318.執筆篇:出会いで物語は進む
今回は「出会い」についてです。
小説は主人公ひとりでは話が進みません。
誰かと出会うことで、物語が動き始めます。
出会いで物語は進む
小説は主人公ひとりだけで進められることはまずありません。
何度も語っていますが「牧歌的」に過ぎるからです。
ではなぜ他の人物が登場するのでしょうか。
出会いから幕が上がる
主人公が他の人物に出会うと、そこに人間関係が生まれます。
ひとりと出会えば、主人公とその人の間につながりが生まれるのです。
それが協力的になるのか、対立的になるのかは、書き手が自由に決めてください。
どの順番で登場させてもいいのです。
先に協力者を出してから対立者が現れたり、逆に対立者を出してから協力者を出したりします。
一般的な小説では「先に対立者」パターンです。
まず主人公が対立者と出会って自身の無力さを思い知らされる。対立者を超えようと奮い立って旅に出ます。
その過程で協力者が増えていきパーティーを組むのです。
パーティーを組むタイプのゲームではこの「先に対立者」パターンが多く見られます。
エニックス(現スクウェア・エニックス)『DRAGON QUEST』シリーズはたいてい対立者が王国や世界を荒らしてから主人公の冒険が始まるのです。
数名の協力者とともに対立者に戦いを挑んでいくこともあります。
水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』は聖騎士を目指す主人公パーンが親友の神官エトとともに村を悩ますゴブリン退治に出かけますが、早々にピンチを迎えます。
自分たちの無力さを思い知らされるわけです。
そこに魔術師スレインとドワーフ族のギムが駆けつけて最初の冒険はなんとか成功しました。
逆に「先に協力者」パターンの小説もあります。
主人公陣営をまず固めておき、そこに障害が立ちふさがって皆が協力して対立者と戦おう、というのが小説では少ないですがありがちな展開です。
水野良氏『魔法戦士リウイ』は腕力自慢の魔術師リウイが酒場で飲もうとやってきたときに女性三人と数名の騎士による乱闘騒ぎが起きます。
リウイはケンカ好きな性格なためこの乱闘に加わり、迷うことなく騎士のほうをぶん殴るのです。
衛兵が駆けつけてリウイは捕縛されますが、翌日育ての親である大賢者カーウェスによって釈放されます。
そこに件の女性三人が現れて「冒険者仲間に加わってくれ」と頼まれるのです。
これによりリウイは冒険者となるのですが、魔術師なのに女剣士ジーニに剣の稽古をつけてもらいます。
こうやってリウイは「冒険者」として「魔法戦士」へと歩みを進めていくのです。
新しい人と出会わない限り、物語が進んでいくことはありません。
友達だけが集まってワイワイガヤガヤしているだけの小説は面白いのでしょうか。
マンガのかきふらい氏『けいおん!』のように「日常」を描いた作品ならそれもありかもしれません。
でも「ハイファンタジー」でそれをやってしまうと、「ハイファンタジー」である必然性がないですよね。
「ハイファンタジー」ならやはりなにかと戦っている姿を読みたいものです。
であれば、新しい人物を登場させて、平穏を打ち砕きましょう。
協力的な人物は仲間や友人に
協力的になれば自然と仲間意識が湧き、友人関係が築けるかもしれません。
「ハイファンタジー」小説で冒険パーティーを組ませたいキャラはなるべく早く主人公に会わせてください。
賀東招二氏『フルメタル・パニック!』ではプロローグで主人公・相良宗介とヒロイン・千鳥かなめを真っ先に書いています。
それによりこの二人の人間関係が「協力的」であることが示されているのです。
逆に言えば、この二人以外の人物が二人の協力者なのか敵対者なのかがわかりません。
そこから生まれる緊迫感がこの小説を強く支えています。
途中で別れても、物語が進行していくとまた合流して関係を深めるという演出はライトノベルやゲームではもはや定番になったといえるのではないでしょうか。
川原礫氏『ソードアート・オンライン』ではキリトとアスナが当初協力関係でしたが、途中で別れます。
そしてダンジョンを攻略していったときにまたキリトとアスナは協力関係を結ぶのです。
そこから生まれる連帯感がこの小説を強く支えています。
このように「協力的な人物」は主人公を強く支えてくれるのです。
たとえすべてをかなぐり捨てたような主人公であっても、たったひとりでも味方してくれる人や理解してくれる人がいます。
それだけで、人は前を向いて戦えるものなのです。
対立的な人物はライバルや攻略相手に
対立的になれば主人公といがみ合って、ライバル関係になることもあります。
恋愛小説で当初「主人公なんて眼中にない」異性が、主人公との対立を引き起こすのです。
ですが物語が進んでいくと、人間関係の変化とともに恋愛の視界の中に主人公が入ってくるようになります。
異性は主人公のことを今までのように足蹴にすることができなくなるのです。
「物語を進める」には時間の経過を書くことが必要になります。
時間経過の描写だけでは推進力が弱いので、新しい人物を出しましょう。
人物がひとり増えるだけで、主人公陣営や異性との関係を書く必然性が生まれます。
つまり普通に小説を書いているだけで、無理なく物語の時間が経過していくのです。
この場合、新しい人物は協力的・対立的どちらでもかまいません。
娯楽性を高めようとしてゲームのように「剣と魔法のファンタジー」小説で「ラスボス」を倒したと思ったら、読み手にまったく存在を知らせなかった「真のラスボス」が現れた、というような展開にはけっしてしないでください。
ですが、なんの前触れもなく唐突に「真のラスボス」が現れるのではあまりにも場当たり的に過ぎるのです。
「真のラスボス」は存在を匂わせるような描写を早いうちから書いておきましょう。
たとえば「ラスボス」が登場する
そうすれば「ラスボス」を倒したときに読み手が「そう言えばあのときラスボスが誰かに報告していたような……」と思い出すのです。
読み手が思い出したと同時に「真のラスボス」が現れれば「やはりいたのか、真のラスボスが!」と前のめりになって「真のラスボス」戦を見届けようとします。
とくに「真のラスボス」が主人公の「対になる存在」であるなら、必ず早めに読み手へ知らせてください。
人のやりとりで物語が進む
つまり人と出会うことで物語の雛形が生まれるのです。
あとはその人とのやりとりを読ませることで、物語が進んでいきます。
物語のボリュームを出したいとき、単純に言えば「登場人物を増やして」ください。
たとえば中国古典・陳寿氏『三国志』には名のある武将や宦官などが三百名以上登場します。
後漢末から晋による統一に至るまでの百年の歴史を凝縮していますので、三百名でも足りないくらいです。
そのため百年の歴史がありながらも三人称視点で書かれた『三国志』自体はそれほど長い歴史書ではありません。
逆に劉備玄徳と諸葛亮孔明を主人公とした一人称視点の羅漢中氏『三国志演義』は、晋が成立する前の諸葛亮孔明が五丈原の戦場で死んだところに終わりを持ってきています。
それでも『三国志』よりボリュームがあるのです。
『三国志演義』を日本語へ訳して日本人に普及させた吉川英治氏版の『三国志』も十巻を超える大作となっています。日本人の人情に訴える見事な筆致で群像劇のお手本を示しました。
このように「三人称視点」だと物語は短くなり、「一人称視点」だと物語は長くなります。
「小説賞に応募したいんだけど、私の書く小説はどうしても短くなってしまう」という方は、まず「一人称視点」で小説を書いてみてください。
「一人称視点」なら書くべき情報量は「三人称視点」よりも遥かに増えます。
人とのやりとりも傍から見ただけの「三人称視点」より、「一人称視点」のほうが分量を増やせるのです。
長編のメインは四人以上
三百枚の長編小説では最低でもメインの人物を四人は確保してください。
三人だと主人公、「対になる存在」、第三者、主人公と「対になる存在」、主人公と第三者、「対になる存在」と第三者、主人公と「対になる存在」と第三者の計七通りのやりとりしか書けません。
二百八十枚にしたとしてもひとつのやりとりに四十枚割かなければならないのです。
ひとつのやりとりを四十枚も書かなければならないのは正直とても負担が大きい。
四人いれば主人公、「対になる存在」、第三者、第四者、主人公と「対になる存在」、主人公と第三者、主人公と第四者、「対になる存在」と第三者、「対になる存在」と第四者、第三者と第四者、主人公と「対になる存在」と第三者、主人公と「対になる存在」と第四者、主人公と第三者と第四者、「対になる存在」と第三者と第四者、主人公と「対になる存在」と第三者と第四者と、実に十五通りのやりとりが書けます。
単純にいえばやりとりが二倍に増えるのです。
三百二十枚としたとしてもひとつのやりとりを二十枚で書けます。
二十枚は三百枚を起承転結にしてさらにそれぞれを起承転結構造にした際の一節とほぼ同じ長さです。
これなら初心者でも長編の分量を満たすことができます。
もちろんメインキャストが四人ということであり、その他モブキャラは含みません。
また五人以上を出して、やりとりを限定して十六のシーンが作れればそれでもいいでしょう。
最後に
今回は「出会いで物語は進む」ことを述べてみました。
人との出会いはつねに新しい情報や状況を運んできます。
主人公や他の人物がそれに対処することで物語は進んでいくのです。
物語の長さに合わせてメインの登場人物の数を調整してみましょう。
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