560.明察篇:擬声語は極力使わない

 今回は「擬声語」についてです。

 副詞には擬声語(擬音語)と擬態語があります。

 擬声語は完全に排除しないと「小説賞・新人賞」の選考では不利です。

 擬態語はそこまで厳しくはないのですが、使いすぎると目立ってしまいます。

 他の副詞は状況によりけりとされています。





擬声語は極力使わない


 日本語の特徴に豊富なオノマトペがあります。

 大きく擬声語(擬音語)と擬態語に分けられます。




擬態語・擬声語は副詞

 擬態語は「にやにや笑う」の「にやにや」、「うろうろ歩きまわる」の「うろうろ」、「じわじわ染み込んでいく」の「じわじわ」、「てきぱきと仕事をこなす」の「てきぱき」など、音声ではなく動詞の状態を表す副詞です。

 擬声語は「コケコッコーと鳴く」「ざわざわする」「がやがやと人が集まる」「ワンワンと吠える」、「鐘をカンカンと打ち鳴らす」など、動詞に声や音を引用する副詞となります。

 副詞の中でも擬態語と擬声語はできるだけ小説で書かないようにしましょう。

「ふと思いついた」の「ふと」、「ついに買った」の「ついに」、「しばらく帰ってこない」の「しばらく」、「すぐに戻る」の「すぐに」のように動詞にニュアンスを付加する類いの副詞は、使わないと文章がまず書けません。

「しばらく帰ってこない」を「三年は帰ってこない」と具体的な数値を出して書くこともできます。でもそこまで細かな数字をいちいち書くのもたいへんですし、読み手としても憶えなければならない数字が増えるだけです。

「最も」「いちばん」「かなり」などの程度のニュアンスを用いれば、読み手が憶えるべき数字を減らせます。




擬声語は禁止

 擬声語(擬音語)は「音や声」をそのまま地の文で書くために使う副詞です。

 これらは軒並み省いてしまいましょう。

「コケコッコーと鳴く」「ワンワンと吠える」と書かずに鶏や犬の鳴き声を表現する方法なんてないだろう。

「鐘をカンカンと打ち鳴らす」「彼女の交際報道にガーンとなった」も他に書き方なんてあるか。

 そうお思いかもしれませんが、書き言葉としては「鶏が鳴く」「犬が吠える」「鐘を打ち鳴らす」「彼女の交際報道に衝撃を受けた」でじゅうぶんなのです。

「鶏が鳴く」ときに「コケコッコー」と鳴かない鶏が書きたい。「ワンワン」と吠えない犬が書きたい。「カンカン」と鳴らない鐘が書きたい。そのような場合はどんな鳴き声か音かを書かなければ伝わらないと思いがちです。

 そんなときは「鶏がけたたましく鳴き立てる」「犬が愛らしく吠える」「鐘を激しく打ち鳴らす」など程度を表す修飾語を用いましょう。

 修飾語は主に形容詞、形容動詞が担いますが、比喩として他の動詞を用いることもあります。


 これではどんな鳴き方なのかを読み手へ明確に伝えられない。あなたはきっとそう思うはずです。

 それは地の文での書き分けなんてできはしないという書き手の「降参」の表れと受け取られます。

 とくに「小説賞・新人賞」を選考する方々は、擬声語による描写の「降参」を見たら、容赦なくその作品を落とすのです。

 たかが擬声語ひとつ。

 その「たかが」が捨てられない書き手に支持は集まりません。


「文豪」作品には擬声語がたくさん使われているじゃないか。なんで私が擬声語を書いちゃいけないんだ。

 そうお思いの方もいらっしゃいますよね。

 たびたび述べてきましたが、「文豪」が活躍したのは「言文一致体」が模索されていた時代です。

 現代のような洗練された文章など誰も書いてはいませんでした。

 比喩や修飾語を用いて「音や声」を表したのも数例でしょう。

 現代では「音や声」はそのまま書かずに、比喩や修飾語で程度を表します。

「コケコッコー」「ワンワン」「ニャーン」なんて地の文で書いたら、その場で評価の俎上から降ろされるのです。

 でも鳴き声にこそ愛嬌があるんだよな、と考えれば「会話文」として書く裏技があります。

「ニャーン」と愛くるしい声をあげながら愛猫が近寄ってきた。

 こう書けばギリギリ鳴き声を文章に書くことができます。

 でも評価は幾分か下がるのを覚悟してください。

 それくらい擬声語は文章の評価を下げてしまうのです。

 擬声語を使わずに、比喩や修飾語で表す工夫をすることで、文章力は確実に上がります。




擬態語はほどほどに

 擬態語は「音や声」ではない、状態や様子の程度を表す副詞のことです。

「きゅうりの浅漬けがしんなりする」「だらだら寝て過ごす」「めまいでふらふらする」「思わずにやにやする」「近場をうろうろする」「じわじわ染み込む」「木馬をころりとする」「てきぱき片づける」「きらきら光る」「すらすら読み上げる」「じろじろ見るなよ」「こっそり忍び込む」「つるつる滑る」「つやつや輝く自動車」「べたべたくっつく」など、音が発せられていない状態や様子にいかにも音声にたとえて表した語が擬態語です。

 こちらは「音や声」ではないので、それらを直接書かない擬態語は許容範囲内とされています。

 かといって擬態語だらけの小説は、せっかく擬声語を減らしたのに陳腐化・幼稚化してしまうのです。

 擬態語の使用もほどほどにしてください。

 対策は擬声語と同様、比喩や修飾語に置き換えます。

「だらだら寝て過ごす」なら「なにもする気が起きずいつまでも横になったまま寝て過ごす」と書けないかを考えるのです。

 うまく表現できるようになれば、あなたの文章力は確実にアップしますよ。




他の副詞

 擬声語・擬態語とは異なる副詞もあります。

「しばらくお待ちください」「少し下がりなさい」「ちょっと辛抱してね」は「どれだけ」という程度がわかりません。「一分お待ちください」なのか「一時間お待ちください」なのか「明日までお待ちください」なのか。「しばらく」の一語ではわからないのです。

 国語学者や文壇のお偉いさんは「しばらく」「少し」「ちょっと」を嫌って、「実際にあとどのくらい待てばいいのか」具体的に示すよう求めています。

 私はそれに「待った」をかけたい。

 読み手にとって「実際にあとどのくらい待てばいいのか」を具体的に示すことは確かにたいせつです。

「確実にその時間待てばいい」ものでしょうか。確定できない状況も多々あります。

 台風の影響で鉄道が運休してしまったとき、「確実にあと何時間待てばいい」のか判断できるものですか。台風の進路次第であり、予測することなんてできませんよね。

 そのようなときは「数時間お待ちください」と濁す方法もありますが、一般的なのはやはり「しばらくお待ちください」ではないでしょうか。


 数字を意識させないことで、読み手の憶えるべき数字が減る効果もあります。

 読み手は小説内に出てくる数字や用語を読みながら憶えていくものです。

 憶えなければならない数字や用語が減れば、それだけ読み手の記憶力にやさしい文章が書けます。


「リニアモーターカーは地上で最も速い商業車両だ」「いちばん高い山は富士山だ」のように「最も」「いちばん」などの程度を表す副詞は置き換えが利きませんので、そのまま用いるようにしてください。

 ただし「いちばん最初のボールを打つ」のように同じ意味の副詞を用いることは「二重表現」であるためやめましょう。

 「いちばん」と「最初」はともに「すべての始まり」を意味しており、「初めのボールを打つ」か「最初のボールを打つ」か選んでください。





最後に

 今回は「擬声語は極力使わない」ことについて述べてみました。

 擬声語の多用は、文章が幼稚に感じられます。

 可能なかぎり比喩や修飾語に置き換えていきましょう。

 擬態語は擬声語ほどではありませんが、こちらも見境なく用いると文章が幼稚に感じられます。

 こちらも比喩や修飾語に置き換えられないか考えてください。

 擬声語は完全に排除し、擬態語はできるだけ排除してみる。

 その他の副詞は数字だらけの文章に陥るのを防ぐ役割があります。

 その数字が憶えるに足る意義があるならいいのですが、たいていはその場限りでしか用いられません。

 そんな数字は副詞であいまいに表してもかまいません。

 だから副詞は排除義務ではなく、排除方針なのです。



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