315.執筆篇:説明と描写【執筆】

 今回は久しぶりに「説明と描写」についてです。

 前回「事実と判断」を載せたのですが、よくよく考えると「説明と描写」の関係でもあるんですよね。

 そこでストックの中から今回これを選びました。





説明と描写【執筆】


「説明」は対象のデータを書くことです。

 対象の形状や長さや重さや素材などは調べれば揺るぎない「データ」として出てきます。

「描写」は対象を描き写すことです。

 対象の状態また対象から感じたことなどを「語り手の主観」で言葉にします。




説明とは

 サバイバルナイフの「説明」を書いてみましょう。

「刃渡り三十センチメートルで鋼鉄製のサバイバルナイフ」と書きます。

「データ」で調べられることを書くことが「説明」です。

「刃渡り三十センチメートル」「鋼鉄製」はデータで調べられます。


 斧について「説明」を書いてみましょう。

「木の斧」「青銅の斧」「鉄の斧」「銀の斧」「金の斧」といった「なにで出来ているか」は「データ」で調べられます。

「両刃」なのか「片刃」なのかも見ればわかります。

 斧の中でファンタジー小説によく出てくる「戦斧バトルアックス」もインターネットで検索すればどのような大きさでどのような形をしているのかという「データ」を得ることができるのです。重さもある程度調べがつきます。


 このように、調べればわかる「データ」を書くのが「説明」なのです。

「太陽は東から昇って西に沈んでいく」ということも調べればわかりますよね。

 コンピュータが小説を書く時代になったら、コンピュータが真っ先に憶えるのは「データ」を挙げるだけで文が作れる「説明」だということです。

 だから「説明」が書けない人はまずいません。

 もし「説明」も書けないようなら、まずは日記をつけてみましょう。

 文をたくさん書けば「説明」も体得できます。

 時間があれば新聞記事を書き写すのもいいですね。

 新聞記事は「説明」だけで書いてあります。




描写とは

「説明」はデータで調べられることを書きます。

 では「描写」とはどのような文でしょうか。

 対象を見て、文の語り手が「なにを感じた」のか「どう感じた」のか、つまり「語り手の主観」をそのまま書きます。

 つまりデータで調べられないことを書くのが「描写」なのです。

 コンピュータが小説を書く時代になっても、当面の間は「描写」に苦しめられると思います。


 ではサバイバルナイフの「描写」を書いてみましょう。

「抜き身の表面へなにかの油脂が塗られているかのように怪しく輝いている手刀ひとつほどの長さを持つサバイバルナイフ」と書きます。

「なにかの油脂」ということからいろんなことが思い浮かびませんか。メンテナンス用の油なのか、魚や肉を捌いたときに付着した動物性の脂なのか、人を殺傷したときに付いた人間の脂かもしれません。

「怪しく輝いている」というのも「なにか悪いことに使われた」かのような印象を読み手に与えますよね。それこそ人を殺傷したかのような印象です。

「手刀ひとつほどの長さを持つ」はデータではなく「比較」になります。データなら「刃渡り三十センチメートル」でいいのに、あえてなにかと「比較」することで、「比較」した人物の主観を取り入れています。

 こういった「語り手の印象」を「語り手目線」で書くのが「描写」です。


 斧についても見ていきましょう。

「それまで数多のゴブリンをひと振りで両断してきた戦斧バトルアックス」と書けば「説明」になります。

「これまで数多のゴブリンの血を啜ってきた戦斧バトルアックス」と書けば「描写」です。

「それまで数多のゴブリンをひと振りで両断してきた」はインターネットで検索しても出てきません。

 ですが戦斧の由来の「事実」をただ述べているだけで「語り手の印象」は入っていないのです。

 だからこれは「説明」になります。

「ひと振りで両断してきた」も「ゴブリンの血を啜ってきた」も由来であることは同じなのです。

 でも「ゴブリンの血を啜ってきた」と書けば、まるで戦斧バトルアックスに意志があるかのように感じられませんか。

 つまり戦斧バトルアックスに対する「比喩(擬人法)」が「語り手の印象」として書かれているのです。

 だからこれは「描写」になります。




説明と描写のバランス

 では「戦場で長剣ロングソードを抜き払い、進軍を指揮する場面」を例に「説明」と「描写」を書いてみましょう。

――――――――

 愛馬に跨ったまま、腰に佩びていた刃渡り七十センチメートルの長剣ロングソードを引き抜く。

 刃こぼれひとつない刀身を天に掲げて呼吸を整えながら敵軍の様子を見つめやる。

 敵軍の前進が始まったのを確認して長剣ロングソードを前へ振り出し、大声で「前進!」と号令をかける。

 銅鑼ドラが打ち鳴らされると、率いる全軍が隊列を乱すことなく猛然と突き進んだ。

――――――――

 これはすべて調べればわかることばかりで「語り手の主観」が入っていません。

 つまり「説明」だけですね。


 では同じシーンを「描写」で書くとどうなるでしょうか。

――――――――

 長年戦場を駆け巡ってきた息の合う愛馬に跨ったまま、腰に佩びていた長剣ロングソードをおもむろに引き抜く。

 刃こぼれひとつない刀身を天に掲げてゆっくりと呼吸を整えながら敵軍の様子を見つめやる。

 敵軍の前進が始まったのを確認して長剣ロングソードを鋭く前へ振り出し、大声で「前進!」と号令をかける。

 銅鑼ドラが高らかに打ち鳴らされると、率いる全軍が隊列を乱すことなく猛り狂う虎のように突き進んだ。

――――――――

 一文目は「長年戦場を駆け巡ってきた」は「データ」、「息の合う愛馬」「おもむろに引き抜く」は「語り手の印象」です。

 二文目は「ゆっくりと」が、三文目は「鋭く」が「語り手の印象」になります。

 この二つの「語り手の印象」を「コンマ一秒で」のように「データ」で書けば「説明」です。

 四文目は「高らかに」が印象で、「猛り狂う虎のように」が比喩であり「語り手の印象」になります。





最後に

 今回は「説明と描写【執筆】」と題して述べてみました。

「説明」は「データ」でわかるもの、たとえば数値や形状や色といったものを書いた文です。

「描写」は「データ」ではわからないもの、たとえば出来事の印象や感想、時間感覚や空中感覚、手触り肌触りや音色といったものを書いた文ということになります。

 この違いが理解できれば、あなたの作品には「説明」「描写」のどちらが足りないのか、ひと目でわかるのではないでしょうか。

 書き慣れていない人は「描写」が書けません。

 そんなとき一人称視点なら主人公が感じたこと・思ったこと・考えたことをそのまま書いてください。

 対象を「比喩」で書くのもいいですね。

 比喩は語り手の印象が表れるので、どのように感じたのかを書くとそれだけで「描写」になります。



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