416.深化篇:繰り返し読みが文章力を高める

 今回は「繰り返し読み」についてです。

「小説の書き方」がさっぱりわからない方もおられるでしょう。

 そんな方は、大好きな小説をひとつ見つけて、それを繰り返し何度でも読み返してください。

 そのうちに原稿用紙の使い方から、比喩の活用法、物語の構成に至るまで、あらゆるものが手に入ります。

 そのためには五回でも十回でも、何度でも「わかる」ようになるまで「繰り返し読み」ましょう。





繰り返し読みが文章力を高める


「手本」を選んだら、それをよく読んで頭に叩き込みましょう。

 そういうと、文章の構造や伏線の配置などを一つひとつ精読していく方が多いと思います。

 ですが、それでは「手本」からなにも学べません。

 漢字を書く練習は、上に書いてある漢字を見ながらなにも考えずに繰り返し書いていますよね。

 小説を書くのもそれと同じです。

 なにも考えずにひたすら読みましょう。




楽しんで読みましょう

 では購入した小説を「楽しみながら」読んでください。

「ここから学び取るぞ」「技術を盗んでやるぞ」と意気込まなくてもいいのです。

 読書はとにかく「楽しみながら」しましょう。

 そのほうがストレスがなくていいくらい。

 そして読み始めたらできる限り一気読みすべきです。

 どうしても区切りたいときは章単位で中断します。

 章の途中で中断してしまうと、そこまでどのような展開をしてきたかがわかりづらくなるのです。

 だからどうしても章の途中で中断したときは、その章の冒頭からもう一度読み直してください。

「楽しみながら」通読すれば、長編の小説もすぐに読み終えることができます。

 重ねて言いますが、けっして「学び取るぞ」とか「技術を盗んでやるぞ」とか余計なことは考えないこと。

 そんな気持ちで小説を読むと、肝心の「文章のテンポ」が学び取れません。

 小説を読むときは「文章のテンポ」に従ってすらすらと読み進めていればいいのです。


 なお、ここで「楽しみながら」と書きましたが、悲しい物語なら「感動しながら」でかまいません。

 読むときに感じたことをそのまま受け入れることを、あくまでも「楽しみながら」と書きました。

 悲しい物語でも「先々の展開が気になる」という点では一致します。

 なので悲しい物語はハラハラ・ドキドキしながら読むことになるはずです。




何度も繰り返し通読する

 最後まで小説が読めたと思います。

 その小説はあなたのお気に召しましたか。

 もしお気に召さなければ、納得のいく小説に出会えるまで何冊でも通読しましょう。


 ここでは気に入った小説を見つけられたことを前提に書き進めます。

 あなたが「気に入った」小説はたいへん魅力的に映り、あなたが書きたい小説の姿を体現しているはずです。

 であればその小説はあなたの「手本」となり「到達点」にもなります。

「通過点」だと思えた方は、とても向上心があっていいですね。


 では一度読んだその小説を、忘れないうちにもう一度通読してください。

「楽しみながら」のスタンスは変えずに通読するのです。

 けっして「この作品から学び取れる要素はなにか」「どんなことを盗んでやろうか」などと考える必要はありません。

 なにも考えずに二度目も一気に通読するのです。

 物語ストーリーの内容自体は初回の通読で憶えていますよね。

 だから二度目の通読では意識しなくても「文章全体」が見えてきます。

「文章のテンポ」の再確認をしながら、「文章全体」に目が行きわたるのです。

「鉄は熱いうちに打て」といいます。

 二度も通読するのは「文章全体」に目配せができるようするためなのです。


 二度読んだから分析に入ってもいいだろう。

 そう思ってはなりません。

 すぐさま三度目の通読に入ります。

「文章のテンポ」「文章全体」は頭の中に入っているはずです。

 では三度目はなにが手に入るのでしょうか。

 とくに意識しなくても「地の文と会話文の使い方」が見えてくるのです。


 三度もやれば――。まだまだ足りません。

 そもそも同じことを三回も繰り返すと「もうじゅうぶんやった気になる」ものです。

 ですが、実際には「書く技術」を得る入り口に立っただけであり、本当の意味で勉強になるのは四回目からだと思いましょう。

 そうして五回でも十回でも、同じ小説を「頭が熱いうちに読み続けて」ください。

 分析などしないで「楽しみながら」読み返し続けるのです。

 これは「般若心経」の写経のようなもので、続けることで自然と真理に触れる「魔法」のような方法といえるでしょう。

 そうすればとくに勉強することもなく、「先の展開が気になる小説」の書き方が見えてきます。

 ともすれば「その書籍の劣化コピーしか出来なくなるのでは」と考えてしまうでしょう。

 しかし自分の書いた小説では、推敲の段階において否応なく「五回でも十回でも」読み返すことになります。

 つまり「自分なりの書き方」は推敲の段階で形作られていくのです。

 複数の作品を書きあげれば、より明確に「自分なりの書き方」が身につきます。


「手本」となる小説をすたすら読み返すだけで、「自分なりの書き方」が手に入る。

 まさに「魔法」のような方法です。

 しかし弱点もあります。

 分析をしないので、細かなテクニックが身につかないのです。

 また創造力・構想力・描写力といったものも手に入りません。

 どんな手順で小説を書けばいいのかという基本がわからないのです。

 そこを補完するのが、皆様が今お読みの本「小説の書き方」コラム群ということになります。

 本「小説の書き方」コラム群を活かすためにも、「手本」とすべき小説を「五回でも十回でも」できる限り「楽しみながら読み返して」ください。

 先に全体像を明確に認識しているから、細かなテクニックが求められるようになるのです。




役者にとっての外郎売

「小説を書く」ためだけに同じ小説を「五回でも十回でも」繰り返し読むのは時間のムダのように感じられる方もいらっしゃるでしょう。

 しかし歌舞伎役者や俳優や声優など「演技のプロフェッショナル」も、同様にひとつの話を脳に刷り込まれるほど何回も繰り返して読んでいます。

 それが歌舞伎演目である『外郎売ういろううり』です。

 とにかく声に出して話すのが難しい、舌を噛みそうな文がぎっちりと詰まっています。

 滑舌の練習にはもってこいな内容であるため、多くの俳優養成所、声優養成所でプログラムに取り入れられているのです。

 素人が読むと「こんなに長い話をすべて憶えられるの?!」と驚かれるかもしれません。

 落語の前座噺である『寿限無』に出てくる名前なんて子どもが憶えるもの、くらいに長いのです。

 しかし俳優や声優は皆毎日何回も「五回でも十回でも」繰り返し練習することで、知らないうちに台本を見ず暗誦できるようになります。

「特定の作品のような小説が書きたい」と「目標」が明確なのであれば、何度でも「繰り返し読み」することは世間一般の常識として「当たり前」なことなのです。





最後に

 今回は「繰り返し読みが文章力を高める」ことについて述べてみました。

「面白い小説」が見つかったら、それを「手本」にして、何度も通読してください。

 とくに「ここから学び取るぞ」「技術を盗んでやるぞ」などと考えず、「楽しみながら一気読み」するのです。

「楽しく読む」だけでも得られるものがあります。

 それを「五回でも十回でも」繰り返し「楽しみながら読む」のです。

 そうすれば自然と小説を丸々憶えてしまうくらい、本「小説の書き方」コラム群の技術を習得できます。

 ですが細かなテクニックは身につきませんから、そこは本「小説の書き方」コラム群を参考にしてください。

「あなた独自の文体」は推敲を何度も繰り返すことで生み出されます。

「小説が書けるようになる」ためには焦ってはいけないのです。



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