386.深化篇:わかりやすく書く

 今回は「わかりやすく書く」ことについてです。

 わかりやすい小説とは「マンガのような小説」です。

 それに最も近いのが「ライトノベル」であることは、本コラムをお読みの方であればおわかりいただけるのではないでしょうか。





わかりやすく書く


 小説を書くとき、つい格式や格調を高くしようと小難しい文章を書いてしまうことがあります。

 しかし多くの読み手は小難しい小説を読もうとはしません。

 ピーター・ファーディナンド・ドラッカーの『マネジメント』を上田惇生氏の翻訳本で読もうと思う中高生などまずいないのです。

 しかし岩崎夏海氏『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(『もしドラ』)はどうでしょうか。こちらは百万部を超える大ヒットを記録しました。

 小難しい文章は読むことに高いハードルを感じさせます。

 しかしわかりやすく書くことで、同じ内容なのに売上は桁違いなのです。




わかりやすい文章

「わかりやすい文章」とはそもそもなにか。

「わかりやすく書く」とはそもそもなにか。

 そこから述べていきたいと思います。

 まず「わからない文章」とは、ただ単に情報を書き連ねた状態です。

 難しい単語が雑然と書かれていて、どこに「重要な情報」があるのか、パッと見で見分けがつかないのであれば「わからない文章」と言えます。

「わかりやすい文章」とは、わかりやすい語彙を用いて、どこに「重要な情報」が書いてあるのか、パッと見で見分けられる文章です。

 この違いを最もよく表しているのが「漢文」と「マンガ」だと思います。


 難しい単語が雑然と書かれているのは「漢文」です。

 どこをどうやって読めばいいのか。レ点などをもとにして読み下し文を考えなければなりませんし、読み下し文をさらにあなたの頭が理解できるところまで平易な日本語に変換しなければなりません。

 当然どこに「重要な情報」が書いてあるかは最後の最後までわからないのです。

 本当に必要な内容なのに、その敷居の高さのせいで内容を読んでもらえない文章の典例だと言えます。


 わかりやすい語彙を用いて書かれているのは「マンガ」です。

 ページを開けばコマ割りした絵がバンと脳裡に焼きつきます。

 効果音や擬態語などが書き文字で書いてある。インパクトがありますよね。

 そしてキャラクターの会話は必要最小限であり、その中に「重要な情報」が書いてあるのです。

「重要な情報」はマンガにしたほうが伝わりやすい特性があります。

 現に昨今のビジネス書籍の世界では、十万部程度販売された書籍をマンガにして、さらに多くの人に読まれるように仕掛けられているのです。

 ウソだとお思いでしたら、近所の書店のビジネス書籍コーナーへ行ってみてください。

 かなりの書籍がマンガ化されていることに気づくはずです。 




マンガとライトノベルの相性

 マンガが「わかりやすい文章」のお手本です。

「それは小説ではないので参考にならない」とお思いの方もいますよね。

 あえてマンガとしたのは、皆様の多くが書こうと思っている「ライトノベル」と関連づけてほしいからです。

 マンガは「ライトノベル」との相性がとてもいい。

「ライトノベル」を一文で述べるなら「文字だけで書いたマンガ」です。

 難しい単語はいっさいなく、地の文も一般文芸と比べて少なめで、会話文に「重要な情報」が書かれています。


「ライトノベル」に限らず、小説には「テーマ」が必要です。

 ですが、一般文芸では「テーマ」が複数内包されています。

 対して「ライトノベル」はほとんどの作品で「テーマ」がひとつです。

 伝えたいことは唯ひとつ。

 だからこそ「ライトノベル」は多くの読み手に支持されるのです。

 一般文芸は近年発行部数が減り続けています。

 しかし「ライトノベル」は出版不況の中でも右肩上がりで成長を続けているのです。

 なぜか。

 書き手が作品に込めた「テーマ」が唯ひとつあるのみ。

 とてもわかりやすいのです。


 また「ライトノベル」は中高生を主要層にしていますので、難しい単語もいっさい出てきません。

 読み手の語彙に収まる単語しか用いていないのです。

 これが一般文芸であれば、難しい単語や言い回しをしていないと「下等」とみなされてしまいます。

 実際「ライトノベル」は一般文芸の書き手からは「下等」に見られているのです。

 ですが発行部数、実売部数を比べれば、ライトノベルのほうが売れているのです。

 シリーズ累計一千万部超えも「ライトノベル」ではいくつかあります。

 しかし一般文芸でここまで売れている作品はまずありません。

 押しなべてしまえば、西村京太郎氏『十津川警部』シリーズ、内田康夫氏『浅見光彦』シリーズといった、主人公が同じ作品を一括りにしたときにようやく出てくる程度なのです。

 ちなみにマンガは「ライトノベル」よりさらに桁が上で、尾田栄一郎氏『ONE PIECE』は世界累計二億部超、青山剛昌氏『名探偵コナン』は国内累計一億部超と、小説よりも圧倒的に売れています。

 一般文芸であれば初版五千部は完売することさえ難しい数字なのです。

 これで「わかりやすさ」が売上に直結することは明らかだと思います。


 これから小説を書こうとしている方は「ライトノベル」を書きましょう。

 これまで何本も書いてきた方は「ライトノベル」のような「わかりやすい文章」になるように試行錯誤を繰り返してください。

「わかりやすさ」は小説投稿サイトでも重要な要素です。

 閲覧数(PV)がいくら高くても、読み続けてくれるかは「わかりやすさ」がひとつの基準になっています。

「わかりやすい」からすらすら読めて内容が楽しめるのです。

 当然ブックマークが増えますし、評価やいいねも増えてきます。




ワンテーマに絡める

「ライトノベル」は基本的にひとつの「テーマ」つまり「ワンテーマ」で書かれています。

 しかしそれだけかと言えばそうでもなく、実は「ワンテーマ」に絡めた「サブテーマ」がついてくるのです。

 たとえば「家族愛」の「ワンテーマ」に絡めて「友情」だったり「恋愛」だったりを繰り広げる。

 でも伝えたいのは「家族愛」のほうですから、「友情」も「恋愛」もすべて「家族愛」につなげて結びます。

 こうすることで他の「テーマ」を書いたとしても、「ワンテーマ」であることが守られるのです。

 伏見つかさ氏『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『エロマンガ先生』は「兄妹愛」が「ワンテーマ」の作品ですよね。

 自分の作品はどんな「ワンテーマ」で書きたいのか。

 これを明確にすることが「ライトノベル」には求められます。





最後に

 今回は「わかりやすく書く」ことについて述べてみました。

 ドラッカー氏の上田惇生氏訳『マネジメント』は読めないけれど、岩崎夏海氏の『もしドラ』なら読める。

 それは圧倒的に「わかりやすい文章」だからです。

 難しい言葉を並べることは、記憶力のよい方なら誰にでもできます。

 ですが、それで万人が理解できて満足する小説が書けるわけではないのです。

 万人が理解できて満足する小説は「わかりやすい文章」であることが多い。

 そして「わかりやすい文章」で書かれた小説こそが「ライトノベル」なのです。

『もしドラ』はビジネス書籍と言うよりも「ライトノベル」だと言えます。

「ライトノベル」を「下等」に見ている一般文芸は売上を下げ続け、「下等」なはずの「ライトノベル」が右肩上がりを続けているのです。

 どちらの言うことが正しいのか。

 言わずもがなだと思います。



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