406.深化篇:地の文の流れが主人公の認識した順番
皆様は小説を書く際、地の文をどのような順番に書くのでしょうか。
書き手独特の書き順があるはずですが、それによって視点を有する人物の「性格」が反映されるのです。
地の文の流れが主人公の認識した順番
皆様は地の文をどの順番に書いているのでしょうか。
とりあえず思いついた順番に書いている方もいらっしゃるはずです。
でもそれでは散漫な描写になり、文章を読んでいる読み手が疲れてしまいます。
そして一人称視点における地の文は、主人公が認識した順番に書かれていきます。
このことが理解できていないと、「どの順番で地の文を書けばいいのかわからない」という状態になるのです。
地の文で主人公の性格がわかる
地の文で、
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聞き慣れた声がしたので振り返ったら紅子が立っていた。その瞳をすっと見据える。彼女が素早く口を開いた。
「あなた、なぜさゆりを泣かせたの?」
瞳には怒りの感情がありありと浮かんでいた。紅子の顔も真っ赤になって目尻が吊り上がっている。
――――――――
と書いたらどうでしょうか。
この主人公は、相手を見るとき誰かが確認できたら「すぐに相手の瞳を見据える」性格であることがわかります。
小心者や後ろ暗いところのある人は、相手の瞳を見ながら話すことができません。
つまり「すぐに相手の瞳を見据えて」話す主人公は、性格のしっかりした人か臆するところのない人だということです。
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聞き慣れた声がしたので振り返ったら紅子が立っていた。彼女の首筋が震えている。
「あなた、なぜゆかりを泣かせたの?」
紅子の顔が真っ赤になっていて目尻が吊り上がっている。
――――――――
と書いたらどうでしょうか。
この主人公は相手の瞳を直視できない性格であることがわかります。
正直に言えば、私も「相手の瞳を直視できない」性格です。
なので私の小説では、ほとんどのシーンで主人公が相手の瞳を直視する動作は行ないません。
自分のその性格に気づいた今、新たに小説を書けば、主人公はきっと相手の瞳を直視できていることでしょう。
目で見る順番や見ない場所などにも性格は表れます。
たとえばマンガの北条司氏『CITY HUNTER』の主人公である冴羽リョウは、まず顔が美人かどうかを見るのです。そして胸・ウエスト・お尻を見ていきます。
これって明らかに変質者の目線ですよね。
つまり「リョウは変質者」と直接書かなくても、コマ割りによる視線誘導で「リョウって変質者なところがあるよね」と読み手に理解させています。
その手際が実に鮮やかで、北条司氏がいかに「目で見ること」を重視して描いているかがわかるのではないでしょうか。
地の文で主人公が認識した順番がわかる
先ほどの説明がわかれば、今回の言わんとしていることは察せられるはずです。
――――――――
草深い森の中を歩いていると、目の前に洞穴が見えてきた。
あたりを見渡してみるが、何者かが潜んでいるような気配はしない。
足元を見ると石がいくつも転がっていたので、そのうちのひとつを手に取り、洞穴の右側にある斜面へ向けて思いきり投げつけた。
途中にある木の枝や背の高い草を掠めて音を立てながら、石は一直線に斜面へとぶち当たる。
変化はあるのか。
洞穴に注意しながらも周囲を警戒した。
しばらく経ったが誰も現れない。
誰も待ち受けていないようだ。
――――――――
主人公は「草深い森」「洞穴」「石」「斜面」「木の枝や背の高い草」の順番で認識していったことがわかります。
順番を入れ替えれば主人公が認識した順番も変わります。
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足元に大小さまざまな石が転がっている草深い森のなかを歩いている。
背の高い草や木の枝を掻き分けながら進んでいくと、目の前に洞穴が見えてきた。
あたりを見渡してみるが、何者かが潜んでいるような気配はしない。
手頃な石を拾い上げて、洞穴の右側にある斜面へ向けて思いきり投げつけた。
途中にある草木を掠めて音を立てながら、石は一直線に斜面へとぶち当たる。
変化はあるのか。
洞穴に注意しながらも周囲を警戒した。
しばらく経ったが誰も現れない。
誰も待ち受けていないようだ。
――――――――
先ほどと同じ場面です。
今回主人公は「石」「草深い森」「背の高い草や木の枝」「洞穴」「斜面」の順番で描いてあります。
同じ場面のはずですが、書かれた順番を変えただけでこうも文章が変わってしまうのです。
これが「主人公が認識した順番」の違いになります。
地の文を書くには、ある程度「順番」を考えましょう。
右から順番に、左から順番に、上から順番に、下から順番に、手前から順番に、奥から順番に、過去から順番に。
順番に書くだけで読み手はすぐ順番を把握して、イメージが湧きやすくなります。
これは「読み手にやさしい書き順」です。
視線誘導するのが地の文の役目
このように「読み手の視線を誘導する」のが地の文の役目です。
イラストであれば空間のどこにどのくらいの大きさのものを描くかで見せなければなりません。
マンガならコマ割りを工夫してわかりやすくする必要があります。
絵で「読み手の視線を誘導する」ことはとても難しいのです。
しかし小説は「書いた順番」がそのまま「視線誘導」になります。
読み手は「読んだものから順に」存在を認識していきます。
逆に言えば「書かれていないことは存在を認識しない」のです。
「存在を認識していない」ことを利用して読み手の死角から突如お化けが現れたらどうでしょうか。
まったく意識していなかったわけですから、きっとびっくりしますよね。
小説でこれをやろうとすれば、たいていの場合不評を買います。
完全な「後出しジャンケン」だからです。
たとえるなら書き手と読み手は文字を通じて「ジャンケン」をしています。
文章から察せられる書き手の意図が、読み手の想定に沿うならすらすらと読めるのです。
異なっていれば意表を突かれて「してやられた」と痛快さを味わえます。
しかし「後出しジャンケン」はいけません。
読み手が想定するパターンは、これまで地の文や会話文に出てきたものから類推できるものだけです。
そのパターンの中で意表を突くから「してやられた」痛快さは生まれます。
もしこれまで地の文や会話文にまったく登場しなかったことが、突然現れて状況を変えてしまったとしたらどうでしょう。
「なんでそうなるんだよ」と読み手が憤ります。
「後出しジャンケン」つまり「存在を認識していない」ことを利用して読み手の死角から突如お化けが現れたとしたら。
「なんでそうなるんだよ」と不評を買うだけです。
それまで感情移入して読んできた読み手も、このような「後出しジャンケン」が出た途端に冷めてしまい、あれだけ夢中になって読んできた小説がその場で「つまらないもの」に豹変してしまいます。
「後出しジャンケン」にならないようにするために、「
最後に
今回は「地の文の流れが主人公の認識した順番」について述べてみました。
主人公の性格もわかりますし、認識した順番もわかります。
認識していないことを突然持ち出すのは禁断の「後出しジャンケン」なのです。
「後出しジャンケン」とならないために、重要な情報には必ず「伏線」を張りましょう。
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