648.文体篇:物語は四部で構成する

 今回は「文体篇」のラストとしてもう一度「四部構成」についてです。

 長編小説の形は基本的に「主謎解結」で構成され、とくに推理小説の場合は「謎主解結」になります。

 連載小説では一回ごとに「主謎解惹」で構成するのです。

 これだけで評価を高めることができます。

 大晦日は連載小説として用意している『秋暁の霧、地を治む』の「箱書き3」の一部を掲載致します。

 元日からは「ファンタジー小説」のための資料としての「事典篇」のスタートです。

 世の「文章読本」「小説の書き方」はおおかた読み尽くしてしまい、ネタ切れになったので、という意味でもあります。





物語は四部で構成する


 小説を書くとき、三部構成にするか四部構成にするか、はたまた五部構成という変則に打って出るか、これをまず決めなければなりません。

 最も書きやすいのは四部構成であり、また最も読みやすいのも四部構成なのです。




三部構成は盛り上げるだけ

 書き慣れていない方は三部構成がよいかもしれませんね。三部構成の基本は「序破急」です。

「序破急」は短編小説を書くのに向いています。ですが長編小説には向いていません。なぜなら「序破急」は盛り上げていくだけの流れだからです。

 ゆっくりと入って(序)、その調子を破って(破)、急テンポを維持したまま結末でオトす(急)。だから「序破急」と呼ばれるのです。

 長編小説で用いると、盛り上げてオトすだけの流れがワンパターンで飽きがきます。

 その点四部構成はひとひねり入るのです。順調に盛り上げていって、飽きがくる前にひとひねりして新鮮味を出します。これによって長い物語でも読み手が面白さを抱いたまま結末まで誘えるのです。




文章は四部構成

 論理的な文章を書くためには「問題提起」「意見掲示」「論旨展開」「結論」の四部構成が基本です。

 これを小説に当てはめてみます。「謎」「事件」を起こしてどう「アプローチ」してどんな「理屈」でどういう「答え」を導くのか。

 小説では「主人公」が出てこなければ始まりません。だから「謎」「事件」の前に「主人公」を立てる必要があります。

 連載小説なら「答え」を導き出した後に、「惹き」を入れて次回への期待を高めるのです。

「主人公」、「謎」「事件」、「アプローチ」「理屈」「答え」、「惹き」の四部構成になります。これが「主謎解惹」と定義されたものです。

「解」が「アプローチ」「理屈」「答え」と三つも機能が集中していて、最もたいせつな部分のように思えますよね。

 しかし「主謎解惹」の重要度は四つとも均等です。


「主人公」に魅力があるから「この主人公がどんな物語を見せてくれるのかな」と期待して読み進めてくれます。この導入がしっかりとハマっていなければなりません。

「主人公」の魅力を引き立てるために、小さな「事件」「出来事」を起こしてそれに立ち向かう姿を読み手に示してください。その解決手法を示すことで、読み手は「この主人公はこんな性格なのか」と理解します。

 場合によっては、少し先の展開に冒頭で触れる手もありです。

 たとえば学園生活を送りながら秘密結社と戦う少年の話なら、冒頭で読ませたいのは学園生活のほうですか。それとも秘密結社と戦うほうですか。

 もし学園生活をメインに話が進んでいくようにするのなら、学園生活のシーンから始めましょう。

 もし秘密結社と戦うほうがメインなら、いきなり秘密結社との戦いのワンシーンを出してから、学園生活を描きましょう。

 これから始まるのは学園生活がメインの小説なのか、秘密結社と戦うことがメインの小説なのかを読み手に知らせることができます。それだけでなく、締め方として学園生活で終わらせるのか、秘密結社との戦いの終わりが物語の終わりになるのかも決められます。

 それだけ冒頭から「主人公」を立てることが必要なのです。


 夏目漱石氏『坊っちゃん』のように「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりして居る。」と書いても、読み手は主人公の性格を正しく理解できません。

 なぜ夏目漱石氏がよくて私たちがダメなのか。

 それは夏目漱石氏が「言文一致体」を模索していた時期の書き手であり、どのような書き方が最も「伝わる」のかまで、文壇や読み手の誰しも考えが及ばなかったからです。

 でも今なら明確に「この書き方は間違えている」と説明できます。

「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりして居る。」は抽象度の高い「形容詞」と同じなのです。

 今はまず主人公を出し、「事件」「出来事」を起こしてそれに立ち向かう姿を見せるのです。そして「無鉄砲な性格をしているな」ということを読み手にわからせます。「解決」したときに「いつも損ばかりしているんだな」と察することができるようにするのです。そのほうが「親譲りの無鉄砲で〜」と書くよりも格段に読み手の頭で映像が明瞭となります。


「謎」「事件」は今回「主人公」が取り組むべき問題を示すのです。ここでうまく読み手に期待感を抱かせられなければ、その場でその小説は読むのをやめられてしまいます。

「主人公」の能力をわずかに上回るような絶妙な「謎」「事件」を用意するのです。そしてギリギリまで追い込まれながらも、最後には逆転の一手を放ち、華麗に逆転解決します。そうすることで「主人公」は着実にレベルアップしていくのです。


「アプローチ」「理屈」「答え」は「謎」「事件」を解決する手順を明かすことです。

「アプローチ」で「謎」「事件」にどういった形でかかわっていくのかを示します。

 犯人にべったりと寄り添って推理を披露して追い詰めていくアメリカドラマ、ピーター・フォーク氏主演『刑事コロンボ』のようなスタイルか、サー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』のように、捜査が進むごとに真犯人へと近づいていくスタイルか。それだけでも物語の展開には差が生じます。

「理屈」は「トリックを見破るための理屈」です。「あのとき野球中継を見ていました」「その時間は特急電車に乗っていました」という「アリバイ・トリック」をいかに崩すか。それが推理の「理屈」です。

「答え」は推理の「理屈」によって得た「謎解き」を披露することです。「主人公」の前に立ちはだかる「謎」「事件」に対してどういったアプローチをして理屈を見つけ出して、相手に叩きつけます。そうして「謎」「事件」を「解決」するのが「答え」なのです。

 しかし必ず「解決」する必要はありません。今回は「気づく」だけにして次回や特定回でまとめて「解決」させれば、読み手はすっきりとした爽快感を味わうことができます。


「惹き」は次回以降へ読み手の興味を引っ張ることです。通常は「主人公」が「謎」「事件」を経て成長し、あることに気づくことが次回への「惹き」になります。「謎」「事件」の真相かもしれませんし、その一端かもしれません。

 今回の「答え」を出さずに終われば、それが「惹き」の働きをしてくれます。

 長編連載なら、物語の柱となるべき「謎」「事件」に触れたり進行したりするのです。「話が進んでいる」と感じて「次回以降でどこまで進むのかな」と「惹き」が強くなります。


 長編小説の場合は「主謎解結」です。

「惹き」はあくまで連載小説に向けたもの。長編小説は三百枚で物語を完結させる必要があります。「惹き」を入れても意味がないのです。「小説賞・新人賞」を狙うとき、「惹き」を使って続きが気になるよりも、「結」できっちりお話が終わったほうが評価は高まります。




推理小説の四部構成

 推理小説では、よく「まず死体を転がせ」と言われます。これは「謎」を真っ先に持ってきて読み手を惹きつけろという意味です。この場合は「謎主解結」の四部構成になります。

 かといって「主人公」の魅力が弱くてもよいわけではありません。

「謎」に匹敵するほど、いえ「謎」を食ってしまうほどクセのある「主人公」でなければ、読み手に強いインパクトを残せないのです。

 だから「謎」スタートの推理小説であっても、可能なかぎり早く「主人公」を登場させて「謎」と向き合わせなければなりません。そうして「解」を得るために奔走させるのです。

 推理小説はその他の小説と比べて、構造が異なります。それを好む人もありますし、嫌う人もいるのです。私はちょっと嫌いかな。





最後に

 今回は「物語は四部で構成する」ことについて述べました。

 連載小説は「主謎解惹」、長編小説は「主謎解結」、推理小説は「謎主解結」が基本です。

「起承転結」は「始まって」「盛り上げて」「意外なことを起こして」「終わる」という形で、これに沿って小説を書くとワンパターンな小説を乱発することになります。

 しかし「主謎解結」なら「主人公登場」「出来事が立ちふさがる」「知恵を使って出来事を解決する」「終わる」という形になります。「出来事」のバリエーションだけ物語の形を増やすことができるのです。



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