437.深化篇:ありえない夢を届ける
今回は「夢を届ける」ことについてです。
小説は読み手に「夢を届け」ます。
アニメ・藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』の主題歌の歌詞を憶えていますか。
ありえない夢を届ける
小説とは、極論を言えば「ありえない夢のような話を読み手に届ける」ためのツールです。
現実には起こらないようなことを、さも起こったかのごとく書く。
これは小説などの創作物でなくてはできません。
新聞や論文に「現実には起こらないようなことを、さも起こったかのごとく書く」とどうなるか。
『虚構新聞』なら日常的ですが、大手新聞社がこんなことをやったら謝罪と訂正に追われることになります。
昔、朝日新聞の記者がサンゴ礁に自ら文字を書いて撮影し、ダイビングする人のモラルを問う記事を書いたことがありました。このときはすぐにウソが発覚して朝日新聞社は謝罪と訂正を余儀なくされたのです。
論文なら「論文にウソを書くんじゃない」と教授から怒られますよね。
記憶に新しいのは小保方晴子氏によるコピー・アンド・ペースト論文「STAP細胞論文」でしょうか。しかし小保方氏は今でも「STAP細胞はある」と主張しています。本当に「ある」のか、それとも「ない」と認めるのはプライドが許さないのか。これは医学生理学分野の検証が待たれるところです。
あんなこといいな
「あんなこといいな、できたらいいな」とはアニメ『ドラえもん』のテーマ曲の一節ですが、小説とは「あんなこといいな、できたらいいな」という物語が綴られています。
だから「チート」だとか「元勇者」だとか「スローライフ」だとか「悪役令嬢」だとかいった要素を持つ小説が世にはびこるのです。
それが悪いとは言いません。
読み手が読みたいものを端的に表しているからです。
それによって読み手は「タイトル」や「キーワード」「タグ」にそういったものを求めます。
『ドラえもん』の歌詞の続きは「あんなゆめ こんなゆめ いっぱいあるけど みんなみんなみんな かなえてくれる」です。
読み手は「あんなこといいな」と思っていることを「かなえてくれる」小説を読みたいと思っています。
これは創作物全般に言えることです。
『ドラえもん』ならアニメでしょうし、原作マンガでしょう。
他にもドラマや映画、そしてもちろん小説にも「あんなこといいな」を「かなえてくれる」物語が求められています。
あなたの小説には読み手が「かなえてほしい」と思っている「あんなこと」が書かれているでしょうか。
もしなければ、それは小説という皮をかぶった雑記です。雑記を読んでも「はい、そうですか」で感想は終わり。次の投稿を読んでくれることもありません。
これは連載小説では致命的です。
まず読み手が「かなえてほしい」と思っている「あんなこと」をリサーチしましょう。
勉強に疲れて息抜きに小説を読みたくなる。なかなかいませんよね。
読むとすれば「安らぎ」を感じさせる物語でしょう。
もし「異能力バトル」で主人公がピンチに陥ったとして、受験生が読むでしょうか。
主人公が勝って初めて「安らぎ」が得られます。勝てばいいのです。
でも小説はストーリー展開を重視して、ある場面で負けることも必要です。
負けたことで受験生は楽しく小説を読めるものでしょうか。
自分も受験戦争に負けるのではないか、という不安と向き合わなければなりません。それでは意味がないのです。
どんなに不安な状況でも勝ち抜かなければ、受験生の息抜きになりません。
そんな受験生のためを思うのであれば、「キーワード」「タグ」に「ハッピーエンド」という単語を加えてください。
「ハッピーエンド」が前もってわかっていると、受験生は心置きなくあなたの作品を読みことができます。
「あんなこといいな」を「かなえてくれる」物語だから、読み手は読むのです。
なにもかなえてくれない物語は救いがありません。
読み手は小説に「現実逃避」や「感情移入」が盛り込まれていることを願っています。
小説に求められるのは夢
読み手から小説に求められるのは夢、今までの言い方だと「ワクワク」です。
「自分より強い存在に勝ちたい」「この人と付き合いたい、できれば結婚したい」「生きて家族の元へ帰りたい」「障害となる存在を乗り越えたい」といったものになります。
「自分より強い存在に勝ちたい」は勇者ものかもしれませんし、スポーツものかもしれません。
「この人と付き合いたい、できれば結婚したい」は恋愛ものの目指すところですよね。
「生きて家族の元へ帰りたい」は戦争ものや冒険ものに多いと思います。
「障害となる存在を乗り越えたい」は中高生なら受験、社会人なら融通の利かない取引先になるでしょう。
このように「なにかを成し遂げたい」という強い動機が読み手の「夢」であり、「ワクワク」の源なのです。
だから小説では主人公をできるだけピンチに陥れましょう。
書き手のサディスティックな一面からではありません。
「困難に直面」させて「なにかを成し遂げたい」という強い動機を持たせることで、読み手に「このピンチを主人公はどうやって切り抜けるのかな」「自分ならこうやって解決するつもりだけど、主人公はどうだろう」と考えるようになるからです。
読み手を物語に参加させるために、あえて「困難」を用意しましょう。
「困難」を主人公がどう乗り越えていくのか。
それを読ませることが「主人公の性格や人となり」を読み手に示す方法なのです。
「彼は臆病だ」と書くのは簡単ですが、小説としてはいささか惹きが弱い。
太宰治氏『走れメロス』は「メロスは激怒した。」から始まります。
「文豪」はよくてあなたはダメなのではありません。
太宰治氏の頃はまだ「言文一致体」が確立されたばかりで、誰も正しい小説の書き方を知らなかったからです。
もし太宰治氏が今の時代に「文豪」たりえたならば、メロスは「激怒」するよりもまず「走らされて」いるでしょう。
それは「激怒する」ことが物語の根幹ではなく、そのために「走っていく」ことがメインだからです。
だから現在『走れメロス』を書くなら「メロスは脇目も振らずひたすら走った。」になる可能性があります。
その後「悪政に激怒する」旨の描写を積み重ねていくのです。
最後に
今回は「ありえない夢を届ける」ことについて述べてみました。
「あんなこといいな」を「かなえてくれる」ことが小説には求められます。
読み手に夢を見せることが小説には必要なのです。
夢はなにも「よい夢」だけではありません。
「悪夢」もまた夢です。
悪夢にうなされて汗をびっしょりかいて起きてみたら、目の前には刃物を持った男性がにやりと笑いながら刃を振り下ろそうとしている。
「悪夢」が現実に襲いかかろうとしています。
「よい夢」も「悪夢」も「かなえてくれる」のが小説なのだと言えるでしょう。
逆に言えば、「小説」を読んで「まるで夢を見ているようだ」と思えるようなストーリーが求められています。
現実味が強くて「夢を見られない」ような作品は、文学小説に任せましょう。
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