458.発想篇:異性の好む作品を書く

 今回はあえて「異性の好む作品を書く」ことについてです。

 今はハイファンタジーが流行りですが、その中に恋愛ものを内包できないかを考えてください。

 バトルアクション一辺倒だった『週刊少年ジャンプ』には、いくつも「恋愛もの」の名作がありました。





異性の好む作品を書く


 小説投稿サイトはそれぞれに主要な読み手層が異なります。

 アラサー・アラフォー世代の男性層が厚い最大手の『小説家になろう』、女性向け恋愛小説に強い老舗の『エブリスタ』、中高生向けライトノベルに強いKADOKAWA共営の『カクヨム』、女性向け恋愛小説が比較的強い『ピクシブ文芸』。

 このうち『エブリスタ』と『ピクシブ文芸』は主要層がかぶるため、片方に投稿したらもう片方にも二重投稿しておくべきでしょう。

 男性が多い『小説家になろう』において、恋愛小説を書いても反応は鈍いと思います。

 だからといって「男性向け恋愛小説」というジャンルを放棄するのはあまりにももったいない。

 では『小説家になろう』で「男性向け恋愛小説」を読ませるにはなにが必要でしょうか。




きまぐれオレンジ☆ロード

 1980年代の『週刊少年ジャンプ』は、武論尊氏&原哲夫氏『北斗の拳』や車田正美氏『聖闘士星矢』のようなバトルアクションものが人気をさらっていました。

 そんな中ひとつの作品が話題を集めます。

 まつもと泉氏『きまぐれオレンジ☆ロード』です。

 主人公の春日恭介は超能力一族のひとりで、恭介も当然超能力が使えます。

 しかしそれ以外はWヒロインの鮎川まどか、檜山ひかるとの人間関係に焦点が当たっている。

 つまり『きまぐれオレンジ☆ロード』は「恋愛もの」なのです。

 バトルアクションものが流行っている『週刊少年ジャンプ』において「恋愛もの」を連載する。

 その戦略はズバリと当たり『きまぐれオレンジ☆ロード』を読むために、女性が『週刊少年ジャンプ』を購入する口実を作りました。

 それを契機に各作品にも女性読者が流れてきて、その人気がさらに沸騰する事態も発生しました。

 とくに『聖闘士星矢』は女性ファンをおおいに取り込んで、女性ウケする作品へと進化していったのです。

『週刊少年ジャンプ』の転換点を作った『きまぐれオレンジ☆ロード』は、当然男性読者をも魅了していきます。

 ミステリアスな同級生の鮎川まどかと、猛烈にアタックしてくる下級生の檜山ひかるの魅力が、普段「恋愛もの」を読まない男性の心を鷲掴みにしたのです。

 同作はテレビアニメ化もされ、OVAや劇場版も作られるほどの人気を博すようになります。

 本作が男性に「恋愛もの」を読ませるきっかけを作りました。

『きまぐれオレンジ☆ロード』以降、『週刊少年ジャンプ』の掲載作には「恋愛もの」がひとつは入ることになります。




I”sアイズ

『週刊少年ジャンプ』で、ほったゆみ氏&小畑健氏『ヒカルの碁』が空前の「囲碁ブーム」を巻き起こす中、ひとつの「恋愛もの」が生まれました。

 桂正和氏『I”sアイズ』です。

 桂正和氏は初めての連載である『ウイングマン』の頃から「ヒーローアクション」と「女の子のお尻とパンツ」を描くことがうまいと定評がありました。

 しかし『I”sアイズ』は「純愛」がテーマの「恋愛もの」です。

 彼のマンガにはたいてい「恋愛要素」が含まれており、「ヒーローアクション」の中にも「恋愛要素」は欠かさず入っていました。

『ウイングマン』も異世界人のアオイと同級生の小川美紅のツートップに、森本桃子を加えて主人公・広野健太がリメルやライエルと戦いながら「恋愛要素」を追うことになります。

 そんな桂正和氏も『週刊少年ジャンプ』の長期連載で「純愛」をテーマにした作品は『I”sアイズ』が最初で最後でした。

 基本的に主人公の瀬戸一貴はヒロインの葦月伊織にアタックしようとするものの、過去のトラウマから「逆走くん」が発動して伊織と距離をとろうとしてしまいます。

 なかなか素直に気持ちを伝えられない一貴のもとへ幼馴染みの秋葉いつきが現れて、一貴に猛アタックを開始します。

 このあたりは以前のコラムでお話していますので、以降は割愛いたします。


I”sアイズ』が連載されていた頃は、尾田栄一郎氏『ONE PIECE』が人気を集めるようになり、『NARUTO -ナルト-』が連載を始めるなど「バトルアクションもの」が人気を集めている時期でもあります。

 これは1980年代の『きまぐれオレンジ☆ロード』が人気を博した状況と酷似しているのです。

 そんな中で『ヒカルの碁』と『I”sアイズ』が『週刊少年ジャンプ』において女性人気を支えることとなります。

 結果として同時期に連載されていた『ONE PIECE』や『NARUTO -ナルト-』にも多くの女性ファンが付く契機となり、両作とも長期連載となったのです。




異性の好む作品を書く

 このように男子向けマンガ誌である『週刊少年ジャンプ』には「女性向け恋愛マンガ」が定期的に連載されるようになりました。

 もちろんそれらの作品も男性へのアピールを忘れず、桂正和氏は「お尻やパンツを描かせたら右に出る者はいない」くらいの存在感を放っていたのです。

「女性向け恋愛もの」を男性にも受け入れられるように仕立て上げれば、両性から支持される作品となって大当たりすることは、『きまぐれオレンジ☆ロード』『I”sアイズ』を見てもわかると思います。

 アニメ映画ですが新海誠氏『君の名は。』も、「女性向け恋愛もの」を男性にも受け入れられるように仕立て上げた作品です。

 こちらも興行収入で邦画第二位の大ヒットを記録しましたよね。

 今の小説投稿サイトに足りていないのは、案外「男性にも受け入れられる恋愛もの」なのではないでしょうか。

 それを「ハーレム」で埋めようとする書き手が多いのですが、「純愛」に振ったほうが人気は得やすいはずです。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』も、主人公のキリトと、血盟騎士団副団長であるアスナとの「純愛」を描いて成功した作品と言えます。

 弓弦イズル氏『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』のような「ハーレム」ものはいっとき人気を博しますが、あとがなかなか続きません。

 いちおう「本命」がいるのですが、女性がたくさん出すぎていて「本命」の存在感が薄いのが弱点だと思います。

『ソードアート・オンライン』のように連載をするうえでは、「純愛」ものに振ったほうが長続きするのです。


 アニメの『けいおん!』『THE IDOL M@STER』『ラブライブ!』シリーズは、主人公といえる人物をひとりキャラ立てして、そのうえで他の女の子のエピソードをかぶせてくる形をとっています。

 男性人気を得るためには「純愛」であったり、「ハーレム」の中の「本命」であったりをしっかりと確立すべきです。

 攻略相手がはっきりと読み手に見えている作品は、そのわかりやすさから多くの支持を受けます。





最後に

 今回は「異性の好む作品を書く」ことについて述べてみました。

 主に「女性向け」の作品を「男性にも受け入れられるように手直し」することが多いのです。

 それによって読み手層に「女性」が入ることになります。

 世の中は男性と女性がほぼ半数ずつ存在するのです。

「女性」を取り込めれば単純に読み手が二倍になります。

 ですが「男性」に受け入れられなければ単なる「女性向け」となってしまうのです。

 だから「女性向け」の作品を「男性にも受け入れられるように手直し」する必要があります。

 両性から支持されれば、人気は他の追随を許しません。

 盤石な人気を得るためにも「異性の好む作品を書く」発想法を用いてみませんか。



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