654.事典篇:北欧神話:ラグナロク

 今回は「北欧神話」の最後を彩る「ラグナロク」についてです。

 アース神族と巨人族との最終決戦とされています。

 世界樹ユグドラシルが炎に包まれて海中に没し、鎮火してから再浮上して新たな世界が生み出されたのです。

 ラグナロクに参加した巨人族は全滅し、アース神族もほとんどが討ち死にます。

 人類も男女一組しか生き残りませんでした。





事典【北欧神話:ラグナロク】


 北欧神話の最後を飾る、アース神族と巨人たちとの最終決戦。それが「神々の黄昏ラグナロク」です。




神々の黄昏ラグナロク

 アーサヘイムの神々は、彼らに破滅をもたらすと予言されたフェンリルをアスガルドで監視していましたが、手に余るようになったので鎖につなぐことを考えます。しかし最初の枷はすぐに切れ、強度を上げた枷も力いっぱいに引きちぎられました。そこでスキールニルを使いへ出してドヴェルグに魔法の紐グレイプニルを作らせて神々はようやくフェンリルの拘束に成功します。

 フェンリルの父であるロキはアース神族に対して悪戯し放題で手がつけられませんでした。しかしバルドルが死んだことによって、さすがの神々もロキを野放しにはできなくなりました。しかしアスガルドは神聖な地であり、流血沙汰はご法度です。そこでトールがロキを恫喝して、ロキをアスガルドから追い出しました。

 山奥深くに隠れ住んでいたロキですが、神々は自分を捜し出そうとしているとわかっていたので、トラップを仕掛けて誰かが近づいてきたらすぐわかるようにしておいたのです。そしてよく鮭の姿になって川を泳いでいました。ロキは鮭の自分を捕まえるとしたらどんな道具が必要だろうかと考えて、漁網を考案したのです。

 やがてオーディンが玉座から世界を見渡してロキを発見し、神々をロキ捕縛のために派遣しました。それを察したロキは漁網を火の中へ放り込むと、鮭に変身して川の底まで逃げ出したのです。

 ロキの隠れ家にたどり着いた神々は中に踏み込むと誰もいないことに気づきます。そのとき知恵者のクヴァシルが炉の中にロキの投げ込んだ漁網の白い灰を発見し、これは魚を捕るのに使えそうだと見抜きました。そこでロキは魚になって川へ逃げたに違いないと判断し、麻糸をたくさん用意したのです。そしてロキの漁網を参考にして大きな漁網を完成させました。

 トールが片方を持ち、残りの神々がもう片方を持って、滝から海に向かって漁網を移動させて追い込んでいったのです。しかしロキは川底に大きな石を二つ見つけてその間に身を潜ませてやり過ごしました。神々は二度目の追い込みをする際、漁網の底に石を結びつけてなにものも逃さない工夫をしたのです。これによりロキは逃げ場を失い、海まで追い込まれますが絶体絶命のところで力いっぱい躍りあがると漁網を飛び越えて滝壺に泳ぎ戻りました。このことでロキの隠れ場を神々は確信したのです。

 そこで今度は神々が漁網の両端を持ち、真ん中はトールが川の中に入ってロキを逃さないように追うことにしました。ロキには二つの道しか残されていません。海へ追い立てられると命が危ないので、残りのひとつの道つまりもう一度漁網を飛び越えて滝壺に逃げ帰ることを選択しました。しかし今度はトールが川の真ん中で待ち構えていましたから、飛び跳ねたロキはトールに捕まったのです。

 アスガルドの外で捕まったロキは元の姿に戻ります。神々はロキを山奥の洞窟へ連れていき、三つの平たい石をとってくるとそれに穴をあけ、ロキの息子ナリの腸から三本の鉄の鎖を作り出してそれを通してロキをつないでしまいました。それから一匹の毒蛇を捕まえてくるとちょうど蛇の吐く毒が彼の顔の上へ滴り落ちる場所にくくりつけたのです。こうして神々はその場を立ち去りました。ロキの妻シギュンだけは夫をかわいそうに思ってそこに残ったのです。彼女は滴り落ちる蛇毒を鉢に受け止めます。しかしいつしか鉢はいっぱいになり、それを捨てに行かなければなりません。その間に毒はロキの顔の上に滴り落ち、ロキは大地も震えるほどものすごい力で苦しがって身をもがきます。人々はそれを地震だと思うのでした。こうしてロキはラグナロクが訪れるまで鎖につながれていなくてはならなくなったのです。

 ロキがつながれている間に、アース神族と巨人族との最終決戦の日が不気味に近づいてきました。


 ラグナロクが起こる前にまず風の冬、剣の冬、狼の冬と呼ばれるフィンブルヴェト(恐ろしい冬、大いなる冬の意)が始まります。夏は訪れず厳しい冬が三度続き、人々のモラルは崩れ去り、生き物は死に絶えたのです。

 太陽と月がフェンリルの子であるスコールとハティに飲み込まれ、星々が天から落ちてしまいます。大地と山が震え、木々は根こそぎ倒れ、山は崩れ、あらゆる命が巻き込まれ消えていくのです。ヘイムダルは世界の終焉を告げるために角笛ギャラルホルンを預けている「ミーミルの泉」へ向かいます。最高神オーディンも「ミーミルの泉」の元へ駆けつけて賢者の助言を受けるのです。

 この日にはすべての封印、足枷と縛めは消し飛び、束縛されていたロキやフェンリルやガルムなどがアスガルドに攻め込んできます。世界蛇ヨルムンガンドが大量の海水とともに陸のミッドガルドに向けて進むのです。

 その高潮の中に巨大な船ナグルファルが浮かびます。舵をとるのは巨人フリュム。巨人や死者の軍勢を乗せています。さらにムスペルヘイムのスルトが炎の剣を持って北上してくるのです。前後が炎に包まれた彼にムスペルの子らが馬で続きます。虹の橋ビフレストは彼らの進軍に耐えられず崩壊したのです。


 神々と死せる戦士たち(エインヘリャル)の軍は皆甲冑に身を固め、巨人の軍勢とヴィーグリーズの野で激突します。

 オーディンはフェンリルに立ち向かうもののフェンリルに噛みちぎられ飲み込まれて死にました。しかしオーディンの息子ヴィーザルが、フェンリルの口を鉄の靴と手を使って引きちぎり父の仇を討つのです。トールはヨルムンガンドと戦い、「ミョルニル」で三度殴りつけて倒すものの、自らもヨルムンガンドの毒を喰らい相討ちに終わります。テュールはガルムと戦うも相討ち。ロキとヘイムダルも相討ちに倒れます。フレイはスルトと戦い善戦するも武器を持っていなかったため討ち倒されたのです。

 スルトが持っていた巨大な火の剣が放った炎が世界樹ユグドラシルを焼き尽くし、「九つの世界」は海中に没します。


 戦いののち大地は水中から蘇り、バルドル、ヘズは死者の国より復活するのです。オーディンの子ヴィーザル、ヴァーリ、トールの子モージ、マグニ、さらにヘーニルらも生き残り、新たな時代の神となります。彼らはかつてアスガルドのあったイザヴェルで暮らすことにしたのです。

 天にあるギムレーという、太陽より美しく黄金より見事な広間には、天地を滅亡させる炎も届きません。ここに永遠に、善良で正しい人が住むのです。さらにホッドミーミルの森(世界樹ユグドラシルの一画にあるとされる)だけが焼け残り、そこで炎から逃れたリーヴとリーヴスラシルという二人の人間の男女が新しい世界で暮らしていくものとされています。

 太陽が狼に飲み込まれる前に産んでいた美しい娘が、母を継いでその軌道を巡り、新しい太陽となったのです。





最後に

 今回は「事典【北欧神話:ラグナロク】」として北欧神話の終わり方をまとめました。

佳境クライマックス」の「神々の黄昏ラグナロク」によって巨人はほとんど死に絶え、主神オーディンやトールなどを失ったアース神族も新世代の神々が新たな世界を見守ることとなります。

 最初からふたつに分かれて生まれた巨人と神が、「ラグナロク」で双方潰し合いをして滅びていくさまは、無常観を表しているようにも映ります。

 次回からは「北欧神話の神々」についてです。



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