深化篇〜深掘りしてみると
379.深化篇:分量を気にせず書いてみる
今回から「深化篇」が始まります。
これまでの説明をさらに深く掘っていこうという意図を持った篇です。
今回は「書き慣れていないのなら分量なんて気にせず書こうよ」と提案しています。
分量を気にせず書いてみる
小説を書き始めた頃、短編小説にしようか長編小説にしようか、迷うと思います。
とりあえず短編小説にしようと原稿用紙七十枚を目安に書き始める。
……のですが到底三十枚に届かなかったり、二百枚を過ぎてもまだ終わりそうもなかったりすることがあるでしょう。
逆に長編小説にしようと原稿用紙三百枚を目指して書き始めたのに、五十枚しか書けなかった。
これらはよくあることです。
書いてみたら短かった
まず短編小説を書こうとして到底届かない程度の分量しか書けなかった方。
これで「あぁ自分には小説を書く才能がないんだ」と思っていませんか。
それ、書く才能がないのではありません。
書く技術が執筆レベルにまで達していないだけです。
ではどうすればいいのか。
再三言及していますが「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の順に作成してください。
物語に組み入れる「エピソード」とそれに含まれる「
短編小説なら「あらすじ」と「箱書き」をきちんと作って「エピソード」と「
ですがあれやこれやと詰め込みすぎると、作品の「テーマ」が複数生まれてしまって読み手を混乱させるのです。
長編小説を書こうとしてまったく枚数が書けないときも、「あらすじ」と「箱書き」を作って「エピソード」や「
そして長編小説では丁寧な「プロット」作りが不可欠です。
「プロット」はシーンの状況説明や参加する人々の会話などが書き込まれます。
この時点である程度分量の目安がつくのです。
シーンを長くする
どうしても作品が短くなる原因は、シーンが短いからかもしれません。
初めて小説を書かれる方には致し方ない部分もあります。
ですが二作目、三作目と作品数を重ねていっても、まだ規定枚数に達しない。
これでは改善意欲がないと見なされます。
シーンを長くする努力をしてみましょう。
まず地の文と会話文をよく見比べてください。
ライトノベルは会話文が主体で、それに状況説明として地の文が載っているような書き方をします。
その前提があるから、どうしても地の文の割合が減ってしまうのです。
それで読み手にイメージを正確に伝えられるのならいいのですが、たいていは明確なイメージが浮かばないと思います。
これが「認識の噛み合わなさ」を生んでいるのです。
小説投稿サイトで「ランキング」上位にいる作品も、たしかに地の文の割合が少ないものが多くあります。
会話を意識しながら書くライトノベルでは、シーンの中の会話文は今書いてあるものだけでじゅうぶんです。
それ以上会話文を付け加えても、たわいのない発言が増えるだけで、作品内で役割を果たす「欠かせない会話文」が増えるわけではありません。
であれば、増やすべきは地の文です。
見えるものを書き、聞こえるものを書く
地の文には大きく分けて「説明」文と「描写」文があります。
ライトノベルの主流である一人称視点を例にします。
「説明」は主人公が「目で見たり」「耳で聞いたり」「肌で触れたり」「鼻で嗅いだり」「舌で味わったり」して得た情報を書く文のことです。
つまり「五感」を書きます。
「描写」は主人公が「感じたり」「思ったり」「考えたり」して得た情報を書く文のことです。
つまり「心で閃いた」ことを書きます。
「説明」と「描写」。わかっているようで、重要度を理解していない人が多いのです。
ライトノベルを書こうとしたとき、多くの書き手はどうしても会話文ですべて説明しようとしてしまいます。
そのほうがラクをしてテンポが生み出せるからです。
ですが会話文で説明していることを、地の文の「説明」で書いたほうが分量を増やせます。
たとえば、
――――――――
「今日は暑いなぁ。今何度だよ」
机の上にある置き時計に付いている温度計を見た。
「三十五度もあるじゃないか。どうりで暑いわけだ。エアコンで部屋を冷やすか」
ピッ。
「あぁ涼むなぁ」
――――――――
のような感じです。
ライトノベルでよく見られる、感覚をそのまま会話文で書く手法です。
書き手の意図通り、たしかにテンポよく話が進みます。
しかしこのペースで丸々一シーンを書いてしまうと、あまりにも分量が減って、短くなってしまうのです。
そこで会話文を極力地の文に変換して「説明」に変えてみましょう。
――――――――
「今日は暑いまぁ。今何度だよ」
机の上にある置き時計に付いている温度計を見た。
表示されている気温は三十五度。どうりで暑いわけだ。
部屋を冷やすためにエアコンを使おう。
机の上に置いてあるリモコンを手にとり、エアコンに向けて「冷房」ボタンを押した。
節電のためにエアコン設定は二十八度が望ましいとされている。
しかし今すぐにでも部屋を冷ましたいから、下限である十六度にセットした。
するとエアコンが急速に冷気を吐き出す。
火照った体に心地よい冷風がそよいできた。
「あぁ涼むなぁ」
――――――――
会話文ひとつを地の文に置き換えてみました。
たったそれだけで途端に書くべきことが増えたのです。
これまでシーンが短くて作品の枚数が稼げなかった方は、とくに会話文を地の文へ変換していきましょう。
長くなってしまう
今度は逆に規定枚数・規定文字数よりも多くなってしまう場合です。
小説賞・新人賞で原稿用紙三百枚、十万文字前後と規定されているのに、書きたいように書いたら六百枚、二十万字まで膨らんでしまうこともあります。
その場合は「登場人物の数」を減らしてください。
ひとり減らすだけで相当な分量を削れます。
でもここまで書いてくると登場人物に愛着も湧きますよね。
その場合は「テーマ」をひとつ減らしてください。
このときの「減らす」は「強度を削る」ことです。
物語はメインの「テーマ」の他にそれを補強するサブの「テーマ」を用意しています。
「家族愛」をメインにし、「仲間との絆」「勧善懲悪」をサブにすると、それだけでとんでもないほど大きな物語になってしまうのです。
この三大テーマはマンガの北条司氏『ANGEL HEART』から拝借しました。
だからこそ『ANGEL HEART』は同氏『CITY HUNTER』を超える大型連載となったのです。
このうち「勧善懲悪」を減らせばアクションが見せられません。
「仲間との絆」を減らせば人間関係が希薄になって物足りなくなってしまいます。
『ANGEL HEART』は終盤、連載終了に向けてやや「勧善懲悪」の強度を減じていったのです。
そうすることで読み手は「連載終了が近いのでは」と感じるようになりますし、実際近いうちに連載が終了しました。
書き慣れていないうちは、ひと作品ワンテーマで書くべきです。
物語に深みを出そうと「テーマ」を複数用いるから、作品は長くなってしまいます。
分量を気にせず書く
このように短ければ地の文を増やし、長ければ「登場人物の数」「テーマ」を減らします。長い場合は「
しかし、これらは初心者にはなかなか難しいことです。
初心者であれば「分量を気にせず書いて」みましょう。
小説賞・新人賞へ応募したいのであれば、ある程度書き慣れて分量のコントロールができるようになってからのほうがよいのです。
初心者のうちは書きたいものを「書きたいように書けば」いい。
メリハリは書き慣れてから意識すべきです。
短編小説の規定よりも短すぎたのなら、そのままショートショートとして投稿すればよい。
長編小説の規定より長すぎたのなら、そのまま連載小説にすればよい。
初心者は「書きたいように書く」のが最善なのです。
時をおいてから振り返る
評価が付かなくてもへこたれず、自分が書きたいものを「書きたいように書く」。
そしてある程度書き慣れてきたら、いったん過去作を振り返りましょう。
「なんでこんなところでこんな表現をしているのだろうか」「ここはこうすべきではなかったのか」ということが改めて見えてきます。
書きあげた当初や一日二日、一週間、一か月では見えてこないかもしれません。
三か月や一年くらいは空けたほうが「反省すべき点」は目につきやすくなります。
「反省すべき点」を見つけたら、次作で必ず改善しましょう。
そうすれば独学でもどんどんレベルアップしていけますよ。
最後に
今回は「分量を気にせず書いてみる」ことについて述べてみました。
短かったら地の文を増やせばよい。
長かったら登場人物の数かテーマか
ですがこの調整は、ある程度書き慣れていないと要領よくこなせません。
まずはあなたがひとシーンを何十枚、何千字で書けるかを知ることです。
そうすれば「あらすじ」の段階で「エピソード」を増減させたり、「箱書き」の段階で「シーン」を増減させたりして、執筆を開始するより前から三百枚、十万字に収まるように調整することもできます。
だから、初めのうちは「分量を気にせず書いてみる」ことに集中してください。
それで短編小説よりも短いのならショートショートにすればよい。
長編小説よりも長いのなら超長編小説や連載小説にすればよい。
そんな軽い気持ちで小説を書き始めてみませんか。
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