457.発想篇:想定される読み手層を変えてみる

 今回は「読み手層を変えてみる」ことについてです。

 小説投稿サイトやジャンルによって想定される読み手層が異なります。

 いつも同じような小説を書いている方は、たまには異なる読み手層にアクセスしてはいかがでしょうか。





想定される読み手層を変えてみる


『小説家になろう』は現在読み手層の高齢化が進んでいます。

 老舗で最大手の小説投稿サイトであるため、初期から登録している読み手さんが相応に年をとっているからです。

 だからアラサー世代、アラフォー世代の比率が高まっています。

『ピクシブ文芸』の主要な読み手層は成人女性です。

 元になっているイラストSNS『pixiv』のユーザー比率は男女ほぼ五分五分だといわれています。

 ですが小説に限っては二次創作を含めて女性がよく読んでいるのです。

 二次創作を見ても女性向けは男性向けより一桁上なほど読まれています。

 そう言われると、想定される読み手層をアラサー世代、アラフォー世代にしてみたり、成人女性にしてみたりしたくなるでしょう。

 そのほうが読まれそうですし、ランキングで上位に行けそうですしね。




異世界転生全盛が過ぎた現状

 とくに『小説家になろう』では今「異世界転生ファンタジー」が全盛期を終えています。

「異世界転生」は「人生のやり直し」を意味します。

 つまり「現状がつらい」人たちにとってピタリとフィットする「テンプレート」なのです。

 インターネットで小説を無料で読んでいるのは、主に中高生だとされています。

 中高生が「現状がつらい」と思うものでしょうか。

「現状がつらい」と思うとしたら「受験に落ちた」「学業不振」「友達ができない」「イジメられている」といったところでしょうか。

 しかし中高生は、人生でまだ逆転可能な年頃です。

 実際問題「異世界転生」の「人生のやり直し」が必要な年頃はアラサー世代、アラフォー世代だと思います。

 会社に入って十年以上経ち、あまり昇進もできず、転職を考えているけど今のスキルで今よりよい転職先が見つかるだろうかと考える頃です。

 アラサー世代、アラフォー世代の読み手が比較的多い『小説家になろう』だからこそ、「異世界転生」はランキングの上位に食い込みます。

 ここでは『小説家になろう』の立ち上げ初期から読んでいるアラサー世代、アラフォー世代を「スターター世代」と呼ぶことにします。




スターター世代に響く追放と最強

『小説家になろう』は「スターター世代」にどれだけウケるかでランキングが決まるといってよいでしょう。

 たとえば「ハイファンタジー」ジャンルにおいて、現在の日間ランキング上位を占めるキーワードは「R15」「残酷な描写あり」「主人公最強」「チート」「ハーレム」「ざまぁ」「覚醒」「スローライフ」であり、タイトルを見ると「追放」と「最強」が入っています。

 とくに「追放」と「主人公最強」の組み合わせが多いのが特徴です。

「異世界転生」が上位を独占していた時期は過ぎ、「追放」と「主人公最強」の組み合わせがトップを張るようになりました。

 これはハイファンタジーの「小説賞・新人賞」における「異世界転生」禁止の流れによるものだとされています。

 つまり「人生のやり直し」を「異世界転生」の形で書けなくなったのです。

 そこで「冒険者パーティー」から「追放」されたんだけど、実は「主人公最強」だったという「やり直し」パターンが定着したのでしょう。

「スターター世代」の「人生のやり直し」願望が、結果的に「追放」&「主人公最強」の組み合わせだらけのランキングを生んでいるのです。

 中高生からすると「追放」は「イジメ」による疎外感であり、だけど「主人公最強」だったことにより「自分は悪くない」という自我の表れと見ることもできます。

「スターター世代」と中高生が共感できる「テンプレート」が、現在は「追放」と「主人公最強」なのです。

 もし「追放」が使えなくなったら、この先なにが流行ると思いますか。

 私はおそらく「引退」が流行ると見ています。

 現在でも「引退」した「元勇者」による「スローライフ」生活を題材にした作品が上位にいくつか上がってきているのです。

 他人から「追放」されるのと、自ら「引退」したのと。

 方向性は異なりますが、「実は最強でした」というパターンは踏襲できます。

 でも「引退」となれば主人公は「おっさん」「お爺さん」ということになりますから、「スターター世代」には響いても、中高生にはとっつきにくくなりそうです。




読み手層を変化させる

 現在ハイファンタジーの主流は「追放」と「主人公最強」の組み合わせです。

 ですがいずれ潮目は変わります。

 そのとき、現在ランキング上位にいる作品と読み手層が異なる作品に大きなチャンスが転がり込んでくるのです。

 それがいつ訪れるかは誰にもわかりません。しかし、変わるときが必ずやってきます。

 そのときのために、ランキング上位の作品とは「読み手層を変えて」ください。

 つまり「異世界転生」でもなく「追放」と「主人公最強」の組み合わせでもない、別の「テンプレート」を探しておくのです。

 日間ランキングを定点観測していると、だいたいどんな「テンプレート」が流行りだしているのかを見極めることができます。

 現在は「追放」と「主人公最強」の組み合わせですが、ある時点から「これから流行りそうなテンプレート」へと物語を変化させるのです。

 これにより「これから流行りそうなテンプレート」を読んだことのない読み手に読ませることができます。

「追放」と「主人公最強」の組み合わせをよく読む読み手層を「これから流行りそうなテンプレート」へと導くのです。

 そうすれば「これから流行りそうなテンプレート」の既存作品と読み手層に変化をつけることができます。

 生物の歴史を振り返っても、過渡期にうまく適応して変化できた種族だけが新世代へ生き残れました。

 小説の過渡期もいつ起こるかわかりませんが、それに適応できない書き手は、転換点で滅ぶか沈むしかないのです。

 意図的に「読み手層を変化させる」ことで、いつ過渡期となっても生き残れるように手を講じておきましょう。





最後に

 今回は「想定される読み手層を変えてみる」ことについて述べてみました。

 小説投稿サイトには必ず「流行り」があります。

 最も無難な人気のとり方は「今流行っているテンプレートを用いて書く」ことです。

 しかしそれでは他人より上に行くことができません。

 他人より上に行くためには「流行りのテンプレートで想定される読み手層を変えてみる」ことです。

 それにより過渡期をうまく乗り越えられた書き手だけが、次世代へ生き残れます。

 ちょっとした発想法ですが、生存戦略としてはきわめてまっとうなやり方です。

 とくに連載している書き手は、いつでも別のテンプレートへ移行できるよう「伏線」を計算して張り巡らせておきましょう。

 転換点に乗り後れたらランキングから消えていくしかなくなるのです。

 生存戦略として「読み手層」をつねに意識しておくべきでしょう。



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