320.執筆篇:キャラが勝手に動き出す

 今回は久しぶりに「キャラが勝手に動く」ことについてです。

 どんなに緩く人物の設定をしていても、連載していくと設定が固まってきます。

 そうなると完璧な「プロット」を作っていたとしても違和感を抱くようになるのです。





キャラが勝手に動き出す


 これまでにコラムNo.7「キャラは勝手に動き出すのか」、No.113「応用篇:キャラは勝手に動き出すのか【動機】」で述べてきたことを、今この段階で再度提起したいと思います。




完璧なプロットは連載で崩れる

 私は「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の順で創作していくことをオススメしています。

 物語が破綻しづらいからです。

 では物語が破綻していない「プロット」が完璧なのでしょうか。

 ここまでお読みいただいた方であれば、少し懐疑的になっているかもしれません。

 キャラ(登場人物)の設定を完璧に作り込んだとしたら「プロット」どおりの行動をキャラがとってくれるのかどうか。いささか不安があります。

 なぜなら、キャラの設定ががっちり固められていると、そのキャラの行動は設定に縛られてしまうからです。

 つまり「プロット」どおりに動いてくれません。


 そしてある状況に陥ったら、設定で固められたキャラは勝手に動き出してしまうのです。

 勝手に動くには「動機」が要ります。

 その「動機」の元となるのが「固めたキャラ設定」なのです。

 私はこれまで「キャラ設定は緩く作っておく」ように書いてきました。

 状況に差しかかったキャラの言行が読み手に違和感を与えないためです。

 ですが連載を続けていけば、当初緩かったキャラ設定もどんどん固められていきます。

 そうなると、これからのキャラの言行は当初の「プロット」どおりに動かせなくなる可能性が高まるのです。

 結果として完璧な「プロット」だったはずなのに、「キャラが勝手に動き出し」ます。

 そうです。連載が続いていくほど「キャラが勝手に動き出す」のです。

「キャラが勝手に動き出せ」ば、完璧な「プロット」が崩れてしまいます。

 代わりとして物語に躍動感が生まれるのです。

 完璧な「プロット」のレール上を走るだけだったはずが、自動車のようにいつでも進行方向を変えることができるようになります。

 そこで生まれる躍動感は、完璧な「プロット」を崩してでも取り入れるべきなのでしょうか。




プロットを押し通すと

「キャラが勝手に動き出す」と「プロット」が崩れます。

 であれば「プロット」が崩れないようにキャラの設定を変えてしまえば良さそうに感じませんか。

 たしかにその場限りの判断であれば問題ないのです。

 ですが、連載を長く続けてきて固められてきたキャラの設定を、その場限りで改変してしまえばどうなるでしょうか。

 読み手は「このキャラがこんなことするはずないじゃないか」と思って憤慨します。

 場合によっては、それまで楽しく読んできた読み手が作品から離れていってしまうのです。

 しかもそれが一回であればまだしも。

「プロット」とキャラの整合性がとれないところをすべて「プロット」どおりにキャラの設定を改変してしまえば、キャラの性格や判断が支離滅裂となり、もう誰も続きを読もうだなんて思わなくなります。

 完璧な「プロット」を押し通したことで、物語の面白さが失われてしまうのです。

 そうなると完璧な「プロット」はかえって読み手に受け入れられないものとなってしまいます。

 本末転倒ですね。




プロットを変更する

 であれば「固まったキャラの設定」は変えず、「プロット」を変えるべきです。

「プロット」はあくまでも執筆前に定めた方向性にすぎません。

 もちろん「プロット」を変えてしまうと、物語がどこに落ち着くのかわからなくなります。

 途中の「プロット」を変えても、軌道を修正して本来の「結末エンディング」までたどり着けるのならまだいいのです。

 問題は「プロット」を変えると、本来想定していた「結末エンディング」ではつじつまが合わなくなるとき。

 この場合は「結末エンディング」そのものの変更が必要になるのです。

 一度立ち止まって小説を頭から読み直し、どのような「結末エンディング」ならこれまでの展開の落としどころとしてすぐれているのか。それを見極めなくてはなりません。

 もしこの作業に自信がないのなら、「プロット」を押し通す以外に道はなくなります。

 だからいきなり連載小説を始めるよりも、まずは長編小説を何本か書きあげて「プロット」と「キャラの設定」のバランスのとり方を身につけておくべきです。




プロットの柔軟性

 上記のように、連載小説では当初の「プロット」と、連載を続けてきて「固まったキャラの設定」の乖離は必ず発生します。

 私は「キャラ設定を緩く作るよう」に言ってきましたが、連載している限り「キャラの設定」は書き手の意志とは関係なく固まってしまうものなのです。

 そこで「プロット」の側にも柔軟性を持たせておくことが考えられます。

「プロット」の柔軟性という言葉から、「プロット」も緩く作っていいんだ、とは思わないでください。

「プロット」は当初からきっちりと組み上げておくべきです。

 そのうえで、書き手の「頭の中を柔軟」にします。


 こんなエピソードが思い浮かんで、なんとかして作品に入れたいと思うことは誰にでも起こります。

 対処法は、思い浮かんだエピソードを無視して当初の「プロット」どおりに進めるか、エピソードを取り入れてその先の「プロット」を変更するかです。

 当初の「プロット」どおりに進めた場合、作品の躍動感は生まれません。

 でも物語の先行きが怪しくなることはないのです。

 それに対し、エピソードを取り入れてその先の「プロット」を変更すれば、物語の「結末」が想定できなくなりますが、作品に躍動感が生まれます。

 その代わり、変更してから「プロット」を練り直しつつ連載を続けていく必要があるのです。

 初心者ではまず手に負えなくなります。

 この点でも、まずは長編小説を何本か書いておくことがオススメなのです。

 小説の経験値が高まれば、突発的なことが起こっても冷静に対処できるようになります。

 そうなってから連載小説を始めても遅くはありません。





最後に

 今回は「キャラが勝手に動き出す」について述べてみました。

 小説を連載していると、必ず「こんなエピソードを入れたいな」という誘惑が襲ってきます。

 取り入れれば時事性もありますし、想定外のキャラの反応が生まれたりと、作品に躍動感が生まれるのです。

 でも初心者はその先の「プロット」変更に難渋することでしょう。

 慣れないうちは当初の「プロット」どおりに書き進めるべきです。

 連載に慣れてくれば、一回「プロット」のレールから外れてみて、また元の「プロット」に戻れないかを模索してください。

 どうしても戻れそうもなければ、潔く「結末エンディング」を変えましょう。

 その結果「佳境クライマックス」にも当然影響が出てきます。

 それらすべてに対処できるようになれば、あなたはすでに中級以上の書き手です。

 小説の内容次第では上級者と言ってもいいでしょう。



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