要です。どういう世界で、どのようなメンバーによって構成され、どのような「制度」によって運営されて、帰属してしまうと自分を失ってしまうような「組織」なのでしょうか。

 家族、集団、企業、共同体、そしてその「制度」。または、人々をひとつにつなげるような考え方や問題です。


 読み手に自分の話だと思わせやすいのが「組織・制度」に関する物語です。なにしろ人間は最初から集団という「組織」の中で暮らしてきました。家族の中に生まれ、学校では仲良しグループを作り、仕事のために会社へ所属し、共同体の一員となる。日々の暮らしの中で、「組織」のメリットを測りながら生きているわけです。人間は群れで行動するように出来ていますから、「組織・制度」の物語は、私たちの中にある原初的なものに語りかけます。

 なにしろ、原始人がひとりで狩りに行ってサーベルタイガーに遭遇したらまず死にます。でもそのあと数万年の間に、自分の道を切り拓いていくことのメリットのほうが高いのではないかと思うようになったのです。

 だからこそ「組織・制度」ジャンルの物語を読むとき読み手は、心の奥底にある人間の本質にかかわることを自問します。

「あいつらは、本当に皆のことを考えて行動しているのか」「それとも自分の身は自分で守らなければならないときが来るのか」

「おかしいのはどっちだ。やつらか。やつらから逃げようとしている自分か」

 書き手が扱う「組織」や家族がなんであっても、読み手がその「組織」の世界に深く入り込むにつれ、どの「組織」にも必ず存在する狂気が見えてくるべきなのです。集団の原理というのはおかしくなりがちで、自己破滅的にさえなります。群れの心理は、どんな理屈も論理的思考をも超越するのです。集団への忠誠心というのは常識に反し、生存を脅かすことすらあります。それでも私たちは「組織」に忠実であろうとするものです。

 そして大勢の一部になることは、自分の構成する部品の一部を放棄することでもあります。

 というわけで、あなたが「組織・制度」ジャンルを書くのであれば、その「組織」を素晴らしいものであると称えながら、同時に帰属することで個が失われてしまうという問題を暴かなければなりません。

 書き手が登場する「組織」の表皮を剥ぎ、その集団の行動原理を暴くことで、読み手に「自分がこの組織に帰属したらどうしただろうか」「自分なら所属するか」「それとも抜け出すか」と考えてほしいわけです。


 それが、すべての「組織・制度」の物語の心臓である「選択」という要素。このジャンルを成功させるために欠かせない第二の要素です。

 新米対管理職、新米+反逆児対管理職、または反逆児対管理職の終わりなき確執があるのです。新米にとっては集団に入るべきかどうかという問いかけ、反逆児にとっては集団に留まるか去るかという問いかけが確執の核になります。

 この「選択」という要素をよりよく理解するために、「組織・制度」の物語でよく使われる三タイプのキャラクターについて考えてみましょう。

 一般的に、この手の物語の主要なキャラクター(主要キャラクターが複数の場合はそのうちのひとり)は、新たにその組織に加わることになる新米として登場します。その場合、少しだけ経験の長い先輩が、それまで新米が存在することも知らなかった「組織」の中でどう振る舞えばいいのかを教えてくれます。

 新米は、読み手の「目」としてその世界を見る役を負うのです。読み手は新米と一緒に、集団の規則や規範つまり「制度」を学んでいきます。新米キャラは、読み手がすんなり物語の世界に入っていくことを助け、説明の嵐を避けられるのです。

 しかしすべての「組織・秩序」の物語に新米がいるわけではありません。中には反逆児と呼ばれる違ったタイプのキャラクターの目を通して語られる話もあります。この手のキャラクターは、すでに「組織」のメンバーになっている人。すでに「組織」の仕組みの中にどっぷり浸かっていますが、疑いを持ち始めます。または、何年も疑いを抱えているのですが、なにもできず、抜け出せないのです。なにしろその「組織」が自分の世界そのものですから、そこから抜け出すなんて正気の沙汰ではないと思えます。小説が始まるところで、すでにこのタイプのキャラクターは他の人たちとなにかが違います。どこか、しっくりこないのです。持って生まれたなにかが組織のシステムと噛み合いません。でも物語が核心に触れて初めて、抱えてきた疑念に対して行動を起こすのです。

 新米も反逆児も、書き手が書いている「組織」の問題を顕在化させる大事な役割を負っています。新米はよそものとして、叛逆児は反抗的な身内という立場によってです。しかしどちらのキャラクターも、三番目のタイプのキャラクターに立ち向かわないと、その役割を遂行できません。「組織・制度」ジャンルに頻繁に登場するそのキャラクターとは「管理職」です(会社の中間管理職のような意味合いです)。

 管理職は、「組織」のシステムを体現するキャラクターになります。これは帰属する「組織」の制度を完全に信じきっている人たちです。組織を盛り上げる応援団になります。集団の一部という生やさしいものではなく、帰属した集団のために命を張る人たちです。「組織・制度」ジャンルの書き手は、このタイプのキャラクターに組織の「狂った面」を見せる役を負わせます。なんの疑いも持たずにその「組織」に命を捧げてしまうと、こうなってしまうという見本です。帰属集団への揺るぎない忠誠心のせいで、このようなキャラクターはどこか常軌を逸した印象、あるいはロボット的な印象すら与えることがあります。「組織」のシステムの中で確約される自分の安全と引き換えに、魂の一部を売り渡したということです。書き手が風穴を開けようとしている「組織」に死に物狂いでしがみつくような人ですから、管理職タイプのキャラクターは、主人公が究極的に下さなければならない決断の一面を象徴しています。「組織」に殉じるのか、さっさと抜け出すのか。

 その「決断」は、物語の進展とともに難しくなっていきます。新米または反逆児あるいは両方が、「組織」内の頭のおかしくなるようなドラマに深くのめり込むにつれて、忠誠心と決断力を試すような出来事が起きるのです。


 最終的に、どの「組織・制度」ジャンルの物語も、物語を成功させる第三の要素によって終わりを迎えます。それが「犠牲」です。

「犠牲」には次の三種類があります。主人公が「組織」に殉じる「決断」をする。「組織」を焼き払う。あるいは「組織」から逃げる。比喩的な死を含む自殺も「組織」からの逃亡に含まれます。

 帰属する。焼き払う。逃げる(自殺含む)。

 どのように物語が終わるにしろ、主人公の「犠牲」をもって、「組織」に帰属することの危険性を伝える教訓として機能します。最終的に伝わるべき深いメッセージは、自分の心の声を聞けということです。誰もがなんらかの「組織」に属さないわけにはいかないとはいえ、最終的に絶対に守らなければならないのは、私が私であるという理由、つまり個人の精神のはずです。





最後に

 今回は「組織・制度」ジャンルについてまとめました。

 必要な三つの要素「組織」「選択」「犠牲」を揃えて、小説を構成してみましょう。

「組織・制度」に関する小説は、田中芳樹氏『銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』のような群雄劇が手本となります。

 また片足をかけている小説として上記した『ソードアート・オンライン』や『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』なども参考になるでしょう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る