653.事典篇:北欧神話:創世伝

 今回は「北欧神話」における「九つの世界」の創造についてです。

 始まりの巨人ユミルと牝牛が産まれてから、ユミルをオーディンらが殺害して「九つの世界」を創造した過程をまとめました。





事典【北欧神話:創世伝】


 世界樹ユグドラシルの「九つの世界」は、始まりの巨人が殺害されてから、神オーディンらによって作り出されます。

 といっても元々第三層のニヴルヘイム、ムスペルヘイム、ギンヌンガ・ガップは存在していましたから、残る第二層と第一層が創世されたと見るべきです。

 霜の巨人族と神族との血の交わりを始めに、ムスペル族と合わせて見ていきます。




霜の巨人族

始まりの巨人ユミル

 アウルゲルミルとも呼ばれる。他にユーミル、ユミール、イミルなど。

 ギンヌンガ・ガップから生まれた巨人ユミルは、身体の各所から何人もの巨人を産み出しました。まず巨人の息子と娘が両腋から生まれ、両足が番って頭が六つある奇怪な姿の巨人も生まれたのです。

 最初に生まれた神ブーリの息子ボル(ブル)が、ユミルの一族である霜の巨人ボルソルンの娘ベストラと結婚してオーディン、ヴィリ、ヴェーの三神が生まれます。

 霜の巨人たちはひじょうに乱暴で神々とつねに対立していました。しかし霜の巨人の王となっていたユミルがついにこの三神によって殺害されたのです。そのときベルゲルミルとその妻以外の霜の巨人は、ユミルから流れ出た血によって溺死してしまいました。これによりベルゲルミルとその妻が霜の巨人の新たな血統の始祖となったのです。

 三神はユミルを解体し、血から海や川を、身体から大地を、骨から山を、歯と骨から岩石を、髪の毛から草花を、まつげからミッドガルドを囲う防壁を、頭蓋骨から天を造ってノルズリ(北)、スズリ(南)、アウストリ(東)、ヴェストリ(西)に支えさせ、脳髄から雲を造り、残りの腐った身体に湧いたウジに人型と知性を与えて小人(妖精)に変えたとされています。それが光の妖精エルフと闇の妖精ドヴェルグ(ドワーフ。ダークエルフとも)です。


スルーズゲルミル

 霜の巨人で原巨人アウルゲルミルまたはユミルの息子であり、ベルゲルミルの父。六つの頭を持つ息子と同一とされます。九つの頭を持つスリヴァルリディも彼の息子です。


ベルゲルミル

 霜の巨人。スルーズゲルミルの息子でアウルゲルミルまたはユミルの孫です。

 オーディンとその兄弟ヴィリとヴェーによってユミルが殺され、ユミルの傷から流れた血の大洪水によって巨人たちが滅びたときの、巨人ただ一組の生存者となりました。彼らは箱舟の上に乗ることによって血の洪水を逃れ、その後霜の巨人族の新たな血統の祖先となったです。


ボルソルン

 古代の霜の巨人ヨトゥン族で、アース神族のオーディンの母となるベストラの父。

 なおベストラの父はユミルであるともいわれています。


ベストラ

 霜の巨人ヨトゥン族の女性で、巨人ボルソルンの娘。

 神ボルと結婚し、オーディン、ヴィリ、ヴェーの母となりました。

 知識の巨人ミーミルはオーディンの伯父とされているのです。すると巨人である母ベストラの兄ということになるのですが、ミーミルとベストラが兄妹という根拠は不明です。


モーズグズ

 ニヴルヘイムに架かるギャッラルブルーの橋の監視役の女巨人。

 命を失いヘルヘイムへ向かう者が、モーズグズに自分の名と用向きを述べれば、モーズグズはギョッル川の片岸から向こう岸へ渡るのを許していました。ヘルモーズがバルドルの身請けを企ててヘルヘイムへ向かう途中、モーズグズのいるところを通りかかったのです。モーズグズは彼が死者に見えないことに気づいて用向きを尋ね、さらにヘルヘイムへの行き方を教えたとされています。





アース神族

最初の神ブーリ

 最初に生まれた神。ギンヌンガ・ガップの中に溜まった毒気と塩分を含む氷を舐め続けた牝牛のアウズンブラによって作り出された滴から生まれました。ボルの父であり、オーディンの祖父です。


主神の父ボル

 最初の神ブーリの息子であり、主神オーディンの父親。ヨトゥンのベルソルンの娘であるベストラを娶り三人の息子を得たのです。順にオーディン、ヴィリ、ヴェーと名付けられました。


主神オーディン

 主神にして戦争と死の神。詩文の神でもあり吟遊詩人のパトロンでもあります。魔術に長け、知識に対してひじょうに貪欲な神です。ときに自らの目や命を代償に差し出すことさえもありました。

「ミーミルの泉」の水を飲むことで知恵を身につけて魔術を会得したのですが、水を飲む代償として片目を失ったとされているのです。

 ルーン文字の秘密を得るためにユグドラシルの木で首を吊り、自ら魔槍グングニルを突き刺したまま九日九晩己の身体を最高神である自身を捧げたといいます。このときは縄が切れて助かったのです。

 グラズヘイムにあるヴァルハラに、ヴァルキュリア(ヴァルキリー/ワルキューレ)によってエインヘリャル(戦死した勇者)を集め、「ラグナロク」に備え大規模な演習を毎日行なわせていました。この演習では敗れた者も日没とともに再び蘇り、夜は大宴会を開いては翌日また演習を行なっていたとされています。

 愛馬は八本脚のスレイプニール。フギン(思考)、ムニン(記憶)という二羽のワタリガラスを世界中に飛ばし、二羽が持ち帰るさまざまな情報を得ているといいます。また足元にゲリとフレキという二匹の狼がおり、オーディンは自分の食事を二匹の狼に与え、自分は葡萄酒だけを飲んで生きているそうです。

 主に長いヒゲをたくわえ、失った片目を隠すようにつばの広い帽子を目深にかぶり、黒いローブを着た老人として描かれます。戦場においては黄金の兜をかぶり、青いマントを羽織って黄金の鎧を着た姿で表されるのです。

 最期は「ラグナロク」にてロキの息子であるフェンリルによって飲み込まれる(または噛み殺される)結末を迎えます。


ヴィリとヴェー

 オーディンとヴィリとヴェーの三兄弟が海岸で二本の木(トネリコの木とニレの木)を見つけ、ここから最初の人間(トネリコの木から)男性アスクと、(ニレの木から)女性エムブラを創ったのです。オーディンは命と魂を、ヴィリは動く力と知性を、ヴェーが言語と聴覚と視覚を与えたとされています。ロキによってヴィリとヴェーがオーディンの妻フリッグと性的関係を持ったことを暴露されます。





ムスペルヘイム

スルト

 スルトはムスペルヘイムの入り口を守る炎の巨人で、世界にまだムスペルヘイムとニヴルヘイムとギンヌンガ・ガップしかなかった時代から存在し、ムスペルヘイムの国境を守っていました。炎の剣を持っており、最後まで生き残りすべてを焼き尽くすといわれているのです。

 ラグナロクでは神々と巨人との戦場にムスペルの一族を率いてアスガルドを襲撃し、鹿の角で戦うフレイを倒します。その後、世界(世界樹ユグドラシル)を焼き尽くすとされています。

 スルトの妻とされるシンモラは九つの鍵をかけたレーギャルンの箱に収められたレーヴァテインを預かるとされているのです。これは炎の剣とは別のものだとされています。





最後に

 今回は「北欧神話:創世伝」についてまとめてみました。

 始まりの巨人ユミルの身体から、オーディンたちが世界樹ユグドラシルに「九つの世界」を作り出しました。

 ユミルの血液がギンヌンガ・ガップを飲み込み、霜の巨人族はベルゲルミル夫妻以外が溺死することとなったのです。

 これにより本格的に北欧神話が幕を開けます。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る