431.深化篇:伝えたつもりにならない

 今回も「伝える」ことについてです。

 一方的に「伝えよう」としても、おおかたは伝えきれません。

 そして「小説投稿サイトというゲーム」に勝つためにも、連載第一話はいくらでも改稿していいと思います。

 ただし、改稿したら必ず「あらすじ」にその旨を伝えておきましょう。

 伝えなければ騙し討ちです。





伝えたつもりにならない


 小説は書き手の自己満足に陥りやすい芸術です。

 なにせ絵画やCG、マンガにアニメ、ドラマに映画と、すべて少し観ただけで良し悪しを判断できます。

 だから少し観ただけで「自分の趣味に合うな」と感じるわけです。

 しかし小説は長編小説の場合、早くても二時間ほど時間をとられてしまいます。

 それだけの分量を書きますから「伝えたつもり」になりやすいのです。




一方的に伝えようとしない

「伝わる」ように「伝える」ことの重要性はわかるのだけど、どう「伝えればいいのか」がわからない。

 そういう書き手が多いと思います。

 大前提として、書き手が「伝えたい」ことを書き手が一方的に読み手に「伝えよう」としないでください。

 そういう文章は、「伝える」相手である読み手が置き去りになってしまい、結局「伝わらない」のです。

 あなたの小説のブックマーク数や評価が低いのは、「伝えたい」ことが「伝わっていない」からかもしれません。

「伝えた」つもりになっていて、相手に「伝わっていない」わけですから、意思疎通がとれていないのです。

――――――――

 私は右腕を頭上に掲げながら呪文を唱え始めた。

「万物の根源たるマナよ。破壊の〈力〉となりて敵を討ち滅ぼせ」

 右腕に、光をまとった〈力〉が集束してくるのが感じられる。

 抑えきれるギリギリまで〈力〉を溜め、頃合いを見て右腕を前方に振り出して、輝く〈力〉の球を前方の敵軍に向けて投げつけた。

「エナジー・ボール!!」

 右腕から飛び立った〈力〉の塊が敵集団の中心部で炸裂し、轟音が鳴りわたった。

〈力〉が周囲の空間を削りとり、敵集団の中心部にポッカリと穴があく。

 その様子を見た敵集団はすぐに戦意を喪失し、パニックに陥って散り散りになって逃げていった。

――――――――

 魔法「エナジー・ボール」の特徴と破壊力を示すための小さな「出来事イベント」です。

 書き手からすれば「伝わっただろう」という魔法描写ですが、読み手になってみると「なにかよくわからない」のではないでしょうか。

 これが「伝えたつもり」です。

 あなたが「伝わっただろう」と判断しても、実際には「伝わっていない」ことがよくあります。

 その差をまず知るべきです。

――――――――

 私は右腕を振り上げ、頭上に掲げながら呪文を唱え始める。

「万物の根源たるマナよ。破壊の〈力〉となりて敵を討ち滅ぼせ」

 右拳に、光をまとった暴力的な〈力〉が集束してくるのが感じられる。

 意志で抑えきれるギリギリまで〈力〉を溜めこんだ。

 敵集団を効果的に屠れるだけの強さを感じとり、奴らの密集度合いを見計らう。

 今が頃合いと見て、高らかに呪文名を宣言し発動した。

「エナジー・ボール!!」

 頭上で輝く右拳に宿る〈力〉の球を前方に振り出し、敵集団に向けて投げつけた。

 右腕から飛び立った光り輝く〈力〉の塊が、敵集団の中心部に飛び込んだ途端に炸裂し、あたりがまぶしいきらめきに包まれると同時に轟音が響きわたる。

 光が収まると〈力〉の炸裂した周囲の空間が根こそぎ削りとられている。敵集団の中心部にポッカリと直径十メートルほどの穴があいたのだ。

 その様子を見た敵集団はあっけにとられていたが、すぐに戦意を喪失してパニックに陥り、散り散りになって逃げ去った。

――――――――

 これで「伝わる」レベルはひとつ上がったと思います。

 このような要領で「足りない描写」はないか「詳しく書いたほうがよい描写」はないか「削ったほうがよい描写」はないかを見つけて修正していくのです。

 この過程を経ることで、その都度「伝わる」レベルはひとつ上がります。

 先ほどの描写が「一を聞いて八を知る」人向けだとすれば、今回は「一を聞いて五を知る」人向けくらいではないでしょうか。




連載第一話は改稿してもよい

 連載小説の場合、とくに第一話の出来が良くなければ、閲覧数(PV)は上がれど、ブックマーク数も評価も付かないものなのです。

 だから、連載第一話は納得がいくまで改稿し続けることも必要になります。

 ただし内容そのものを変えてはなりません。

 あくまでも「伝えよう」としているものが読み手に正しく「伝わる」よう、表現を改めるのです。

 すでにあなたの小説の連載第一話を読んだ人には見限られているかもしれませんが、これからあなたの小説に触れる人もいます。

 その人たちのために、できるだけ連載第一話で書き手が「伝えたい」ことを読み手に正しく「伝わる」ように書き改めるべきです。

 これで出後れは取り戻せます。

 知名度ネームバリューの無い書き手であれば、連載十話目でブックマークが十個付くかどうかを目安にするとよいかもしれません。

 付かないようなら第一話を改稿してください。




相手を想定して書く

 小説を書く場合は、まず「相手」を想定して書くべきです。

 小説を読むのはどんな人物なのか。

 それを想定していなければ、小説を書いてはなりません。

 書いても途方に暮れるだけです。

 ターゲットを絞って、その人たちに読んでほしいというメッセージを出し続けます。

 では小説の主要層とはどの年代でしょうか。

 主に「中高生」と「主婦」と「会社員」と「年配者」です。

 この中からターゲットをひとつに絞りましょう。

 「中高生」ならライトノベル、「主婦」ならハーレクイン・ロマンス、「会社員」なら成人向け、「年配者」なら腰を据えた文学小説といった具合です。

 これで読み手の主要層が決定しました。


 次は、読み手があなたの小説に何を求めているのかを知ることです。

 それが「伝える」際に最もたいせつなことになります。




伝えようとしているものの底が浅い

 読み手からブックマークや評価がもらえないのは、書き手の「伝えよう」としているものの底が浅いからかもしれません。または深すぎるからかもしれません。

「平凡な日常が一番だ」というテーマを「伝えよう」としているとします。

 それを表面だけとって「平々凡々な暮らし」を延々と書き連ねているようでは底が浅いのです。

「波瀾万丈な出来事を経て、ようやく勝ち取った平凡な日常はなによりも心が落ち着く」ものだと主人公が悟るような作品こそ、「平凡な日常が一番だ」というテーマを最も効果的に表現できます。

 底の浅いテーマであっても、起伏を富ませれば読み手を惹きつけるのです。

 なにも「戦争」や「死」をテーマにして底を思い切り深くする必要はありません。

 もちろんそういった小説を書いてもいいのです。

「戦争」や「死」は命にかかわることなので、読み手の興味を強く惹きます。

 でも「朗らかな戦争」や「穏やかな死」というものもある。

 深いテーマであっても浅くする余地はあるのです。





最後に

 今回は「伝えたつもりにならない」ことについて述べました。

 書き手が一方的に書こうとせず、相手を想定して書きましょう。

 ブックマーク数や評価を得るためには、連載第一話は何度でも改稿してかまいません。ただし内容は変えないことです。

「伝えよう」としているものが「伝わっていない」ようなら、「伝わる」ように表現を改めましょう。

 そして「伝えよう」としているものの底が浅いこと深いこともあります。

 浅いこともですが、深すぎるのもいけません。

 物事には程度というものがあり、それ以上の不遇を読み手は受け付けないからです。


 たとえば中国古典・司馬遷氏『史記』において漢の高祖・劉邦の妻であった呂后のエピソードがあります。

 劉邦が死んだのち正室だった呂后は呂太后と称して権力を掌握するのです。

 そして劉邦の寵愛を受けていた側室・戚夫人の両手両足を斬り落とし、喉と耳を潰し、目をえぐり鼻を削いで便所に放り込んで「人豚」と称して見世物にしていました。

「天下に恐れるものなし」となった呂太后は劉氏の諸侯を暗殺しては呂氏一族を諸侯に配して権力の盤石化を図ります。そして呂太后が死んだのち、陳平や周勃ら建国の功臣がクーデターを起こして呂氏一族を誅殺し、劉氏一族による政治を取り戻しました。ここから漢による長期政権が形成されたのです。


 このエピソードはとても衝撃が強すぎて、小説で書くと「R15」「残酷な描写あり」はもちろんですが、小説投稿サイトによっては「成人指定」が必要になるかもしれません。

「伝える」ときは、どの程度まで感情を揺さぶるのかを計算して「出来事イベント」を作りましょう。

 呂太后の逸話ほどのインパクトは普通の小説には、まったく要りません。



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