328.執筆篇:連載の起承転結
今回は「連載の起承転結」についてです。
これまで述べてきたのは「三百枚の長編小説における起承転結」になります。
しかし連載小説には、長編小説とは異なる「起承転結」が求められるのです。
連載の起承転結
小説は「起承転結」の四部構成が基本とされています。
しかし連載小説では長編小説用の「起承転結」では合いません。
なぜ連載小説には「起承転結」が使えないのでしょうか。
導入部は主人公を立てる
連載小説は長編小説と異なり、一投稿あたりの分量が少なくなります。
しかも連載が終了するまで物語は続いていくのです。
連載小説は毎回の投稿の導入部で必ず「主人公を立てる」必要があります。
連載のどこから読んでもしっかりと「主人公が立っている」こと。
そうでなければ連載を続けるごとにフォロワーが増えていくような連載小説にはならないからです。
そこで連載小説の第一部は「主」や「起」とします。
毎回導入で「主人公を立てる」ことで、どこから読み始めても物語がおいしくなるのです。
では「主人公を立てる」にはどうすればよいのか。
これは明確で、どのレベルの書き手にも使える魔法のような方法があります。
「主人公が出来事を起こす」か「主人公に出来事が起こる」かすること。
つまり「主人公を動かす」ことです。
たとえば太宰治氏『走れメロス』は「メロスは激怒した。」で始まることで有名です。
いきなり動いていますよね。
川端康成氏『雪国』の「国教の長いトンネルを抜けると雪国だった。」も鉄道に乗って新潟県越後湯沢に主人公・島村がやってきたところで始まるのです。
メロスのように自分から動いてもいいですし、島村のように動かされてもいい。
とにかく主人公を動かしてください。
そうなると「主人公を走らせてみようか」「主人公が相手を斬り倒してみせようか」「主人公がいきなり殴られてみようか」といろいろと考えられると思います。
本当にいろいろなことが考えられるのですが、多くの書き手が見過ごしてしまう動作がひとつあるのです。
ちょっと考えてみてください。
答え合わせです。
それは「主人公を動かさない」ことです。
「ちょっと待ってよ。『主人公を動かせ』と先に言っておきながら『主人公を動かさない』なんて矛盾しているじゃないのか」とお思いのことでしょう。
しかし「動かさない」ことはそれ自体が「動作」なのです。
今からあなたに「十分間黙って立っていてください」と言ったとします。
ただ「立っている」だけで動かないでいること。
それ自体が「動いている」ことだということが体感できますよね。
マンガのさいとう・たかを氏『ゴルゴ13』のデューク東郷は、標的を確実に仕留めるために狙撃地点で伏せて何時間でもA16ライフルを構えてスコープを覗き続けているのです。
この「動かない」ということからデューク東郷の強靭な精神力を物語っていて「キャラが立って」いますよね。
「主人公を動かさない」で機会を窺う。
それも立派な動作であり、「キャラを立てる」ことに繋がるのです。
主人公の動作が起こるか、主人公に動作をさせるなにかが起きるのか。
つまり「起」ですよね。
展開部は謎を追う
導入部で「主人公を立てる」ために主人公を行動させました。
すると「なぜ主人公はこんな行動をしているのだろうか」と疑問が湧いてきませんか。
なぜだろう。ミステリアスな雰囲気がします。
展開部はこの「なぜこんな行動をしているのだろうか」の理由を追う部分です。
そこで連載小説の第二部は「謎」や「問」とします。
毎回導入部で示された「主人公の行動」にはどんな背景があったのか。
その行動によって状況がどう変わっていくのか。
それを探すのが展開部です。
先ほどの『ゴルゴ13』の例では「標的を確実に仕留めるために、スコープを覗いたまま動かない」という理由を読み手に示すことになります。
過去に遡ってどんな依頼を受けたのか。それによりどんな狙撃をしなければならないのか。なぜその場所を狙撃地点に定めたのか。どうして何時間も機会を窺い続けなければならないのか。
そういった導入で提示された行動に対する「謎」を読み手に示すことが展開部の役割です。
田中芳樹氏『銀河英雄伝説』では、なぜ主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムは銀河帝国皇帝の地位を目指しているのか。
姉アンネローゼ・フォン・グリューネワルトを皇帝フリードリヒ四世から取り戻すのが第一の理由です。
そしてルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが銀河帝国を興したように、自らも新たな帝国を建立できるかに挑むのが第二の理由となっています。
この二点を幼馴染みであるジークフリード・キルヒアイスと誓い合ったことが第三の理由です。
ですが現在の自陣営には宮廷工作を得意にするタイプの人材がいません。
そこに現れたのが、のちにラインハルトの影となるパウル・フォン・オーベルシュタインです。
智謀ではラインハルトやキルヒアイスに比肩しながらも、つねに状況を冷徹に判断し合理的な解決策を提示できる人物になります。
だからラインハルトは打算からオーベルシュタインを配下にするのです。
「なぜこんな行動をしているのだろうか」の謎を明かしていくのが展開部になります。
解決部は答えを示す
展開部で主人公が導入部で行なっていた行動に対する謎や理由が明かされていきます。
解決部では導入部の行動と展開部の謎や理由を文字通り「解決」して「答え」を出していく部分です。
「あれ? ここで物語を「解決」させてしまうと第四部はどうなるんだろう」と感じるのは当然でしょう。
でもご安心ください。連載小説での第四部は「結末」を意味しないのです。
第四部でストーリーの根幹にかかわる「謎」や「問い」に対し、「答え」には近づけても「答え」そのものは出ません。
なので安心して第三部で今回の投稿ぶんの「答え」を出してください。
そこで連載小説の第三部は「解」や「答」とします。
しかし読み手が安易に予想できる解決方法はとらないようにしましょう。
解決方法が見抜かれてしまったら、その時点で読み手が連載を追ってくれなくなります。
「そんな解決方法があったのか!」と読み手に思わせてこそ解決部は読み手を強く惹きつけるパートになるのです。
もちろん主人公の能力を最大限に活かしてください。
主人公の思いつきだけで「謎」や「問」が「解決」して「答え」が出てしまったら、それまで熱心に読み進めてくれていた読み手が一気に興醒めしてしまいます。
できれば主人公をいったんどん底まで叩き落としてみましょう。
そこから主人公が「対になる存在」にどうやって勝つのか。
その解決方法なら読み手の想像を超えることは意外と簡単にできます。
『ゴルゴ13』であればデューク東郷がライフルの引き金を引いて標的を見事に仕留めるのです。
導入部でライフルを構え、展開部でその理由を語り、解決部でミッション終了になります。
ただし『ゴルゴ13』はショートストーリーの完結型で話が進みますので、標的を仕留めたところで連載が終わることが多いのです。
第四部の惹起部を用いず、ショートストーリーをきっちりと完結させて、物語としての継続性を無くしてしまうという構成をとっています。
この構成はマンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』でも用いられているのです。
まず被害者と関係者が登場して事件が起こる導入部。
コナンが現場検証をして関係者のアリバイや裏話などを聞き、事件の真相を推理していく展開部。
推理で判明した犯人を名指しして自白に追い込む解決部で構成されています。
ただし『名探偵コナン』最大の謎である「黒の組織」関連の事件であるときだけは、惹起部を用いて先々の展開が気になるように仕組むのです。
あくまでもショートストーリーとしてのシリーズだけが『ゴルゴ13』と同様三部構成になります。
『銀河英雄伝説』では、オーベルシュタインを手に入れたラインハルトが、門閥貴族たちによるリップシュタット連合に完勝し、返す刀で宰相リヒテンラーデ公爵一族を討伐しました。
代償はかけがえのないほど高くつきましたが、待ち望んでいた銀河帝国における独裁権を手に入れたのです。
惹起部は次回以降へ読み手を煽る
解決部で導入部の主人公の行動の結果が出ました。
それを受けて第四部ではメインストーリーへの影響を書いて読み手の期待感を高めるのです。
「メインストーリーの謎」の「解決」に一歩近づけてもよいですし、さらに「メインストーリーの謎」を増やしてもよい。「メインストーリーの謎」に絡んでくるのではないかと思われる人物を登場させてもよい。
とにかくメインストーリーに絡めて、次回以降の進展を読み手が心待ちにしてくれるように取り計らうのが惹起部ということになります。
そこで連載小説の第四部は「惹」や「変」とします。
読み手を惹きつけるシーンを読ませて、メインストーリーに変化をもたらし、読み手に続きを予想してもらおうということです。
惹起部を最も効果的に用いているのは先述の『名探偵コナン』でしょう。
「メインストーリーの謎」である「黒の組織」に関連するような事件を解決したり、「黒の組織」とかかわっていそうなミステリアスな人物を登場させたりして二十年以上の連載を続けています。
「黒の組織」とかかわっていない事件の場合は惹起部を作りません。
だから読み手も「あ、このエピソードは『黒の組織』とは無関係なのか」と割り切って読むことができるのです。
同じく二十年以上の長期連載マンガであっても尾田栄一郎氏『ONE PIECE』や森川ジョージ氏『はじめの一歩』では惹起部をほとんど用いていません。
双方とも誰かとバトルするだけで、「メインストーリー」を進ませるような展開がほとんどないのです。
『ONE PIECE』は主人公モンキー・D・ルフィはまだ「ひとつなぎの秘宝」にたどり着けそうにありませんし、『はじめの一歩』も幕之内一歩が宿命のライバルである宮田一郎と交わした「最高の舞台での再戦」が叶いそうもありません。
双方とも週刊マンガ誌の看板タイトルであり、最も読まれている作品です。
にもかかわらず『名探偵コナン』のように「メインストーリーの謎」を進めていくような展開がほとんど見られません。
これでは二百巻くらいまで連載しないと終わらないのではないかと思わせるほどに。
惹起部があるから読み手は飽きずに連載についてこれます。
それは小説も同じです。
『銀河英雄伝説』は銀河帝国で独裁権を確立したラインハルトが自由惑星同盟へと攻め込んで打倒し銀河を手に入れることが「メインストーリー」です。
それに伴って各巻の終わり際で見事な「惹き」を使って読み手の興味を煽っています。
これは田中芳樹氏の別作である『アルスラーン戦記』でも同じでした。
各巻の終わり際で見事な「惹き」を提示しています。
だからこそ田中芳樹氏の連載小説は二、三十年続こうとも読み手が続巻を期待して待ってくれるのです。
『銀河英雄伝説』に至ってはラストにとても強力な「惹き」を用いたため、読み手に「この続きを書いてほしい」と思わずにはいられないような状況を生み出しました。
「惹き」はそれほど強力な渇望感を読み手に植え付けます。
あなたの連載小説でフォロワーさんを増やしたいと思っているのでしたら、ぜひ惹起部を活用して各投稿ぶんのラストに次回以降への「惹き」を作ってみましょう。
最後に
今回は「連載の起承転結」について述べてみました。
上記した四部構成をまとめると「主謎解惹」「起問答変」という形になります。
文字は異なりますが言いたいことはまったく同じです。
「主人公を動かす出来事が起こるか、主人公が動いて出来事を起こすのか」「なぜ動いたのか」「動いた結果どうなったのか」「メインストーリーに与える変化や次回以降への惹きを作る」の四部構成になります。
もちろんショートストーリーの一話完結やシリーズ完結などで「惹き」を作らない連載も可能です。
でも「惹き」があると読み手の食いつきがまったく違ってきます。
できれば「惹き」をうまく用いて、読み手に「この先が読みたくてしょうがない」と思わせてください。
そうすればブックマークやストーリー評価も必ず高まりますよ。
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